何人かがその場を立ち去っている中、ウェイドは1人だけ取り残されているかのように、
その場でずっとうずくまっている娘を発見した。
「あれ? どうかしましたか? 大丈夫ですか?」
その娘はその場でうずくまって泣いていた、ちょうど高校生ぐらいの年齢の女の子のようだった。
「ううっ、私、私……」
当然、放っておくことはできない。
ウェイドは彼女を優しく諭し、手を引くと、そのまま一緒に歩いて行った。
そのまましばらく進んでいると、少し遠めに何やら建物が見えてきた。
「私のお兄ちゃん、あそこで働いているの」
女の子はその建物を指さし、そう言った。
「そうなのですね、じゃあ、あそこまで行きましょうか?」
「いいのですか?」
「もちろんいいですよ。第一、こんな夜遅い時間に、あなたのような娘を1人放っておくわけにもいかないですからね」
「優しいんですね、えっと……」
「私は、ウェイドといいます」
「ウェイドさんですね! 私はエルルーナって言います!」
「ではエルルーナさん、行きましょう!」
ウェイドはそう言った。
ムッツリ症の彼であるとはいえ、対応自体は紳士そのもの――ゆえのムッツリさんである。
そして2人は話をしながら歩き、その建物にたどり着いた。
「さあ、つきましたよ! それではここでお別れです、エルルーナさん」
しかし――
「そんな――せっかくウェイドさんといろいろとお話ができたのに――」
「すみません、今お話した通り、私は旅をしていましてね、仲間も待っていますのでそろそろ戻りませんと――」
「そう、ですよね――でも、お兄ちゃんに会っていってくださいな」
それならば――ウェイドは了承し、2人は建物の中へと入っていった。
中に入ると、そこには多くの戦士たちが集っていた。
「戦士たちの詰め所?」
ウェイドは首をかしげていた。
中は少々ガラガラだが、確かに魔女に対抗しようと集まった連中が集まっているわけか――ウェイド考えた。
すると――
「ウェイドさーん! こっちこっち!」
彼女は建物に入ってすぐ右の階段を上っていた。ウェイドは彼女を追った。
「待ってくださいよー!」
彼女はさっさと先に進んでいく。2階の作りは1階とは違っていくつか部屋があるようだ。
そしてその中の一室――
「ここです!」
そこには屈強というか、ガタイの大きな男がイスに座ったまま眠りこけていた。
そしてその隣には扉が。
「えっ、あの扉の中にいるのですか?」
「ええ、そうです! ぜひ会ってください♪」
扉は鉄でできていてなかなか頑丈そうだった。
「あっ、そうそう! 開けるには合言葉が必要なんです!」
合言葉?
「はい! あそこで寝ている人に”アーカネリアス”って訊ねてみてください!」
”アーカネリアス”……聖獣たちの話にもあった時代の名前が合言葉に使われているのか、
ウェイドは考えた。
しかし、それをどうして自分でしないのか――
「そ、その――私、あの人がちょっとニガテで――」
年頃の娘ならあの手の”オッサン”は苦手意識もあるかもしれないか、ウェイドはそう思った。
「んあ? なんだお前――」
とにかく、ウェイドは合言葉”アーカネリアス”を訊ねた。
「なっ、なんでそれをお前が――って、そうか、お前も新入りなんだな。いいぜ、入んな」
すると男は鍵を取り出し、解錠すると部屋の扉を力づくで開いた。
「うおおおおおおっ!」
あれ、ちょっと待てよ? ウェイドは違和感を覚えた。
というのも、自分はエルルーナの兄に会いに来たハズである。
それなのに何故だろうか、鍵がかかっている部屋――しかも、
こんな屈強な男の力を借りないといけないような扉の中にどうして人が入っているのだろうか?
すると――
「ん? エルルーナさん!?」
彼女は早々に部屋の中へと入って行った。
「……え」
屈強な男もそれに反応した。
2人は部屋の中を恐る恐る覗き込んだ。
「ようやく取り返しましたね――」
取り返したって? すると屈強な男はその様子に驚き、扉を慌てて閉めようとした!
「えっ、マジか!? こいつはちょうどいい!」
えっ、なんだなんだ!? 彼女が部屋にいるのに閉じ込める気なのか!?
いまいち的を射ていないウェイドは男の行動を止めようとしていた。
「止めてくれるなっ! あいつは魔女だ! あの女は魔女だ!
だから、あの女をここに閉じ込めるのだ!」
なんだって!? エルルーナが魔女!?
すると、その男は急に扉を閉めることをやめ、何故か扉を開け始めていた。
「そう――女王様のお通りよ、さっさと開けなさい……」
エルルーナ様は得意げに部屋の中から出てきた。
彼女は先ほどはなかった何かのスカーフを身にまとっていた。
彼女からは甘くてとてもいい香りが放たれていた。
「嫌だわまったく――盗賊狩り盗賊狩りってさんざん語っているようだけど、
あなたたちこそ盗賊でしょう……人のものを盗るだなんて本当にサイテーねっ!」
つまり、その布が……盗まれたもの?
すると、下の階や別室にいる男たちはこの状況に感づいたのか、いきなり行動に出始めた、しかし――
「残念だけど、私には手も足も出させやしないわ。
お前たちは今日から女王シャルアン=エルルーカに忠誠を尽くすのよ!
さあ、女王様のお通りよ! そこに跪きなさい! こうべを垂れなさい!
地面に這いつくばり、女王様への忠誠の証をみせるのです!」
「はい、おおせのままに――」
彼女の誘惑魔法でその場にいたすべての男が彼女のものとなってしまったのだ、ウェイドを含めて――
「なるほど、それは大変興味深い話ですね。
聖獣に触れようというのは少々おこがましいことですが、
私の庭でオイタをするというのなら例え聖獣であろうとも許すわけにはまいりません。
どうやらあなたの同行者にはオシオキが必要ですね――」
「すべては麗しきシャルアン=エルルーカ様の意のままに――」
ウェイドは麗しきシャルアン=エルルーカ様に旅の目的を話してしまっていた。
それにより、すべてはシャルアン=エルルーカ様のシナリオ通りに事が進むことになったのである、
最後を除いて。