クロノーラ・クロニクル

第2章 卯の刻の卯の地の抗争劇

第28節 悲しい男のサガ

 レイは果敢にウェイドに挑んだ!
「ウェイドさん! 正気に戻ってよ!」
「私は正気です! あなた方がシャルアン様に下ればいいのです!」
 レイはウェイドに向かって切りつけた!  当然、彼は盾を使って彼女の攻撃を受け止めていた!  するとそこへウェイドが振りかぶり、レイに剣の一撃を!
「うわぁ!」
 と、レイはその場に思いっきり転倒! 思いっきり倒れこんだ!
「いたたっ……」
 そして起き上がろうとするも、ウェイドはレイに剣を突き付けた!
「さあ、あなたの負けです! 観念するのです!」
 が――レイは驚きながら言った……
「ん……? はっ!! こっ、これが絶景というやつかっ!  この位置からだとシャルアン様のスカートの中がっ!」
 すると、ウェイドはすぐさま反応!
「なっ!? えっ、ななっ!?」
 すると、あろうことか、彼は気が付かれないようにそろっと腰を落とし……バレてるっての。 そしてそろっとシャルアンのほうへと――
「フフッ……ウェイドさーん♪ あんたも男だなぁ!」
 レイの会心の一撃! ウェイドは背中から勢いよくぶん殴られ、その場で気を失ってしまった。 レイが転倒したのはまさに茶番……そう、クラナの耳打ちというのは――

 そもそも彼の彼女らへと接近も下心とは言わないまでも、その程度のことは考えていなくはなかった。 それにラーシュリナのことはじっと見つめていたし、彼女に話しかけられると嬉しくはあった。 無論、レイと彼女が仲睦まじくしているのはずっと羨ましそうに見ていたし、 彼女の胸の中でレイが寝ている様を何度か眺めていたことはあった。 が、それはすべてクラナの知るところでもあった。
 そして、色ボケクソウサギに対してスカートが風でめくれ上がっていると言ったレイだったが、 それに反応したのはウサギだけでなく――
「ウェイドさんってムッツリスケベだったんだね!」
 そう、ウェイドがすぐさま反応して彼女の方へと即座に振り向いていたことをクラナは見逃さなかったのである、 彼の欠点……一応紳士だが、実はムッツリさんだった。
「ん?」
 クラナはマグアスの攻撃に対してしっかりと防御をしている様が。
「テメェもそろそろ死んどけ!」
 レイはマグアスに急接近すると、そのままみぞおちにグーパンを決めマグアスを力の限りぶっ飛ばした。
「ぐはぁっ! こっ、こんなハズ……では……」
 マグアスはレイを前にしてその場で崩れ落ちた……レイは満面の笑みで答えた。
「あー! すっきりした♪」
 積年の恨みを晴らしたのである。

 さあて、残るは魔女のねーちゃんだけ、どうしようかなー♪  レイは得意げに接近していった。
「そっ、そんな! 私の力が崩されてしまった!?」
 いや、どうだろう? 多分、下僕にしたやつが悪かったんじゃあ――レイは考えた。 魔女の誘惑魔法って言ったって別に下僕の基本性質はそのまんまなんだからそれは仕方がない。
 同士討ちとなれば普通は仲間相手だから躊躇うもの、 ところがレイにしてみれば色ボケクソウサギもクソ鳥マグアスもお察しください…… ウェイドについてはあまりにも意外だったが、事情が事情だからレイも一撃ぶん殴ってみたかった。 そのため、その気になれば3名ともにいつでもぶん殴ってやろうという気概、 だから同士討ちだからってレイ躊躇うことは一切考えておらず、いつも通りにやるだけでしかない。
 しかも特に3名のうち2名はいつか思いっきりぶん殴ってやろうと恨み増し増しの状態故、 そんな機会を作ってくれてありがとうと、まさに願ってもない絶好のタイミングだった。
「か、かくなる上は――」
 かくなる上は――と、彼女は誘惑魔法を放った! まさか、ここに数多の下僕たちが……!?  すると、その下僕がさっそうと現れた――大きな犬!?
「レイ、そいつは手ごわいよ、シルヴァンス・ウルフだ! こんなのまで下僕にするとはなんて娘!」
 クラナは注意を促した、確かにディアなんか比べ物にならないぐらい大きな犬、 こんなのに襲われたらひとたまりもないかもしれない! しかし――
「エルド、行って!」
 彼女はその犬の背中に乗り込むと、そのまま一目散に逃げだしてしまった。
「えっ、終わり!?」
 戦わずに済んだ――のはよかったけれども、それでも少し拍子抜けだった。 でも……まあいいか。

「起きろっ!」
 レイは気を失っているマグアスの顔をひっぱたき、強引に起こした。
「くっ、痛っ……なっ何を……!?」
 しかし、マグアスは慌てて飛び起きるとあたりを警戒していた。
「そうだ! 魔女が現れたのだ! くっ、魔女め、覚悟しろ!」
「何を今更! すでに終わってるっての! よく見ろほら!」
 レイは再び顔をひっぱたいてマグアスを正気に戻した。
「痛っ! あ……あれ、まさか……終わっているのか?」
「そうだよ。見ればわかるでしょ」
 レイは冷たくそう言い捨てた。
「む! そうだ! ほかの3人はどうした!?」
 クラナならそこでウェイドさんを起こしているよ……レイはずっと冷たい態度だった。
「うっ、ここは……あなたは……クラナさん?」
「あなた、ずいぶんとあの娘の毒牙にかかっていたようね」
 ウェイドは悩んでいた。