クロノーラ・クロニクル

第2章 卯の刻の卯の地の抗争劇

第27節 七色の魔女

 クラナは悩んでいた。
「やっぱり3人とも魔女の魔法に引っかかっちまったみたいね」
 えっ、3人ともって――
「ああ、あとはあのウサギか……あのウサギだったらしょうがないか――」
 レイは呆れ気味に言うと――
「あん? なんで俺だったら仕方ねぇんだよ!」
 ウサギは全力で怒りをあらわにした状態で登場した。
「だって、魔女の誘惑魔法とか聞いたら、簡単に乗りそうだと思ってね」
「はぁ? この俺がそんなにケーハクそうに見えるのかよ!」
 充分見える! レイははっきりと断言した。すると――
「やっぱり――この雷鳴は魔女に合図を送るためのサインだったのね――」
 クラナがそう言った。
「ええ、その通りですね――」
 出た、魔女だ。しかも、妙に色っぽいというよりは、かわい子ぶりっこして男をたぶらかすのが得意そうな若いねーちゃんだ。
 ひらひらっとした赤紫色のショート丈のスカートが印象的で、 首元に巻いているスカーフがなんともおしとやかな印象を漂わせるようだ。 そんな彼女がひとたび動くと、あたりにいい香りが漂った……この香りまさか――
「私はシャルアン、アルゴーナスの支配者ですわ――」
 と、それに対し――
「はぁい! 美しいシャルアン様ぁ! ボク、シャルアン様がこの世界の女神様になるためならなんでもするよー♪」
 色ボケクソウサギは超嬉しそうに目をキラッキラと輝かせ、”シャルアン様”に向かって尻尾をぶん回していた。
「ケーハクそうに見えるかってどの口が言ってんだこのクソウサギ!」
 レイは再びはっきりと言った。
「うるせいやい! このボクのどこが仕方ねぇっていうんだよっ! このやろう! ばかやろう! ちくしょうっ!」
 しかし、色ボケクソウサギはの態度は”シャルアン様”に対して言ったその調子を崩さなかった。 残念だが彼にとっては威厳のかけらもない、可愛すぎるただの色ボケクソウサギでしかなかった。
 もとい、魔女は――シャルアンの周囲に漂っているのはまぎれもなくプリズム族の誘惑のオーラ……つまり、彼女はプリズム族ということだ。

 男にとってはとてつもなくそそるこの感じ――レイもそれは直感していた、 以前のラーシュリナのそれがまさに物語っていたのである、 だからもし自分が男だとしたら確実に速攻で落ちているのだろう、 現に男3人がこうしてとられている状況―― ラーシュリナの”癒し”でああなんだから彼女との対峙はあまり長居はできそうにないか、レイは剣を握りしめて覚悟していた。 標的はこの可愛げなねーちゃんこと七色の魔女シャルアン、こいつを何とかしてしまえばいいのはわかったけど、 魔女としては同士討ちを狙っているのだろう。
「それにしても、どうしてプリズム族がこんなところで世界征服を企んでいるの?」
 クラナは訊いた。
「ええ、それはこの荒廃した世界が秩序を取り戻すためですわ――」
 秩序を取り戻す?
「世界が崩壊して以降、北に行けば盗賊が、南に行けば盗賊が、 あちこちに盗賊、盗賊って人様のものを奪うような人たちしかいないのでしょうか?  そんな世界ではいけませんね。 だから、せめてこの私の手でこの世の中の状況をよくして差し上げましょう――それだけのことですわ、聖獣様♪」
 そう訊くとなんとも聞こえはいい話なのだが――
「さぁっすが女神様! ボクたちにはできない事を平然とやってのけるッ!  そんな綺麗なキミにシビれる! あこがれるゥ!」
 おい、やめろバカ。
「これが私のすべきことです!」
「そうだそうだ! けしからん! もっとやれ!」
「それを邪魔立てするのであれば、たとえ聖獣様であろうと――仕方がありません……」
「我が女神様の美しさは世界一ィィィィーーーーッ!」
 レイはイラついていた。
「あのさ、クラナ――」
「えっ?」
「……あの色ボケクソウサギがクソ邪魔!」
 言うまでもない、戦闘開――いや、ウサギ狩りを決行だぁ!
「あん? テメェ! 誰にモノを言ってんだゴルァ!  俺は聖獣ディヴァイアスこと、ディラウト=シャルエール!  ここにおわす麗しの女神、シャルアン様のための従順なる下僕とは、この俺のことだあっ!」
 ウサギが凶悪な形相でレイに襲い掛かってきた! が、しかし――
「あっ! シャルアン様のスカートが風でめくれあがってる!」
 レイは慌てて指をさしてそう言うと、色ボケクソウサギは慌てて急ブレーキ!
「なっ!? そいつはきちんとこの目で拝まなければ!」
 そしてものすごく早い反応で即座に彼女のほうへと振り返った! が――
「かかったなこんのクソ色ボケクソウサギがっ! んなワケねえだろうがバカ野郎!」
 レイはクソ色ボケクソウサギの背後から思いっきりウサギを天高くかっ飛ばした!
「ぬわーーっっ!!」
 ウサギをK.O.! 場外へと吹っ飛ばした!

「さあ、次は誰!?」
 レイは得意げに構えていた。すると――
「あの方の元へは行かせません!」
 ウェイドが立ちはだかった、面倒だな、盾役かぁ……レイは項垂れていた。 するとそこへ後ろからそっとクラナがレイに耳打ちをした。
「えっ!? それホント!?」
「ああ、間違いないよ。以前もラーシュリナとあんたのこと……」
 ほう……レイはいいことを聞いた。
「おっと! あんたは私が相手だ!」
 マグアスの魔法攻撃! だが、クラナがとっさに防御壁を張り、防御した!
「ぬぅ……」