ディアに言われた通り、一行はなんとか彼に追いついた。
「何が光よ!」
クラナはもんくを言う。
「えっ、だってあそこに光が漏れているじゃん?」
ディアは指をさした。しかしクラナは――
「は? 何言ってんのよ、まったく何事かと思えば――」
「えええええーーーーっ!? だってー! ねー、レイ!?」
今度は彼女に振るウサギ。しかし、レイは首を振った。
「なんでー!? 俺にしか見えないわけー!?」
ウサギにしか見えないのだろうか、すると――
「光とはあれのことか?」
マグアスが反応した。マグアスの指さす先、それは――夕日の光がわずかに漏れ出ている光景だった。
いやいやいや、あれぐらいの木漏れ日だったら――
「何が光よ! あの程度の木漏れ日でわめくんじゃない!」
クラナは再びもんくを言う。しかしマグアスは――
「木漏れ日? いやいや、夕日の光などではない、
外から差し込むような大きな日の光だ、クラナもレイも見えるだろう?」
んだよマグアス、お前まで乱心したか――
レイは思った、最初からろくでもない聖獣とは思っていたけれども、
やっぱりこいつもいよいよ末期というわけか。
2対2で意見が対立している中、ウェイドはレイと同じく見えない派、つまりレイとクラナの味方だった。
その上で折衷案を投じてくれた。
「まあまあまあ、見える・見えないで議論していても仕方がありません。
ですが、このまま闇雲に進んでいても迷子になるだけですし、
こうなったら見える人に道案内をしてもらい、それに従って進むということでどうでしょうか?」
まあ――それしかないだろう。
しかし、レイはあの後のことをいまいち覚えていなかった。
最後には確かに光が漏れているらしい現場まで進んだということまでは覚えていた。
そして、彼女は気が付くと、どこかの家の中にあるベッドの上に横たわっていた。
「あれ? みんなは!?」
彼女は1人だった。だけどなんだろう、このベッドといいこの布団といい、
つい最近まで使っていたような感じだし、寝心地も実にいい。
クラナだったら間違いなく絶賛することだろう。
部屋を出ると、そこはどうやらただの家というよりは豪邸みたいなところだったようで、2階らしきところの回廊に出た。
回廊というとおり下の階層が見え、何故か人がいてたむろしていた――何人だろうか? というか何者?
すると、後ろからクラナがそっと現れた。
「あっ、クラナ――」
「レイ、無事だったようね」
何がどうなっているのかわからず、2人はレイが気が付いた部屋で話をしていた。
「私ら2人だけ?」
「そうみたいね、してやられたわ」
してやられた? レイは訊いた。
いや、ここまで来ればレイも何となく気が付いていた、
光と言えば七色の魔女の七色の光の話だ、つまりは七色の魔女の仕業の可能性があるということだ。
「ディアとマグアスは魔女の魔法にかかっちまったみたいだね。
ウェイドさんはどうだったかわからないけれども、ここにいないということからすると――」
つまりはそういうことか……。
「ところで私らってどういう状況?」
下の階層でたむろしている人もまた、魔女の手先ということかな。
となると、彼女らはここに軟禁されている状況と見るほうが正しいか。
それにしても魔女――とうとう実害が出てしまったし、この状況ではどうにもならなそうだ、
たくさんの人間がも下にいるし3人も取られちゃったし。
「レイ、あんたでもどうにもならない?」
珍しく弱気なクラナ、念の為に言っておくが彼女は聖獣……それでもどうにもならないことはあるということか。
といってもクラナはまだまだクロノーラになってからまだ20年、マグアスの500年とは比べられるのも辛いところ、だからそういうもんである。
「うーん……とりあえず最低でも雷光の石だけでも回収できればよくて、
あの3人を助けるのはまた考えようかなってところ?」
レイが考えたのはそういうこと――最悪、男共は見捨てる案である。
理由は簡単、魔女ってことは誘惑魔法で男を支配している可能性がありそうだ。
いなくなった3人は全部男だったし、下でたむろしているのは……はっきり確認しているわけではないが、聞こえてくるのは男の声ばかりだった。
その一方でレイとクラナ女性陣は魔女の誘惑魔法故に同性には効かなかったとくればしっくりくる……だからこうして軟禁するのがせいぜいだったと、
それがレイの考えたシナリオである。
「あんた、意外と考えているんじゃん」
クラナは話を聞いて感心していた、意外とは失敬な……レイは少々ムキになっていた、だってねぇ……
ともかく、雷光の石さえ手に入ればレイとクラナの目的は達成されるのだ、
男共の救出はどこかの街で戦える女性を募って改めて攻略しに来よう――という発想である、
魔女の勢力に対抗するということなら例のバリケードの町やファルステッドで情報交換すればなんとかなりそうだし――
それについてはクラナも同意見だった。
「あの3人には悪いけど、待っててもらうしかないよね?」
「いや、魔女の誘惑魔法でいい夢を見ているだけさ。
だから、しばらく放っといたって構いやしないさ」
はっきりというクラナだが、レイは大いに納得していた、特に例の色ボケクソウサギにとっては天国だろう。
とにかく、魔女の術中にはまったであろう男3人は放っとくことにしたいて女2人、
その部屋の窓から飛び降りた。
「大丈夫だよ! クラナ!」
レイは早々に飛び降りて周囲を見渡すと彼女に呼びかけた。
クラナは部屋にあったカーテンを使ってロープ代わりにし、それを垂らしていた。
長さが足りないが、ある程度まで行けば十分だろう。
「もし落ちそうになってもちゃんと受け止めてあげるから!」
クラナは息を飲み、意を決して下に降りることにした。
「あーやだやだ、これだから足のつかないところは嫌いだよ」
クラナは降りるとすぐにもんくを垂れていた。
なんと彼女、まさかの高い所が苦手気質である……いやいやいや! 鳥の聖獣クロノーラだろ!? 冗談みたいな話だが、
「飛ぶのは嫌いだよ。
だから極力この姿でいたいんだよねぇ……」
ということである。
つまり、彼女はそもそも聖獣クロノーラになりたくなかったということである。
「でも、あんたはすごいねぇ、
こんな高さなのにひょいっと飛び降りてしまうんだもん、
初めてあんたが頼もしく見えたよ」
「私はクラナが初めてしょうもなく見えたよ」
レイは言い返した、
それには流石のクラナもぐうの音も出なかった。