アルトーナを出て街道を進んでから1週間、長かった。
長かった街道の終点となるファルステッドの町だが、これでもまだ街道の中継地点に過ぎないらしい。
だがここから先は街道そのものが変わり、大平原だった周囲の装いも少々変わるらしい。
この中継地点は東西の山脈の谷間にある町で、街道の中継地点としては必ず通ることになるようだ。
昔はそれこそ山脈を切り開いたところに町を作ったというが、今はちょうど東西の山の谷間という感じである。
しかし、その必ず通らなければならない中継地点、とんでもないことが起こっていた。
「盗賊団が……」
盗賊団が街にはびこっているのだという。しかしその割にはその様子がなんだかおかしい。
それもそのハズ、盗賊はみんな倒れていた。
「どうなっている?」
マグアスは冷静に確かめていた、倒れているのは盗賊団だけではなく、一般の人も倒れているようだった。
「どうしたの?」
レイはその場で立ちすくんでいる町人に話しかけた。
「剣士だ、剣士だよ! 剣士が、盗賊どもを倒したんだよ!」
びびって立ちすくんでいるのと同時に感動しているようだ、複雑な感情だな。
「こここっ、こいつら……人様のものを……奪いやがる。でも、こいつらを、あの人はやっつけてくれたんだっ!」
話は見えたんだけれども、この人はどういった心境なんだろうか、どっちかにしてくれると――
剣士というのはあの剣士のことだろうか。
少し前に出くわした現場で盗賊団を蹴散らしたっていう名うての剣士のことなのだろうか。
言ってもどんなやつなのか全く遭遇していないので分からないが。
ウェイドは盗賊たちの外傷を確認していた。
「これはなかなかの達人の域に達しているような技の使い手ですね。
ただ不思議ですね、盗賊だけでなく、ほかの人も同じ使い手にやられているようですよ?」
それもそのはずだった。
「あいつらだって盗賊団と変わらないよ。
言っても連中はあの盗賊団と違って人のものは取らないけれどもな。
でも、だからと言って自分たちのテリトリーを語って暴れてもいいもんじゃないだろ?」
別の町の人からはそんな話が聞けた。
つまり、”連中”とか”あいつら”とかいうように、剣士もまた集団の一部のようだ。
そしてこの通り嫌っている――
「そういえば、ここいら一帯をテリトリーにして自分たちのルールで秩序を保とうとしている集団がいるって話を聞いたことがあったな。
俺も以前立ち寄ったときはこんなことにはなっていなかったから全然把握していないんだけど――」
ディアはそう説明した。そして、つい最近立ち寄ったであろうマグアスに話題を振るが――
「さあな、なんのことだかさっぱりだ――
それに、人の世で何が起ころうが別に特別なことではない」
話にもならない。ったく、これだから老害は――レイはイラついていた、目の前で起きている事件なんだから興味は示せよ。
「なるほどね、ファルステッドは盗賊団とその剣士の連中との対立でもめている現場というわけだよ。
で、ファルステッドの人たちとしては盗賊団を倒してくれる剣士たちを称賛しているんじゃなくて、
自治者気取りのその連中のことが気に入らないからどっかに行ってほしいってことだね。
さっきそっちで話を聞いてきたんだけど、旅人たちは背景を知らないから剣士たちを称賛する一方で、
ここの住民は剣士たちには迷惑しているようだ、他所に行けってさ。
だからあの時に遭遇した街道の警備はその剣士たちを警戒するためにここの人たちで組織した連中なんだってさ」
と、クラナが言った。
話が見えた、それで盗賊団を調べていたのか、剣士たちの情報を得るために。
ということはつまり――
「三つ巴の現場……面倒なところにきちゃったなー。
こんなところ、さっさと抜けたいなぁ……」
レイはそう言うと、一行は全員頷いた。
軽く夜を明かしたらさっさと東に突き進んでしまおう。
ということで、そのまま街道を東へ突っ切ると、そこにも宿場町があった。
その日はここで泊まることになるだろう――今日こそはいいベッドに巡り合えますように。
だって、ファルステッドの宿屋は以下略である。
「ここも三つ巴の現場――」
ウェイドはその現場をじっと眺めていた。
この段階でクラナの機嫌は直る可能性がなくなったような気がする。
それよりもこの惨状、もしかして剣士たちの謎の集団の仕業?
連中はここから東にやってくるらしいのだが、一体何があったのだろうか。
「名うての剣士の集まり――というだけではなさそうだね」
クラナはそう言った。なんとも危険なニオイがする。
これは流石に関わりたくない感じだ。
「マグアス、いい加減になんか考えてくれよ」
ディアはそう訊いた。すると――
「やれやれ、仕方があるまいな。
この町だったかどうかまでは覚えておらんが、
要塞とまでは言わぬほどのバリケードが張り巡らされていた町があったことは記憶している。
この様子だともしかしたらその剣士とやらの集団を警戒してのことかもしれんな」
話に参加するのが遅せえよ、状況が深刻化しないとアカンのかこいつ。
さて、ここへきて東に来ることになった理由を説明することにしよう。
それは以前に話に出たガトーラという聖獣に会いに行くためである。
ガトーラは伝道師とも呼ばれる存在で冒険者には特に馴染みのある存在なのだが、
レイは既に会う前から苦手意識を感じていた、まるで宇宙人のようなマグアスと似たようなやつと言われればまさにその通りである。
しかし、伝道師というからにはマグアスよりももっと話題にも歩み寄ってくれそうな気はするのだが――
そして、伝道師というからには何らかの情報を握っているのは確かである、
例えばフィールド修復のための材料――そう、つまりはそう言うことである。
そして、その町トレイムに着いた。
この町は本当に何でもない田舎町だが肥沃な土地としても知られている、
世界崩壊以前からそんなに変わっていない土地のようだ。
「わざわざこんなところまで来るとはね、お疲れさん」
なんと、ガトーラが自ら町の入り口で待ってくれていた。ローブを纏った魔導士風の恰好をしている男だった。