クロノーラ・クロニクル

第2章 卯の刻の卯の地の抗争劇

第20節 馬車と盗賊団

 東の大陸に来てレイは音を上げてしまった、 まさか街道がこんなに長いだなんて――
「いよいよペース配分を覚えることをした方がいいわね」
 クラナに苦言を呈されてしまった、レイは全力を出しすぎてしまったようだ。
「ねえ、町はまだぁー?」
 ディアも項垂れていた。
「あんた聖獣でしょ! 今まで何やってたのよ! まったく!」
 ディア相手には容赦がなかったクラナ。初めてじゃないのなら確かにそう言われても仕方がないか。
「さあ、言ってないで日が落ちる前に宿場まで着くよ!」
 今回は今までとは違って余裕をもって夕方までに到着ということはなく、 距離的に日が沈んでからの到着になるらしい。
「こいつら……この先が思いやられるな――」
 マグアスはぼそっとこぼしていた。

 そもそも、中継地点までの距離が長いのが一つの理由にあった。 彼等はまさにアルゴーナス大平原の真ん中を通る街道を進んでいるのだから、 やたらに平原の真ん中のような見通しのいい場所に町なんか作ろうものなら魔物たちの格好の餌食、 宿場町の配置も限定されるのは避けられない話なのである。 つまり、夜を明かすための拠点同士の間の距離までは保証されないわけである。
 それで、じゃあそんな中で今までどうしていたんだとクラナはディアに訊いたところ……
「いけー!」
 わざわざアルトーナに同じ時間をかけて一旦戻り、馬車を借りることにしたのである。 ディアは上機嫌で御者をやっていた、上機嫌で馬を操るウサギ。
「なぁんだ、こんなにいい方法があるんなら最初からこうすればよかったわねぇ♪」
「そうだよねぇ♪」
 クラナもレイも上機嫌だった。
「ドミナントにもありますけど、こちらに比べると需要も少ない方ですからねー」
 ウェイドはそう言うが――
「別に朝昼晩とずっと歩き通せば問題なかろうに――」
 と、マグアスはブツブツ言っていた。
「みんな、あんたみたいな宇宙人と違って休むってことが必要なんだよ」
 クラナがはっきりそう言うとマグアスは驚いていた、 いや……聖獣ってこういうものなのかよ。
「しかし――休むのはいいが、流石に半日近く滞在してて大丈夫なものなのだろうか?」
「いやいやいや、流石に寝かせてくれよ……」
「あ、あんた……人間やってたことないのかい!?」
 マグアスのさらなる発言にディアとクラナは完全に呆れていた……聖獣って――。
「あの人、ちょっと常人離れしていますね――」
 ウェイドは冷や汗かいているとレイは言った。
「今の聖獣ラグナスって500年以上生きているって言ってたよ。 その時点で常人離れしているし、それに私もあいつの言ってることの半分以上は理解できていないから完全にお手上げだよ」

「なんだと思う、あれ……」
 街道をしばらく進んでいると、なんだか気になる人だかりが徐々に見えてきた。 盗賊団の仕業だろうか、そんな心配をしながら進んでいるとその現場から馬車が向こう側に進んでいく様を確認できた。 そのあと現場の人たちもそれぞれの方向へと解散していくようだった、一足遅かったか。
 そして、こちら側に向かってくる人だかりに対してウェイドが話を訊いていた。
「なんだかよくわからんが、被害者がいたんだよ」
 被害者……ということはまさか盗賊団!?
「いや、それがどうもそうでもないらしい。 被害者が3人だがそもそも全員が盗賊団の一味らしい。 一応1人だけ意識があって話を聞くことができたみたいなんだがそれ以上はわからないそうだ」
 盗賊が3人もどういうわけか大けがをしてあの場に倒れていた、 それをこのあたりの街道警備を取り仕切る者たちでいろいろと何かをしていた――ということらしい。
「魔物の仕業ですかね?」
 ウェイドは話を聞き続けていた。
「それがケガの症状から見るに、明らかに刃物の道具による症状だった、 しかもそれも名うての剣士のもの――警備もそのあたりを気にして俺らにも事情聴取をしてきたよ、 俺らも寝耳に水でさっぱりわからなんだが……」
 つまり、盗賊がその剣士に襲い掛かったが返り討ちにあった――というのが関の山といったところか。
「とは思うんだけれどもね。 ただ、街道警備がわざわざ盗賊団への被害について行動起こしているあたりが気になってね――」
 言われてみれば確かに、盗賊団は切り捨て御免でも仕方がないのにわざわざ調査をしているって何だろう――。

 馬車があると素早くたどり着く、そもそも最初から馬車での移動を想定した街道だったようだ。 馬車なしの人は途中でテントを使って夜を明かしているようだけれども、それもなんだか不安な道のりである。
 当然、寝床に拘るクラナ的にはテントはNGで、宿屋のベッド寝ることは彼女の中では必須事項となっている。 もっとも、それでいてベッドの寝心地が最悪だったら――いや、その話はよそう……。
 さらに先に進むと盗賊団と思しき連中と出くわした。見るからに話をしてわかりそうな連中ではなかった。 話をすることさえばかばかしい、とにかく全力でこの正義の鉄拳を浴びせるのみだ。
 ここから先は魔物だけでなく盗賊団とも対峙することとなり、 レイにとっては人間相手に戦うという新たな経験を積むこととなったのだ。