クロノーラ・クロニクル

第2章 卯の刻の卯の地の抗争劇

第19節 盗賊団とちょっとした珍事

「それにしても機械と魔法の融合だなんて確かに常識を覆す斬新なアイデアね。 船の動かし方そのものも奇抜すぎだと思うけど、これを考えた人ってのは相当の人物ね」
 クラナは感心していた。
「船を波で押し出すアイデアはザーギスが考えたのだけど、 機械と魔法をコラボする発想は彼の彼の娘のアイデアなんだよ」
 シルグランディアは技術屋な一族なのか。
「娘もまた技術屋なんて将来有望ね」
 クラナはさらに感心していたが――
「ん? いやいやいや、将来有望もなにも、 今のシルグランディアの当主はそのお姉様で現役バリバリのエンジニアさ」
 お姉様?
「つっても、お姉様はかなりちっちゃい頃からモノ作り始めているし、 機械と魔法をコラボする機構もその頃にはすでに作っているって能力の持ち主だから、 この俺でもお姉様の腕には叶わないね」
 聖獣を上回るとはなんともすごい人物である。
「そもそもお姉様の美貌はこのボクのかわゆさなんか足元にも及ばないんだから、完璧以外の何物でもないんだけどね!」
 しかも美人!? そいつは、私もちょっとお目にかかりたい今日この頃――レイは期待していた。
 ともかく、ディアは目をまた超キラッキラとさせていた。 とりあえず、さっきの技術屋バリの貫禄はどこに消えたのか教えてもらおうか。

 結構ピリピリとした現場故に船で楽しむ余裕は何処にもなかったレイ。 そもそも、空も海もどんよりとした闇の色、楽しめる要素は何処にもなかった。 そのため、東の大陸と言われてもピンと来ていないレイだった。
 そしてこの色ボケクソウサギ――むしろ、こいつの意外な能力に驚かされた。 ただ、よくよく考えれば聖獣ディヴァイアス、技術屋を名乗る聖獣というすごい存在……のハズである。 まさに人は見かけによらないとはこのこと……色ボケクソウサギだが。 いやいや、聖獣というからには人の姿も持っているはずなんだが、なんとなく想像したくないもんである。 だから頼む、ずっとウサギでいてくれ。

 とにかく対岸の港町アルトーナに到着した。 しかし、到着早々なんとも物々しい様相だった……
「なんだろう? クラナ、ちょっと話を聞いてみようよ」
 レイは気になったのでクラナと相談していた。
「そうね。でも、この様相だと魔物が原因じゃないかな?」
 確かに、町の外へと通ずる出入口や荷馬車などは戦士たちに守られているようだった。 つまり、魔物に警戒しているのだろうか?

 とにかく、みんなで情報を収集して町の酒場の中に集まると食事をしながら話をしていた。 無論、レイとディアは安定の爆食い道中記である――。
「そうだ、忘れてた。この辺りには盗賊団ってのがいるんだっけ。 少し前に掃討されておとなしくなったって聞いてたけど、 この様子じゃあまた最近になって勢力を一気に拡大して、 とうとう大沙汰になっちまったって感じかね」
 ディアがそう言った、つまり以前からいるようだ。
「荒廃した世界で生きていくのは大変……だから人様のものをいただいて、 自分たちは楽して過ごそうという醜い心の持ち主が増えてきているということですか、なんとも嘆かわしいことです」
 ウェイドの言う通りである。そんなやつらは許せないな。
「だけど、最近はハンターたちが力を合わせて、連中を抑えているとも聞くね」
 と、クラナが言うとウェイドは頷いた。
「ですね。 ただ、油断は禁物です、壊滅したわけでもありませんし、 いつ何時何が起こるかわかりませんので――」
 気を付けるにしたことはないか。

 翌日、人混みが多くてなんのこっちゃかさっぱりなアルトーナをさっさと抜け出した一考は街道に沿って歩いていくことにした。
「ここはアルゴーナス大平原と言ってな、大きな平原の中に森林帯と山脈帯があるのだ」
 冒険者風を装っている通りすがりの人がそう話をしてきた。
 その山脈からは昔は貴重な鉱石が採掘されていたという。 世界が崩壊する少し前にはすでに採掘作業はストップしていたみたいだが、 今でも貴重な資源が眠っているらしいので採掘計画がなされているようだ。
 ……こんな危なっかしい世界情勢で本当に始められるのかどうかは別の話かもしれないが。
「おや、誰かと思えば……あんた、マグアスじゃないのよ?」
 えっ、通りすがりの人……マグアス? はて、どこかで聞いたような…… レイは考えると思い出した、聖獣ラグナスだ! レイは身構えた。 マグアスというのはラグナスの人間名であり、彼もまた人間の姿でふるまっていた。
 ラグナス、ラグナスといえば……この旅に出るきっかけとなったあの晩のこと! 忘れたわけじゃあないからな!  レイはその当時からラグナスにイラついていた。
「いっ、いや……その、あの時は本当に悪かった、許してほしい。 私には、普通の、その――聖獣である以外のその感覚というのがないもんでな、 だからこそ、その……なんだ、許して……ほしい」
 ったく、次やったら絶対にぶっ飛ばすからな……レイはそうブツブツ言っていた。
「ところでマグアス、あんた、どうしてここに?」
 クラナは訊いた。確かに何しに来たんだこいつ――
「いや、東の大陸は広くてな、だから力を貸してやろうかと思ってな」
「あっ、俺も俺も! 乗り掛かった舟って言うじゃん♪」
 マグアスだけでなく、ディアも答えた……確かに船には乗ったが。