ディアは船を眺めながら話をした。
「こいつはアトローナシアの技術者の中でも特にずば抜けた才を持つザーギス=シルグランディアの設計だな。
シルグランディア家の技術はうちらの中でも特別で、とにかく奇抜で誰もが考えないような強烈なアイデアなんだ。
こんな船にこんなちっぽけなモーターを使うなんて発想も今の世じゃあシルグランディアぐらいのものだろう」
ディアに言わせればこの船を動かすようなモーターの大きさではないという。
要するに、かつての航行技術として非常に大きなモーターを用いることで船のスクリューを回転させ、
推進力を生み出すというのが目的だが、その用途で使うモーターとしては明らかに小さいらしい。
しかし、そのシルグランディアさんはこの船を動かすために別の用途でモーターを利用しているそうだ。
「あれ? ここにセットされている石って結界石じゃあ?」
レイは気が付いた、回路的にモーターでつながれている先にあるものは紛れもない、彼女には馴染みのある結界石だった。
「レイが言っているのはサラの魔石に結界用途のための魔力を込めているから結界石なんだろうけど、
これはそれとは別の魔力を込められているようだね」
そうなのか……結界を張るための石と思っていたのに、元々はいろいろな魔力を込めるために使われる石だったのか。
それにしても、船を動かすにも魔法の力も利用しているのがすごい。
「なるほど、そういうことか。
シルグランディアのアイデアは奇抜すぎて困るんだけど――」
ディアは頭を抱えながらそう言った。
「そっ、それで――直せるのかい?」
クラナは心配していた。
「なんとかね。
このモーターやこの石が問題なわけじゃあなくて、この回路の配線がイカレてしまっただけだよ。
その原因は海水対策が甘かったから腐食してしまったことによるもの。
この程度ならすぐにでも直せるけど……ただ、こういう事情なら配線全部見直したほうがいいと思うし、ちょっと時間をくれるかな?」
ディアはメンツを見ながらそう言った。
ディアはエルトーナのエンジニアと一緒に定期船のメンテナンスをしていた、船が解体されている……なんだかすごい光景だ。
あのモーターの回線の組み合わせは合計8つも存在していて、それぞれの回線ラインに魔石が1つずつ、計8つが存在していた。
「海水対策が甘かったのですね、つまり対策不十分による設計上のミスですか?」
ウェイドは訊いた。
「いや、この設計はヴァナスティア船のものと同じなんだ。
つまり――設計としては結構昔のもので、使っている材料も当時のものなんだ。
要するに、当時にしてみれば最先端な材料を使っていたのをエルトーナやアルトーナの技術者が再現させたものに過ぎないんだ」
つまり、昔にアトローナシアのシルグランディアが作った設計図面を元にして再現させた船に過ぎないため、
アトローナシアの人が直接作ったわけではないようだ。
しかし、ヴァナスティア船のほうを作ったのはアトローナシアの人が自ら当時に作ったものでありながら、
昔の材料のままで今でも問題なく動いているのだそうだ――アトローナシアの人の腕の良さがよくわかるようだ。
「とはいえ、いずれにしてもヴァナスティア船も流石に気になるからね。
一息ついたらあっちの船の具合も見てやるか」
なんだかお医者さんのようである……忘れているかもしれないが、
こいつは女の子を見ると目の色を変えて尻尾を振りまくるような色ボケクソウサギなんだぞ。
レイとクラナにも仕事が割り当てられた。
それは魔石のほうのメンテナンス、2人にとっては定常作業のようなものである。
もちろん結界石を作るのとはわけが違う。
なんたって、船などという大掛かりなものを動かすのに利用されている石だから、
そこそこに高性能な力のものを要求されるハズ、それは流石のレイでもわかった。
ということで、レイとクラナは力を合わせて2人で石を1つずつ作り上げていた。
「それにしても、この石を作り上げたやつってのは大した能力はなさそうね」
クロノリアの人に言わせれば、そういわれるような感じではある、なんというか、間に合わせ感満載である。
「あ、やっぱりそう思う? でも、航行距離はそんなに長くないからその程度の石で十分だったんだろうね」
ディアがやや遠めの作業場所からそう言った。
「ふむふむ、ということは――回路のラインを半分に減らすか――」