クロノーラ・クロニクル

第2章 卯の刻の卯の地の抗争劇

第16節 卯の刻の卯

 改めて、エルデーネル大平原を東へ抜けてエルトーナの町へと赴くこととなった。 道中の宿場町ではディアがうずくまりながらレイのことをじっと見ていたようだが、 クロノーラを警戒してか、ただ見ているだけにとどまっていた。
 変なやつ――レイは完全にシカトを決めていた。

 しかし、変なウサギではあるが、戦闘能力は抜群でそのスタイルは不覚にもレイにも通ずるものがあった。
「っしゃあ! この俺に続け!」
「私も負けないぞー!」
 ディアのウサギならではの後ろ脚の力で先陣を切り、自らの得物である槍を構えて突撃すると、レイもそれに続いて突撃した。
「やれやれ、まーたやってるよ……」
 クラナは完全に呆れていた。 さらにレイに関して言うと、今回の旅が始まるまでの間にトレーニングを積んで体力をつけてきたという…… この子、魔導士とかじゃなかったっけ? ウェイドはそう言うが、クラナの回答は当然――
「本人に聞いてちょうだい」
 である。

 さらに言うと、一緒なのは戦闘スタイルだけではない。
「あっ、あんたたち……それ、本当に全部食べる気!?」
 そう――2人とも山のように食うのである……。
「ん? あ、ついでにこのハンバーグステーキってのもいただこうかな」
「あっ、私も私もー!」
「いい加減にしろ!」
 2人はクラナに怒られた。
「レイさんも大概ですが、 それにしても、聖獣とわかっていても肉を食べるウサギというのはなんとも斬新ですね――」
 あっ、言われてみれば確かにそうだ、なんとも的を射た発言するなぁ。
「ん? 肉? あっ、この舌平目のなんたらってやつもうまそうだな」
「私もそれ食べたーい!」
 クラナは頭を抱えていた。だんだん頭が痛くなってきた――。

 ということで、例のクラナが得意げになっていた例の宿場町を例によって早めの時間、大体午前6時ごろに出発した―― ん? そういえば十二時辰――簡単に言えば時間を十二支を使って表したものと言うべきものであるが、 午前6時と言ったら十二時辰で言うと卯の刻の真っ只中である。 それに、これから東へと向かおうとしているわけだが、卯の方角は東を示している。 そして、まさに今同行しているのも卯……つまりウサギのこと、何かとウサギに縁のある道程である。 なんていうか、いいんだか悪いんだか――といった感じである。
 だが、ウサギと言えば、ウサギの足は幸運のお守りとする文化もあるようで、 さらには草食獣な小動物ゆえの年中発情期という特徴から多産または豊穣のシンボルとも言われている…… うーん、性のシンボルか――確かにこの色ボケクソウサギはあからさまにそっちだが。
「いやぁ~♪ そこまで言われれば参ったなぁ~♪」
 誉めてねぇよ……ったく、朝っぱらからクソ暑苦しいクソウサギだな……どんだけクソなんだよお前――あれ、どっかで訊いたような。 とにかく、クソうるさくてクソ目障りだから、クソはクソらしくクソおとなしく引っ込んでろ。

 と、そんなクソウサギだが、エルトーナに停泊している問題の船を前にすると態度を一変させていた。
「まさか、聖獣様が直々においでになるとは!」
 連絡船の管理事務所の人が慌てて対応していた。
「そんなんいいから早く見せてよ。そんなにヤバイの?」
「いえ、その……出せるかどうかが微妙な状況でして、問題の箇所はこちらです――」
 ディアは資料を手渡され、それを確認していた。
「なるほどなるほど。じゃ、次はブツのほう見して」

 ディアたちはその問題の箇所へと案内してもらっていた。
「まさか――これ、モーター!?」
 クラナは驚いていた。 モーターというのはつまり電動機のことであり、 文明レベルの高いところに住んでいる人にしてみれば別になんの違和感もないことだろう。
 しかし御覧のとおり、この世界は多くの文明が破壊し荒廃した世界なので、 つまり低水準の文明レベルでの生活が余儀なくされるこのご時世で電気で動くような代物はまずあり得ないのである。
 というわけで、モーターというのを知らないレイとウェイドにとってはモーターがなんのこっちゃという感じである。 しかしそのモーターの目的――生活を支えるうえで電気で動くということを説明されると流石にそのすごさはわかるほどだった。 そりゃあ、こんな大きな船がスイッチひとつで動くなんて言われればもはや革命にも等しい所業である。 当然、スイッチひとつとは流石に大袈裟だが。