クロノーラ・クロニクル

第2章 卯の刻の卯の地の抗争劇

第15節 遺跡と変わり者と色ボケクソウサギ

 シュリウス遺跡、太古の昔にあったという非常に高度な文明を築き上げてきた都らしいが、 それは世界が崩壊する前からずっとそのままの状態で存在していた。
 そして、その遺跡の文明がどうしてこれまで手付かずのままなのか、原因を探っている研究者がいた。 いや、それはひとつの目的で、ほかにも目的があるに違いないとクラナは踏んでいるようだが。
 で、その研究者はクロノリアの民の一人で、以前よりシュリウス遺跡にこもって活動しているらしい。 念のために言っておくが、その研究者に会うために来たわけではない。
「ここが噂のシュリウス遺跡ですか? あんまり、遺跡っぽくないですね――」
 ウェイドは考えていた、ここに来ること自体始めてだそうだ。 確かに、そこら中にある建物が荒廃してボロボロになるさまを見ることができるけれども、 それにしては異様な光景だった、なぜなら昔の石や土などの作りの建造物というよりは、 かなり進んだ文明の、いわゆる”ビルディング”と呼ばれるものが破壊され、そのあたりに放棄されているような景観だったからだ。 それもずいぶんと朽ち果てておりあまり原形をとどめていないのだが、 その手の類のものが結構目につくため、森の中に広がっいて木と人工物が組み合わさってできているこの遺跡―― なんとも言えないような異様な光景である。

 すると、奥から1匹の獣がレイめがけて突っ込んでくる! 魔物かっ!? レイは身構えた。
 しかし、その魔獣はどういうわけか、急に減速し彼女4歩手前ぐらいでピタッと止まった。 しかもその魔獣、レイと同じぐらいの大きさの大きなウサギで、その頭には1本の立派な角が生えていた。
「やあ♪ ボクは見ての通り、かわゆいかわゆいウサギしゃん♪ そこのキミもすっごくカワイイね♪」
 そのウサギはかわゆさ超全開で目をきらっきらとさせながら彼女にそう言った。 確かに超かわゆい――なんとも言えないかわゆさで彼女を誘っていた――なんともたまらん。
「ったく! 大バカ色ボケクソウサギめ! いい加減にしろ!」
 と、クラナはそう言ってウサギを一喝した。するとウサギ、
「そんなこと言わないでさあ、そこのお嬢さんもすっごく素敵じゃあ……」
 と、言いかけたが、そのあと急に我に返り、二度見三度見をするや、その相手を改めて確かめたウサギはものすごく驚いた形相で答えた。
「な!? くっ……クロノーラぁ!? いっ、いやあ――久しぶりだね、クロノーラ……」
 ウサギはなんか急に照れた様子でそう言った――えっ? クラナがクロノーラだって知っているの? レイはそう尋ねた。
「うん、知ってるよお嬢さん♪ お嬢さんはとっても可愛いよね♪」
 ウサギは先ほど同様のかわゆさ超全開でレイにそう言った――レイとしてはむしろ”コイツ面白い”という感想のほうが先行していた。
「このクソウサギ! いい加減にしろって言ってるだろ! 彼女はレイ! レイ=オンティーニ!」
 クラナは強く言った。
「そうなんだぁ♪ キミはレイ=オンティーニって言うんだね――ん?  オンティーニって……ええええええええっ!? やばい! 殺される! 助けてぇー!」
 と、ウサギはその場で身を丸くして両手を頭で押さえて縮こまっていた。 オンティーニって言っただけですごくビビっている――これは尻に敷かれているやつだな、 レイはすぐに直感した――ニヤリ……

 ところでこのウサギ、何者なのだろうか。 とりあえずウサギに研究者のいるらしい場所へと案内された。
「やあやあみなさん、お待ちしていましたよ!  それにしても、こんな辺鄙なところまでようこそいらっしゃいました!」
 彼の名はスクライティス=ティルフレイジア。 古の時代にはティルフレイジア家の者がクロノリアの長を務めたことがあったけれども、 長をやっていた次の代のティルフレイジアは目的があると言い残し、自らその座を降りたのだそうだ。
 以前の代のティルフレイジアといえば非常に変わった人が多く、厄介者とまで言わしめた人物もいたそうだが、 彼はあまりご先祖様に似なかったのだろうか、そういう気配はほとんど見受けられなかった。
 もっとも変わった人といったらクロノリアにはいくらでもいるのでどうってことはないのだが――レイはそう思っている。
「要件は――そうですか、私でなくてこちらのウサギですかね」
 するとウサギは驚いていた「えっ、俺?」と。
「要件も何も、まだ何も言ってないのですが――」
 ウェイドはそう言うとレイが説明した。
「ウェイドさん、この人には全部見えているんだよ。そういう能力を持っているからね」
 ウェイドさんは頷いた。
「クロノリアの方々はなかなか特殊な人が多いですね、そうなんですね」
「但し、肝心な時に限って能力が通用しないとか言い出すからいまいち使えるんだか使えないんだかわかんないのが玉に瑕なんだよね」
 クラナは皮肉を言った。
「あははっ、相変わらず手ごわいですね。 とは言え、私の能力はあくまで”予測”でしかないのでそもそも論として通用しようがしまいがって話でしかないんですけどね」
 スクライティスは照れた様子でそう説明した。 とりあえずその話はここで打ち切りに。目的のウサギについて話をしよう。

 クラナはここにいるやつに用事があると言っていた。 しかしそれがスクライティスじゃなくてウサギのほうだったとは。
「アトローナシア製の船だよ、あんたなら修理できるだろ?」
 ウサギに修理を頼むって!? レイとウェイドは驚いていた。
「えっ、船が壊れている!? うーん、そいつはちょっと難儀だなあ――」
「いや、壊れているかどうかはわからないみたいよ。 多分メンテナンスとか、そういう具合のものなんじゃないかね?」
 ウサギは考えた。
「ふーん、まあいっか。 とりあえず見てみないことにはわかんないし、ここにいるのにもそろそろ飽きたから行ってみるか」
 というか、そもそもウサギはここで何をやっていたのだろうか、レイは訊いた。
「部品集めだよ。 ここには大昔の遺跡があって、金属製の部品や”電子機器”と呼ばれるものもあるから、 それを採取するために、スクライティスにご厄介になっていたんだよ。 他の文明のものも集めていたんだけど、ここのはさらに古い時代のものがあって、 しかもその時代からまだ形が残っているもんだから興味が沸いてね」
 部品を集める? 集めてどうするのだろうか? するとクラナが答えた。
「ディア、レイに挨拶したらどうよ、かわゆいうさぎさんとか言ってないでさあ。 そうすればレイにも理解が早まるでしょ」
 するとウサギは頭を抱えていた。
「ふっ、この俺としたことが――」
 態度がころころと変わるやっちゃな。改まって、自己紹介してきた
「俺の名前はディラウト=シャルエール。 アトローナシア出身の聖獣をやっているんだぜ。以後、お見知りおきを、お嬢さん♪」
 えっ、聖獣? アトローナシアってことは――
「えっ、もしかして、聖獣ディヴァイアス!?」
 レイはそう訊くとウサギが何を言うよりも前にクラナが先に言った。
「そうだよ、こいつが聖獣ディヴァイアス。 頭がよくて手先も器用、アトローナシア出身というだけあって流石にいろんなものを作ったり直したりと技術者スキルは高いんだけど、 それと同時にとにかく女好きで、かわいい子を見るとすぐさま尻尾を振りまくり、見た目の可愛さを武器に”かわゆいウサギ”アピールをしまくる、 とにかく色ボケのクソウサギとして有名なドサンピンの色ボケクソウサギなのさ」
 と、クラナが言うと、ディアはしょんぼりしていた。
「そっ、そんな! そこまで言わなくったって!」
「いいから言ってないでさっさと行くよ! この色ボケクソウサギ! でないと今晩のおかずにしちまうからね!」
「はっ、はい! お姉様っ!」
 クラナに叱咤されるとディアは向き直り、ピンと背筋を伸ばして歩を進め始めた。
「せ、聖獣にもいろいろいるんですね――」
「だ、だね――」
 ウェイドとレイはその光景を見て唖然としていた。2人もその場から歩き始めた。
「お達者でー」
 スクライティスは3人を見送っていた。