クロノーラ・クロニクル

第1章 旅立つ者のための約束の地

第12節 太陽の祭壇

 途中の宿場町で一晩明かすことにした。 建物の光に照らされたラーシュリナは、まさに神々しい女神様のごとき様相で、ますます美人を引き立たせていた。 髪型はメッシュ入りアッシュベージュで、ゆるふわカールの入ったロングヘアー、 白のブラウスにグレーのローブやマントのようなおしゃれなチェック柄のフリンジ付きショールを身にまとい、 クリムゾンレッドなミドル丈フレアスカートで大人のお姉様の美人具合を際立たせていた。 こんなお姉さん、1人でもいいからほしいなー!
 そんなお姉さんだが、流石にレイが食べる量については呆気にとられていたようで、 3人とも彼女のその様子にはただただ苦笑いで誤魔化しているしかなかった。
 泊まる部屋についてはウェイドだけが別の部屋で女性3人は同じ部屋。 レイは例によってラーシュリナの美女の香りに包まれて寝ていたが、 クラナも例によって……その際の宿場町ではぐっすりと寝ていた、この分なら明日の機嫌は問題なさそうだ――
 そして夜が明け、各々旅の身支度をすると、宿屋の外に集まった。

 そしてクロノリアから旅立って14日目、つまり2週間後にようやくドミナントの町に着いた。 町はすごく開放的で新鮮味もあったけれども、その道中は特別な出来事も何もなく、期待外れだったに違いない――普通であれば。
 しかしレイの道中のモチベーションの維持は、途中までは魔物と戦うことだけだったが、 そのうち新たに加わった綺麗な美人のおねーさんが美しく剣を振りかざし、美しく敵を一掃していく様に見惚れ、 そしてその綺麗な美人のおねーさんから頭を優しくなでなでしてもらいながらその綺麗な美人のおねーさんの美女の香りに包まれて寝ること――これしかりだった。 そのため彼女が加わって以来、レイとしては戦いの内容なんかほぼどーでもよかった、だろうね……。
 ところが、肝心の目的地であるドミナントのほうはというと、開放的な街という点が災いしたのか、 街道と比べてもほとんど変わらず、とにかくただ薄暗かった――そういう意味ではまた別の意味で新鮮な町でもあった。
 ただし、ドミナントと言えば多民族国家、そのうえでこの霧の有様というのはまるでこの世界のモデルケースのようでもある。 だから皮肉にも、この様相こそがある意味正解なのかもしれない。

 そして、その後にクロノリアに戻った4人だが、それから2年が経った。 あの時はドミナントに赴いたものの、残念ながら目的を果たせずにクロノリアに戻らざるを得なかったのである。
 サンレイクに佇む太陽の祭壇では、残念ながらフィールド復活のためのヒントは得られなかった。 例の書物はどうやら”太陽の祭壇”という名の通りなのか太陽が関係しているらしく、 暗々としている空の下では書物が反応を示さなかったのだ。早い話、無駄足で終わったのである。
 そして武器も買いそびれてしまった、手持ちもあんまりなかったし……まさか、食べ過ぎのせいじゃあないかな?
 しかしそれでも得られたものは多く、レイは帰り道も含め外界からいろんなことを学んだのだ。
 中でも、特にラーシュリナとの出会いは大きく、彼女とはクロノリアのレイの自宅で半年も一緒に過ごしたのだ。 だけど彼女は修行の身、里長から遣わされただけなので、その後は里へと帰ってしまったのだ。
「また会えるよ。レイの旅、それだけじゃあ終われないでしょ?」
「その時に会いに行ってもいいよね?」
「もちろん。レイにとってはいいお姉さんだからね」
 ラーシュリナが去った後、レイはクラナと話をしていた。別れは人を強くする――確かにその通りかもしれない。

 ウェイドについてもめでたくクロノリア入りを果たせた。 町の人にとっては物珍しい存在だから警戒もされたんだけど、 クラナの策、つまりクロノーラの一存で長に啓示を与えると、ラーシュリナもそうだがウェイドの滞在を許されたのである、 一番面倒もない方法だ。 それ以来ウェイドはとりあえずクロノリアに住むことになった。 今はすっかり町の人と馴染んでいて、なかなかいい感じである。
 ラーシュリナがいるときは、例によって男ども…… 特にナイザーあたりが長特権だかなんだか知らないけどパワハラ上等で毎日のようにレイの家にやってくるのでとにかく鬱陶しかった。 この……パワハラセクハラエロジジイが! ラーシュリナお姉ちゃんは私のものだ!  当然レイは絶対に譲らない。
 それから、クラナは当然クロノーラをやっている。 オンティーニ家の人が代々クロノーラをやっていることなど、クロノーラに関する秘密は町の人にも秘密である。 だが、そもそもクラナは一般のクロノリア民にこっそりと溶け込んで生活していたりするため、これまでは赤の他人の体でレイとの接触は極力避けてきたが、これからは触れ合うようにしたようだ。

 そして、レイは時折”結界石”の作成を手伝っている。
 その日はウェイドがドミナントに行く用事があるというので、ついでだからと彼の好意に甘え、例の書物を託したのだった。
 彼ががドミナントに行った日はレイたちが行った日とは全く違う装いで、暗々としていたのが嘘のようなほどの暖かな日で、日光も照らされていたという。 だから、是非にみんなにも見せたかったと言っていた。 だけど、そんな機会は世界崩壊以降は滅多に見られないみたいなので残念である。
 そして、一番肝心なこと、その日のうちに太陽の祭壇で書物を開いたことで、書物には次の手がかりとなる新たなヒントが追加されていたのだった。