道中4人で話をしていた。
しかし、クラナはその彼女に旅の目的をいとも簡単に明かしてしまっていた……そもそも肝心のレイが未だにきちんと把握していないのだが。
それについてはそれなりの訳があったからだった。
「ところでお姉さん、名前は?」
レイはそう訊くとクラナが立て続けに言った。
「あなた、もしかしてプリズム族でしょ?」
クラナは続けざまにそういった、プリズム族といえば――お姉さんは丁寧に答えてくれた。
「私の名はラーシュリナ=ラーヴィスといいます。プリズム族というのはライト・エルフ、
つまり、レイさんと同じ精霊族に属する種族ということですね!」
さらにクラナが続けざまに話した。
「プリズム族ってのは昔から魔法に強いことで有名でね、
効果の見込めないこと・薄いことを意味した”プリズムに魔法”っていう言葉もあるほどで、
雑魚の扱う魔法程度じゃあ歯が立たない。
さらにレイもウェイドも感じていると思うけど、とにかく美女が多い――というか、美人だらけだ。
逆を言うと、プリズム族は美人しかいなくて女性中心で社会が成り立っているって構図なのさ」
女の人だらけ?
「男もいるって話も聞いたことがあるけど、それは少数だろうね。
これについてはいろいろと言われている種族だけど、
基本的には遺伝子的に女の子が生まれる率が高く、
そういうことから例え男に生まれても女性の容姿に近い素質を持っていて、
男でもやっぱり容姿端麗なのが出てくるってことだろうね」
クラナはさらに続けた。
「女の子が生まれる率が高いから、プリズム族の文化では女の子は育てやすいらしい。
でも男の子を育てることについてはさっぱり理解がないみたいだ。
だから男の子が生まれてもバッサリと男である事実を切り捨て、
女の子に育ててしまうってこともあるって聞いたことがあるわね」
それじゃあみんな女の子にならないだろうか。
「男性と女性のつがいがあって初めて子供が生まれるのに、種族全体が女性だったらどうすれば子供を?
そもそも女性に性別変更しただけで、子供は生まれるのでしょうか?」
ウェイドの言うとおりである。が――
「それがプリズム族だから成立するんだよ。
そもそもプリズム族は伝統の誘惑魔法を用いて外界のオスを獲得することでつがいを成立させるのさ。
彼女の見た目通り、そのための美貌であって世の男どもをたちまち自分の虜にして子孫を残していくのさ」
さらに性別変更については――
「プリズム族の臓器、とりわけ胎児を生み出すための子宮には大きな特徴がある、簡単に言うととても強いということだね。
そもそもその子宮自身が外見を形作っているといっても過言ではないね」
どういうことだろうか、クラナの話はさらに続く。
「そして、その子宮から生まれる子供だからこそ美形が生まれるってわけで、
まさしくそれこそが美の象徴ということだね」
クラナによると、プリズム族の間では”身に宿るものはそれに相応しい姿へと変えてしまう”ということが言われているらしい。
「外見が変わるかどうかはあくまで遺伝子依存みたいだから、どう変わるかとか綺麗になるかとかは一概には言えないみたいだけれどもね」
だが、プリズム族の間では男児に生まれた子供を女児へと育て、
子宮を移植する手術を以て結果的に女児へと性別変更するということが行われているのだそうだ。
それについてはラーシュリナも――
「流石に聖獣様はお詳しいですね、
確かに、私の知り合いの何人かもそれをしていますね。そして、実際に子供まで生まれています」
だそうだ、ゆえにプリズム族だから成立する話ということである、なんともいろんな意味でヤバイ種族である。
「そうなのですか……、改めて訊くことになりそうですけど、それは伝統的なものとかそういうものですか?」
ウェイドはそう訊くとラーシュリナは答えた。
「はい、そうなんです。
一定の年齢になると私たちはおおむねチェックされます、男児か女児かって。
その時点で男児の方が見つかった場合は女性になるためにいろいろと準備することになります。
そして、一定の期間を経て里の腕利きによる手によって子宮移植術が施されます。
たまーに忘れられている子もいますが……」
ということだそうだ。
たまーに忘れられている子もいるというが、それだけアバウトなところがありそうだ。
「プリズム族というのは何たるか――彼女らはそういう掟に従って生きているんだ。
性別変更っていうのもまさにプリズム族というのは何たるかを語る上で欠かせない要素と言っていいだろう。
そして彼女らの身に宿る臓器より作り出される妖魔の血……それによって彼女らは誘惑魔法を行使することができるんだ」
と、クラナは説明した。
しかし、そう言う種族はまさに世を乱すような能力を持っていると言ってもいいような種族、
つまり、自らを禁忌なる種族として掟の上で生きているのだそうだ。
そのためレイのように外界というのを知らず、自らに枷をかけるために人知れず暮らしているのである。
つまり、旅の目的をいとも簡単に明かしたのは彼女がそんな閉鎖的な種族でひっそりと暮らしているため、負の影響はないと判断してのことだった。