圧倒的火力によるレイの攻撃による応酬だけでは心許ないため、
たまにはウェイドの後ろに隠れつつ、クラナの遠隔による支援攻撃をあてにしつつ、
ここぞというときはレイが一気に距離をつめて一気にとどめを刺す――
そんな感じで3人は進んでいくと、その日の目的地である街道沿いの町にたどり着いた。
「ここからが厄介でしてね、世界崩壊の影響でこの先の道幅がかなり狭く、魔物にも狙われやすい地形を通る必要があるのです」
道幅の狭さは両側に海があるから、そう……海岸沿いということになる。
右も海、左も海、そういう場所を通るのでなかなか厄介なんだそうだ。
「しかしよくよく考えると、あなた方なら特に気にする必要もなく進めそうですけどね」
場所が場所なだけに出没する魔物が限られるのも特徴だった、どういうことかとレイは訊いた。
「水棲生物には雷魔法を、飛行タイプには飛び道具や風魔法を、当たり前のことでしょ」
クラナが説明した――レイは狼狽えていた。
翌日は言われた通りに魔物を倒して突き進めたのでレイはそれをいつもの勢いで敵を破壊していった。
「風魔法じゃあありませんでしたっけ? 全部、格闘術に組み込んでいるのは――」
レイはまさに文字通り水棲生物である半魚人的な魔物には雷魔法による拳で、魔鳥の類には風魔法をまとった拳で叩き込んでいた。
「魔法剣ならぬ魔法”拳”ってやつだね――もう好きにして」
クラナは呆れていた。
「でも、雷魔法でこれをやると下手するとビリビリして痛いからフツーに魔法を打ったほうがいいこともあるんだよ!」
「あっそ」
「ビリビリして痛いのなら、杖を介してやればどうでしょうか?」
「杖自体が電気を帯びやすくってさ、それでビリビリが伝わって1回自爆したことがあるんだ――」
「それって、魔法が下手ってことですか?」
「そうだよ、この娘は魔法が下手クソなんだ、見守っていてあげて」
「こらぁ! 誰が下手クソだぁぁ!」
そんな感じで3人は海の街道を進んでいった。
なんというか、せっかくの海辺に出たのだからもう少し感動があっていいものの、
崩壊後の世界の海は暗くどんよりとしていて静かなものだった……むしろ静かというよりも不気味という感じだった。
だがその時――
「気を付けてください! なんか来ますよ!」
ウェイドが何かの気配を察知して注意を促した。
その気配の元である魔物の存在に気が付いたのはクラナだった。
「あいつ――”サンダー・フール”じゃないか、しかも中型のサイズが群れているようだね」
その名の通り、雷を扱う魔鳥の一族である。相手は5体――雷ってのがいやらしいのに数も多いとはなんとも面倒である。
「レイさん! 相手も飛び道具を持っているハズです! だから私の後ろに隠れてください!」
ウェイドはレイの前に出て、魔物の前に立ちはだかった。
すると、魔物はこちらに気づくと早速雷の魔法を次々と飛ばしてきた。
ウェイドはその攻撃を巧みに盾で防いでいた。
「こいつはなかなか厄介ですね、どうしましょうか――」
その時、クラナが魔鳥を自慢の射撃で撃ち落とした。
「こんなの、こうすればいいのよ。だけど――」
撃ち落としたはずの魔鳥はなんと起き上がり、再び飛行を開始するとホバリングでこちらの様子をうかがっていた。
「面倒な魔物だなー! かくなる上は――」
すると、レイはおもむろにウェイドが携えている剣を勝手に引き抜いた。
「えっ、ちょっと、レイさん!」
ウェイドは驚いていた。
「ごめん、ちょっとだけ借りるよ!」
「レイ! あんた、剣なんて使えるの!?」
だが、レイは構わず――
「よーし! 覚悟しろぉ!」
彼女は剣を構え、そのまま敵に突進した。
「レイ! 敵の攻撃が!」
だけど、レイは雷撃を全部剣を使って受け流し……
「お返し! クロス・ラーッシュ!」
そのまま交差斬りを繰り返し、魔物を2体巻き込んでみじん切りにした!
「まだまだ! セイント・スマーッシュ!」
さらに勢いよくもう1体、聖なる魔法をまとったリーチのある一撃で真っ二つに裁断!
「あの人――本当に魔導士ですか!?」
「私のほうが聞きたいよ」
そして残った敵による反撃!
だが、残りはクラナの援護射撃による妨害を受けていた。
その間ウェイドがそのうちの1匹を左手の盾で殴りつけ、トドメに右手のげんこつで殴りつけた。
「その剣を返してもらえばトドメをさせるのですがね――」
でも、その敵は気を失っている、時間の問題である。
そんな様子に対して残った1匹は西の方へと飛んで逃げてしまったようだ。
ということで、その場での戦いは幕を下ろした。
「しかし、このあたりでこれほどたくさん現れるとはなかなか珍しいですね、
もしかしたらどこかで編隊を組んでいるのかもしれません」
ということは、どこかで”サンダー・フール”の群れに遭遇するということになりそうだ。
「それはそうと、その剣、いい加減に返していただけますかね?」
あ、忘れてた――レイは照れた様子で武器を返した。
だが、ウェイドは気を利かせ、
「どうやら剣をこれまで持ったことのないあなたの剣技のほうが頼りになりそうですので、こちらのほうを――」
すると、ウェイドは自分の鞄の中を探し、30秒後に探していたものをレイに渡した。
これは――小ぶりな剣が2本、双剣といったところだろうか。
「格闘センスも抜群のようなので、2本差し上げます。
申し訳ないのですがそれは私が昔使っていたもので、おさがりというものですね。
青銅製ですので贈答品というには少々おこがましいと言えるかもしれません。
ですのでドミナントについたら、買い替えることをオススメします」
しかし、それでもレイは嬉しかった、
ウェイドに返した剣は中くらいのもの、今のレイならむしろ短いのが2本のほうがちょうど良さそうだった。
「しっかし、レイさんって剣を本当に使ったことがないのですかね?
本当に遺伝だけでこんなことができるものなんでしょうか?」
彼女が素振りを始めているとウェイドはそう言った。まったくもってその通りである。