このアークデイルの地では精霊族と魔族と併せて5割で残りが人間族というのが常識で、
それというのはつまり人間しかいない町が多いということを現している。
ということはつまり、クロノリアは逆に精霊族しかいないのでレイやクラナにしてみれば、
よその種族云々と言われたところで”だから何”程度のことでしかなかった。
しかし、これから向かう予定であるドミナントは多民族国家で、
精霊族も魔族も人間族も混在しているという、ある意味理想の都なんだそうだ。
その魔族、ウェイド=レグアスと話をしていると、彼は、なかなか正義感あふれる人物だということが分かった。
「なるほど、伝説の”フィールド”の修理ですか。
確かに伝説の存在となっているそれの修理ということであれば、
その苦労もなかなかのものになりそうですね」
そもそもそんな話をしたところで要領を得ない話、
荒廃した世界の中で登山の覚悟と準備をしなければいけないのがネックであり、
準備するにしてもその道具をそろえるのが至難の業……
そんな背景ゆえにクラナはその話をしたのだった。
彼はドミナント出身のハンターで、
ハンターといえばこの荒廃した世界を復興しようと奮起している連中が集まっている集団で、ギルドというものを結成しているそうだ。
だけど、彼はハンターズギルドだけの仕事だけではなく、
なんだかいろいろと情報収集をして世界復興のために頑張ろうとしているところなんだそうだ。
そこでその情報収集のために世界崩壊前の姿をとどめているクロノリアに赴いて、何か得られるものがあるかなどと考えているようだ。
「クロノリアはこんな世の中に唯一崩壊前の原形をとどめている都でもありますからね、よからぬ連中の存在にも気を付けたいものです。
だから、この話題を出す相手についてもかなり慎重に扱っているんです」
しかし、その中でも明らかに異邦の存在たる2人、つまり明らかに”浮いている”身なりをしている2人を見るなり、
意を決して話しかけてきたんだそうな。
「確かに、そのフィールドというのがないとなればいささか心配ですね。
それはやはり、外界からの攻撃に対するバリアの役割をするものでしょう?
世界崩壊から免れられたことが物語っていることでもありますしね」
ウェイドはそう言うとクラナは答えた。
「察しがいいわねえ、まさしくそのとおりよ。
だから詳細とかについては勘弁してもらえればと思うんだけど――」
「ですね、むやみやたらに相手を信用しきるのは避けたほうがいいです。
特にこのような世の中ですから、当然荒んだ心の持ち主にすべてを話してしまえば厄介事も増えてしまうことでしょうし。
しかし――できれば私はクロノリアへ行ければと考えているのですが――」
そう、彼は不可能なミッションに挑もうとしているのであった。
そして翌朝、2人のもとへウェイドが訪ねてきた。
彼のクロノリア行きについてどうしようか、昨夜は1日考えさせてほしいと言って話を一旦締めたのだがその結果は――
「どっ、どうされたのでしょうか……?」
クラナは朝からとてもイラついており、ウェイドはとても心配していた。
「私は疲れていたからベッドに入った途端に秒で寝られたんだけどね。でも――」
レイはそう言うとクラナが遮った。
「何でもないよ、ただ宿屋のやつにもんくを言いたいだけ。もう二度とここの宿屋に泊まんない」
まだ言ってる……レイは唖然としつつこっそりと話をした。
「彼女ね、寝床の寝心地が悪いと一日中機嫌が悪いんだ――」
えぇ……ウェイドは唖然としていた。
そんなことは置いといて、ウェイドについて考えた案としては彼にチャンスを与えるというものだった。
そもそも外界の魔物と戦い続けるのは骨が折れるもの、
だから、彼にこの旅の手伝いをしてもらおうと考えたのである。
「つまり、このままドミナントに一緒に同行してくれ、ということでしょうか?」
まさにそういうことである。
ハンターというだけに腕も立ちそうだし、もしかしたら案外旅の助けになるのでは――2人はそう考えた。
「なるほど、わかりました。それではその役、謹んでお受けいたしましょう!」
こうしてウェイドが仲間になった。
だが、彼がこの物語上では欠かせない存在であるとは、この時点ではまだ誰も予期していないことだった。