外界一発目の魔物のトリを務めるのは……鳥?
「冗談言ってる場合じゃあないでしょ! さっさと仕留めるよ!」
ということで、鳥の魔物を斃すこととなった。
鳥といえば――ラグナスのことを思い出した。
一昨日レイが夕飯にしたあいつだが、ラグナスがなんとかうまい具合に利用して、
どうも彼女を偵察するように仕向けた結果の事だったらしい、その結果は彼女の胃袋を満たすハメになったようだが。
いや、てか、ストーカーかよ。少しは考えろよ聖獣。
次やったらラグナスをぶん殴ることにするわ、レイはそう思っていた。
何とか残りのトリ……もとい、鳥を撃破した。こうしてクロノリアの麓は平和になったのでした。めでたしめでたし。
「こんなもんか。さて、さっさと進むよ」
ということで2人は西へと突き進むのだった。
しかし、ドミナントへの道のりはそう簡単にはたどりつかない長い道のり、
魔物との連戦も少しつらくなってきたし、
さすがに連戦をこなしていくもレイ元気は後まで続けるのは困難で長続きしなさそうだ。
長旅になるということはペース配分も必要ということか。
「あんたって面白いねえ、こんな隠し技を持っているなんて――」
クラナはそう言った……なっ!? 面白いといえば! レイはクラナに訴えていた。
「えっ? 私がそう言ったって? なんのこと?
……ああ、ナイザーが何かにつけて二言目にはそう言っていたことね。
あんまりにうっとうしいから言い返してやったのさ、
レイは私と容姿が似ているから”若くて綺麗だから”ってね。
なのにあのクソオヤジ、若くて綺麗だけど面白すぎてクソウケるとかほざきやがった。
私も頭に来たけど流石に正体さらすわけにもいかず、ぐっとこらえるしかなかったね――」
あんのセクハラジジイ! クロノーラのせいにしやがって!
次に会ったら三枚におろす! レイは怒りが燃え上がっていた。
と、怒りに任せたその元気は結局長続きせず、元気が尽きる前にちょうど都合よく街が見えてきた。
街というよりは街道沿いのお店群というものか。
「これは……復興した、ということなのかな?」
レイは訊いてみた。彼女はおろか、クラナにとっても初めての町ということらしい。
「町というよりは、小さな宿場町……言ってしまえば旅人たちの救いの手ともなる夜を明かすための施設というものみたいね」
そうまさに冒険者のために必要な施設がそろっているだけの街なのだ。
この世界は冒険者で成り立っているといわれているけれども、このような街が街道沿いにあるというのはまさしくその証拠。
つまり、私らにとっては、このような街の存在は非常にありがたいものなのだ。
ということはつまり、宿屋もあれば酒場もあるんだけれども――
「レイはお酒飲めるの?」
残念ながら、彼女は未成年である。
今更だがレイ自身は年齢は18歳で精霊族ゆえに16歳ぐらいに見えるのだが。
一方でクラナは……何歳なんだろうか、聖獣をやっていると実際の年齢はあんまりわからないのだが、
見た目なら少なくとも25~26には見える。
ともかく、レイのような精霊族はいつまでが未成年というくくりなのだろうか、それがよくわかっていない。
そもそもその考え方を生み出したのは人間で、精霊族にあてはまるのかどうかがよくわからないのだけれども。
だけど、アルコールというのはどの生物にも共通して、何かしらの問題というのがあって、
とりわけ健康や倫理的にも一定の年齢に満たない者が摂取することについては問題があるらしく、
とりあえずは”未成年”は飲んだらダメというのが最低ラインとして設けられているのである。
それでも冒険者にとっては酒場という存在は欠かせないので2人は酒場へと赴いた。
ちなみにクラナは下戸なので、そもそもお酒が飲めないのだ。
それにお酒が飲めない冒険者というのは珍しくはないため、
単に冒険者のための食事処として開放されている場合が多いらしいのだが――
「ね、ねえ――それ、本当に全部食べるの……!?」
クラナはレイがオーダーした料理の数に対してあっけにとられていた。
「ん? うん、もちろん……って、何か問題でもあった?
ああっ、そっか! お金なら大丈夫! 自分で食べる分は――」
「いやいや、そういうことじゃなくって――」
ということで、レイは大皿にして10皿分の料理を軽く平らげていた。
「ふー、食べた食べたー♪」
「食べ過ぎでしょ! まったく、よくもまああれだけの量を一人で食べたわね。どう、満足した?」
「うん、満足した! あとはデザートが食べられれば余は満足じゃ!」
「まだ食べる気か!」
デザートはジャンボフルーツパフェというのが目に留まったので、彼女はそれをオーダーし、当然のようにそれを食べきった。
「ごちそーさまー!」
クラナはその様子を見て頭を抱えたまま微動だにしなかった。
しかし、レイはそんなことを全く気にせずにグレープフルーツジュースを飲んでいた――ジュースは5杯目である。
「ねえ、どうしたの? クラナはその量で充分なの?」
クラナはせいぜい1皿分ぐらいである。
「あんた見てるとこれ以上食べようだなんて気がしなくなるわ」
私なんか悪いことしただろうか、レイは悩んでいた――いや、そう言うことじゃなくて……。
「そんなことより、さっきからこっちのほうを見ている人がいるんだけど……あんたという大食い女子が珍しいんだろうねえ、きっと」
クラナはそう言った、私は珍しいのか――レイは首をかしげていた。
というか私って大食い女子なのだろうか、レイはそう訊くとクラナに「自覚しろよ」
するとその人は2人に駆け寄り、話しかけてきた。
「いやあ、いい食べっぷりですよね――」
「そうなのよ、私と血がつながっているだなんて到底思えないわよね?」
近寄ってきた男の人、彼はそう言うとクラナはうまい具合に返答していた。
「そ、それよりも、あなた方の服装が気になりまして――」
2人の服装はローブ姿、レイのは灰が被ったような白いローブで中のトップスが白のシャツ、
そしてボトムスは赤いスカートの中に黒のショートパンツである。
その一方でクラナは紫のローブ、紫といえば聖獣クロノーラの色そのもので、やはりそれを意識している感じである。
そしてトップスもボトムスも黒いシャツとスパッツを着用している。
これが何か? だけど――2人は今更ながら気が付いた、周囲を見渡してもローブ姿の冒険者が少ない――。
いるにはいるのだが、だいたいがローブ姿以外の何物かとつるんでいる……ゆえにローブ姿だけのペアは珍しいようだ。
「どう見ても魔導士か何かですよね。だとしたら、もしやクロノリアの方なのではと思いましてね――」
そんな彼は黒い服を身にまとっていた。
2人はライト・エルフ、つまり精霊族らしく色白だけれども、
彼はそれとはまったく異なる――なんというか暗いというか、うっすらと青い感じの色の肌をしていた。
「あんた、魔族だね?」
と、クラナが訊いた。えっ、魔族ってこんなに簡単に出会えるものなの?