しかし、下山していきなりどこに行って手掛かりを探せばいいというのだろうか?
それこそ雲をつかむような話である――古の時代に雲の名を冠するタイトルの本がクロノリアにあったと言われているのだが、
念のために言っておくとそれとは関係ない。
てか、禁断の書物などと言われていたようだけど、まさか本当にえっちぃ本の類じゃないよね?
クロノリア民の男どもはそう思っている者が多いらしいが、女性陣はその意見については正直呆れていた。
まあいい、そんなどうでもいい話は捨て置こう――。
「あんたさあ、クロノリア出る前に、渡されたもんがあるでしょ?」
クラナに注意された。そう言えば忘れてた、何らかの書物を渡されていたな。
「これが噂の”フィールド作成技術書”ってやつね。私も存在は知っていたけど、実物を見るのはこれが初めてよ」
クラナはそう言った。
エターニスの理論の話を思い出したレイ、”何もなくなってしまった世界の再生は困難を極めるが、
それでも世界が残っているのであれば再生は易しい”――
このことを踏まえて修復と作成では明確な違いがあることを考えてほしい、
そう、残っているののなら再生は易しいので修復するだけならそこまででもないのである。
だが、何もなくなってしまった場合の再生は困難を極めるので作り直すことはとても大変ということである。
つまり今回の旅は相当大変な旅であることが容易に想像できるのである。
その材料については書物を開いても何も記載がなく、唯一一番最初のページに”太陽の祭壇にて”という記載があるだけだった。
”太陽の祭壇”といえば――
「まずは西の”ドミナント”に行くことになりそうね。だけどさ、この書物、何も書かれてないけどやたらと長いね――」
と、クラナは考えつつも、悩んでいる様子だった。
とにかく太陽の祭壇に行けばわかりそうな気がするけれども、それでもとてつもなく大変なことになりそうな予感がして、
レイはちょっとドキドキしていた、大変だなーって。
そう、彼女としてはむしろこれから冒険が始まるんだという期待のほうが大きかった。
なんたって、彼女は外の世界というものを知らない。
今まではクロノリアという都の中で閉じこもり、”結界石”を作るのに毎日毎日頑張っていたけれども、それとはもうおさらばだ。
そう、彼女の冒険はこれから始まるのだ!
するとクラナはそういえばレイを改めて見て考えていた。
「ちょっと待った! あんた、武器はどうするの!?
流石に外の世界を歩くのに丸腰ってわけにはいかないでしょ?
それに年齢や修行具合から考えて、杖を持っていても流石に魔法向きとも言い難いしね――」
武器? はあ、言われてみれば確かに――レイは考えた。
そういえばクラナは弓矢を背中に担いでいるし、それなりに腕に覚えがありそうだ。
そもそもクロノーラだから魔法も強そうだもんな――レイは考えた。
それに引き換え、彼女はどうする気なのだろうか……クラナはそう思ったが――
「ぐあっ! こっ、こらっ! こんな外の世界も歩くにも不安そうな老いぼれに向かって! 少しは手加減せんか!」
「黙れこのセクハラジジイ! 都合のいい時ばかり枯れ枝みたいな老いぼれ風を装うんじゃねぇ! しばくぞ!」
そう、昨日の長とのやり取りを思い出してほしい――彼女の武器と言えば何を隠そう――
レイは鞄の中からナックルガードを取り出し、それを腕にはめた。
「ま、まさか……あんた――」
「もちろん私の武器はこれよ!」
こうなったらこれしかない、すべての敵はこのグーで弾き飛ばしていくだけだ!
すると、いきなり魔物が現れた。
「レイ! 狼の魔物だよ! 気を付けて!」
と注意したクラナ、気を付ける? こんな魔物、どこをどう気をつけろって?
レイの場合、この手の魔物はいつもこんな感じでぶっ飛ばしていた。
「炎をくらえ!」
これは炎系の魔法”フレイム・ショット”と呼ばれるものである。
ちなみに魔法の種類にも簡素系<シンプリシティ>と原始系<プリマティブ>の2種類があり、
前者はシンプルな効果をもたらすもので期待した効力しか発揮できない反面、
言い換えれば期待通りの成果が出るため単純に魔力を込めることで安定して威力を高くできる特徴がある。
いわゆる人工的に作られた魔法グッズを使って使える魔法も主にシンプリシティ系の魔法を発動するためのものとなる。
だけど、こういった魔法の勉強というのはレイなどのような魔導士の生まれでもないと勉強することはほぼなく、
この世界ではそれを学ぶ者はあまり多くないらしい。
それが何故かというと、逆にプリマティブを説明するとわかる。
その通り原始的な魔法であり、これが本来の魔法の姿でもあるのだけれども、つまりそれこそが”生の魔法”というもので、
知っている人の間ではプリマティブが”生の魔法”でシンプリシティが”普通の魔法”という言い方でも通じる。
何が違うかというと、プリマティブの起源が生の生命体や自然の”マナ”と呼ばれるものからダイレクトに”エーテル”を取り出して魔力にしたものを魔法として行使するため、
取り出した”エーテル”次第で如何様にも効果が変わることから効力が安定しないという欠点がある。
そこは魔導士たる使い手の腕の見せ所となってしまうところだけれども、
そうなだけに使い方次第では世界を破壊する究極の魔法にもなりかねる、
とてつもなく恐ろしい存在にもなれるらしい――もちろん、それをするにはそれだけの能力を要することは確かだけれども。
ちなみにレイの場合は言うまでもなくプリマティブの使い手である。逆を言うとプリマティブのほうしか知らない。
そもそもクロノリアに住まうのは精霊族のみであり、
彼らはそもそも基本的にプリマティブがデフォで使える状態で生まれてくるため、
わざわざシンプリシティだのというのを勉強して使う必要がない――そう、彼女は精霊族である。
とまあ話は過ぎたが場面は戦闘に戻そう。
「――からの、ストレートっ!」
炎でけん制した狼に対し、彼女はグーで追い打ちをかけると、狼はその場に転がった――
外界に出てまず1匹目、なんとか仕留めたか――
「いや、仕留めたか――じゃないでしょ。あんた、意外と強いのね――」
クラナはレイの様子を見て唖然としていた。