クロノーラ・クロニクル

第1章 旅立つ者のための約束の地

第3節 旅立ちの真相

 まさか、私があのクロノーラの……?
 翌日、レイはその確信に触れるため―― そもそも彼女自身が選ばれた理由を確かめるため、 彼女はクロノリアの入口となるゲートという場所で何らかの書物を手渡されると見送りもほどほどに、 そのままクロノーラに指定された場所へとやってきた。
 ゲートとはその通り門のことで、外界からの客を招き入れるための岩の門が設置されていた。 ただ、門があるところは、そこは山道の階段のある場所である。
 山道ということは、つまりクロノリアは山の上、クロノリア大連山の5~6合目ぐらいにある都なのだ。 つまり、旅立ちにはまずここから下山しなければいけない。
 もちろんクロノリア民でそんな体力を備えている者はあまりおらず、 たとえ下山と都への戻りの登山ができたとしても山から外の世界のどこかへ行くという体力までは残っている保証もなく、 そう言ったこともあってかクロノリア民はそもそも外界の文明と交わるということが起こらず、 必然的にクロノリア民の隔離状態となるのである。
 だけど、そのルールが解禁されることに付随して、この度はショートカットが使用可能となる。 テレポートの類の装置らしきものがどこかに設置されていて、 クロノーラからそれの使用の許可が出たのだ、その装置らしきものはクロノーラが封じているためである。
「そのうちあんたにも装置のことをちゃんと教えてあげるから安心しなさいよ」
 その声の主、階段を下りた先のクロノリア・ゲート前広場とも呼ばれる、円形の広場の真ん中にその人はいた。
「ふふっ、どう? これが私の本来の姿なのよ。これで確信に迫った感じ?」
 その姿――レイにしてみれば確かに朝に鏡をのぞき込んだ時に見た歯を磨いている普段通りの自分の姿と似ていた。
「私はクラナ=オンティーニ、大体20年ぐらい前に生まれたクロノーラで、 オンティーニの血を継ぐもので間違いないよ。 レイのお母さんのお姉さんの娘だから従姉妹同士になるわね」
 本当だったんだ、まさかとは思ったけど――つまり、次代のクロノーラは私? レイは首をかしげていた。
「言っても私なんてまだクロノーラになりたてなんだけどね。 だって、聖獣クロノーラをやるからにはある程度年取ってからやるもんなんだけど、 先代が早死にしちゃったもんだから私しか代わりが務まる者がいなくってね。 そんで仕方なく、私がやっているってわけね」
 そうなのか、先代の急死がきっかけ――
「普通は”転生”を何度かやって聖獣クロノーラをやるもんなんだけど、 早くに急死したからあんまり”転生”せずにクロノーラやってるのよね。 だからあんたがなるまでには結構時間がかかるかもしれないね」
 ”転生”というものをしてクロノーラとなる者の精神を磨いていくのだそうだ。 だが、クラナはそこまでには至らずに聖獣となってしまっている、 急死には主に世界崩壊が原因として挙げられる、やはり荒廃した世界を守っていく聖獣の役目というのはそれだけに大変なことだったということである。
 そしてクラナだが、言ってしまえばレイが一人前になって聖獣となるほどの器となる日まで彼女がその間を凌いでいくということだそうだ。 とはいえ、もしかしたらクラナがそのままクロノーラを続けることになり、レイがクロノーラになることがないということもあり得る。 言っても、レイとしてはそれがいいのか悪いのかわからないし、 昨日今日言われた真実を受け止めろって言われてもどだい無理な話であるため、正直どちらでもいいというのが率直な感想である。

 いきなり話が飛躍してしまったようだが、”転生”って話が出たようだ。 今の話のように、聖獣や世界を管理するような存在クラスの者となるためには自らの能力――特に精神力を高めなければいけないらしい。
 しかし、それは人が一生涯かけて取得できるほどの生易しいものではないらしく、 2度や3度の人生をかける必要があるような非常に過酷なものらしい。
 だから、その人の魂が尽き果てぬ限りは転生を繰り返し、何度も生を受けてまで力を高めていく――ということが必要なのだそうだ。 それについては主に”精霊界”と呼ばれる場所で啓示を受けるという決まり事があるらしいけれども、 その内容はあまりに複雑なので、ここではとりあえず省くことにしよう。 機会があればまた今度説明することにする、機会があれば――いつの話になるんだ?
 さらに、”転生”のほかに能力自身を継承して受けることでも可能で、クラナは主にそちらのタイプの聖獣である。 特に現状のこの世界に生を受けている聖獣のほとんどがこの世界が崩壊した後に生まれており、 旧聖獣は世界崩壊の折に力を消耗しすぎたため、次代の聖獣に力を託し、力尽きた者が多いらしい。
 そして世界が崩壊した後に生まれているというだけあって、どの聖獣もみんな若いという特徴があげられる、 クラナは典型的なそのタイプの存在と言える。 だから修行というのはすることなく、崩壊した後の世界の過酷さに耐え抜くという違う方法での修行を強いられている―― というのが現状らしい。
 で、逆に世界崩壊前から生きている聖獣というのが昨日レイの前に現れた鳥の聖獣である”ラグナス”と、 それから今回の物語の最終目的となるのかもしれない遥か南東の海に浮かんでいるランゲイル島にて、 邪悪と対決しているらしい”イーグルガン”という聖獣がその類なのだそうだ。

 頭がこんがらがる前に話を戻そう――えっ、もうついていけない? なら、流し読みでも問題ない、思い出した時にでも。
 テレポートは特にこれといった感慨深いものはなく、 指定の魔方陣らしき場所へと入るといつの間にやら山の麓のほうへと降りていた。 なんというかもう少し何かあってもいい気がするんだけど――
「実は世界崩壊後のテレポートはあまり精度がよくなくってね、 以前はもっと豪華なワープみたいなもんだったらしいけどそういったものもなくなってて ”山の麓のどこか”に飛ばされるっていう変な不具合を起こしてしまっているって先代のクロノーラが言ってたかな」
 なんじゃそら。確かにこれはフィールドとともに修復しないとダメだろう。 ワープした先が魔物の群れの真ん中だったら洒落にならない。