そして二日後、いよいよ別れの時が。
何の変哲もない2本の柱――一行はその前までやってきた。
「ライア――元気で――」
「お姉様――」
アシュバール姉妹はしっかりと抱き合っていた。
「ほら! シュタルちゃんも!」
アルクレアに言われ、シュタルも涙をぼろぼろとこぼしながらアルクレアにしっかりと甘えていた。
さらに――
「お兄様――」
ネシェラはロイドとしっかりと抱き合っていた。
「お前に限って身体を壊すということを知らないからわざわざ言わねえけどな――」
ネシェラは態度を改め、得意げに言った。
「ったり前でしょ、この私が仕事に命かけるわけないでしょ。
時間が来たらきっかりと引き上げさせてもらうからね。
そしたらあとは……お兄様と一緒よ! だからお兄様こそ……しっかりやんなさいよ!」
ロイドは頷いた。
「お前に言われたからにはそうするしかねえな」
2人の目からは明らかに涙が――
「セレイナ、あなたもよ――」
「ネシェラさん――」
2人は抱き合っていた、とっても嬉しそうだった。
そこへシュタルも加わり、ネシェラとの別れを惜しんでいた。
「あっ! あれを見て!」
ディアは空を指さした、そこには七色に輝く蝶が!
「お母様!」
セレイナはさけんだ。
お母様は遠くから暖かく見守っているようだった――
「お母様――お元気で――」
セレイナは力強く言うとリアントスが前に出て答えた。
「あんたの娘は俺が守る! 絶対に約束する!」
すると、七色の蝶はなんだか嬉しそうにしているように見えた。
「じゃあ、そろそろ――」
ネシェラは涙でボロボロになりながらそう言った――
「ああ! 行って来る! みんな、元気でいてくれよな!」
ロイドがそう言うと――
「いいよな? ここに入ったらもう引き返せないぞ? 本当にいいんだな?」
そう続けたが、各々返事は決まっている。
「もちろんよ! 私はロイドについていくだけ!」
「私はいつか必ず、帰ってくるからね!」
「私もです! また帰ってくるために!」
「なんでもいいからさっさと行こうぜ!
あんまり焦らし過ぎると――どうしようか迷っちまうだろ……?」
5人は一度に精霊界へと入って行った――。
「俺も正式に聖獣になるために精霊界で啓示を受けてくる。
5人が洞窟に入ってくるところまで見送ってくるよ――」
そしてディアも突入すると、ネシェラは涙を拭きとりつつ言った。
「行ってしまったわね――さて、そうと決まったらあの5人に顔向けできるように生きていくわよ!
みんな、いいわね!?」
かつて、”ローア”と呼ばれた大昔の時代に名もなき時の英雄たちがいた。
その者たちは世界にはびこる悪を倒し、そして邪悪なる者と呼ばれた世界の巨悪へと立ち向かった。
だが、英雄たちは決して名を語られることなく、ヴァナスティアの教えの中ではこう呼ばれて語り継がれることとなった、
”時の英雄たち”という存在として。
そして、此度もまた、ローアの時代同様に邪悪なる者と呼ばれた世界の巨悪が現れた。
その者たちは流星の騎士団――当時のアーカネルと呼ばれる騎士団に所属している一個隊に過ぎない彼らだが、
如何なる巨悪が相手であろうと決してひるむことなく、信念を貫き通し、邪悪なる者を討ち滅ぼすことに成功した。
そして、彼らは後にこう語られることとなるのだろう、”アーカネリアス”と呼ばれた時代の英雄たち、と。
だが、それでも彼らは決して名を語られることなく語り継がれるだけである。
それは何故か? そう――彼らもまた、アーカネリアスで活躍した”時の英雄たち”の一部に過ぎないのだから。
アーカネリアス・ストーリー
The Arcanerius Story
~完~