アルクラド大平原の途中の宿場町で夜を迎えたが、ロイドは進むことにしていた。
ロイドはもともと夜なべできるほど”器も大きい”ハズだが、他の面々もそうなった。
だが、精神修行をこなすことである程度は融通の利く力を得られているのだろう。
しかし、ロイドとしては――
「世界も平和になったことだし、夜のこの世界も見てみようかと思ってな――」
それが目的だった、ランブルは頷いた。
「確かに、その通りですね。
むしろ私はこっちの世界に慣れてしまいまして、今では週に2回寝るようになりましたよ。
そのうちどんどん期間が短くなるかもしれませんね――」
ロイドは頷いた。
「こっちの世界の住人は基本的に毎日寝るのが当たり前だからな。
さて、そろそろお別れの時間だろうか――」
ランブルは頷いた。
「名残惜しいです――ですが、すべてはこれからのためですしね。
ロイドさん、皆さん――いつまでもお元気で!」
「ロイド! 腕を磨くのを忘れるなよ! 2人もな! 気を失っているのにもよろしく言っておいてくれ!」
ランブルとゼクスと別れた――。
馬車を進めていると、今まで意識がなかったとある御仁が目覚めた――
「う……ん……ここは……!?」
それにセレイナが気が付いた。
「あっ! シュタルさん!」
そう、彼女もまたロイドたちと共に精神修行を行っていたのだった。
「そっか……クレアとランブルとゼクスとは会ってきたんだね――」
シュタルはその話を聞いていた。
「ゼクスが頑張れよって言ってたぞ」
ロイドはそう言うとシュタルは力強く答えた。
「もちろん! 私だって!」
そしてパタンタを抜けオーレストを抜けると、ある日の昼にアーカネルについた。
「ここは――全く変わっていないな――」
パタンタまでの宿場町はそれなりに施設が増えて変わっていたが、オーレストもアーカネルもほとんど変わってなかった。
だが、町は変わらなくても人は変わっていた――。
「そこの! 止まりなさい!」
ロイドたちは女性の騎士に止められた。
番兵たちは槍で彼らの行く手を遮った。すると――
「まさか、レオーナ!?」
シュタルは驚いていた、クレアと同じぐらいの見た目……彼女もなんとも見違えたようだった。
「みんな! 久しぶりね! さあ、お待ちかねよ!」
早速お城に案内されると、そこに待っていたのは――
「あら、久しぶりじゃない♪ ほらあなた♪ あなたの可愛い妹よ♪」
レミアンナ……流石は妖魔の女、20年経ってもその風貌はまるで代わっているようではない。
しかし、彼女の立場はすっかりと変わっていた、今ではアーカネルの執行官である。
「おいおいおい、仕事中にそれは辞めろって言ってるだろ……?」
ランバートは参った様子でそう言うと、レミアンナは上機嫌だった、話をまるで聞いていない。
騎士と執行官の恋だの結婚だの禁止とかいう話もあったが、もはやそんなことを守っている者はいない。
仕事に差し支えなければ可という暗黙的なルールが通例となっているのである、
やはり家族操業になりやすい仕事ゆえのことだった。
ランバートは大体40歳ぐらいの見た目だろうか、
しっかりとしたマントスタイルで将軍様の座としてはしっかりとした貫禄を見せつけていた。
「よう! シュタル! 元気してたか!? ロイド! 結局お前にはかなわなかったな――」
ロイドは頷いた。
「いつでも相手になってやってもいいんだぞ」
ランバートは全力で首を振った。
「ばっ、バカ言え! アーカネル最強の騎士って言われたお前に勝てるわけないだろ!? 流石に遠慮しておく――」
するとそこに、ランバートよろしくさらになんとも威厳のありそうな男がやってきた。
「えっ!? まさか――ロイドか!?」
そいつはアレスだった! 年齢とその貫禄にして48歳とはなんとも堂々としたたたずまいに4人は圧倒されていた。
「アレスー! どうしたの!? すっごい見違えたよー!?」
「すごいわね……これが時が生み出した貫禄ってやつなのね――」
シュタルとライアも絶賛しているとランバートは意地が悪そうに言った。
「ほらな? 言っただろ団長? こいつら絶対に驚くってな?」
えっ、団長ってことはまさか国王陛下……? ライアは訊くとアレスは答えた。
「いやいや、アーカネルは王制を廃止して共和制を導入したんだよ。
で、元は王座に会った団長の権利を民衆である俺たちに与えられることになったんだけど、
みんなの後押しもあってなんだかんだで俺が団長をやっているんだよ――」
と、彼は照れた様子で答えた、そうだったのか――。
「なるほどね、まあ、真っ当と言えば真っ当かしらね。
で、そんな団長様にももちろんお相手様もいらっしゃるんでしょうね?」
と、ライアはおちょくるように言うと、アレスは少々得意げに答えた。
「えっ? ああ、いるよ。というか会ってきただろう?」
えっ、会ったって!? 4人は驚いていると――
「そうだったわね! まだみんなには話してなかったわね!」
と、レオーナは楽しそうに――って、まさか――
「そうよ♪ 私たち、これでもう夫婦生活18年目なのよね♪」
そうだったのか、アレスはレオーナと結婚したのか。
結婚相手と言えば、ロイドとしてはどうしても気になる御仁が1人いた。
それはロイドのみならず、ライアもシュタルもセレイナも気にしている御仁である。
が――
「あら♪ みんな、久しぶりじゃないの!」
得意げな表情かつ得意げな態度で現れた彼女――ネシェラである。
……やっぱりというべきか、年齢的な印象はあまり変わっているようではなかった。
「アトローナにいるんじゃなかったのか?」
ロイドはネシェラとハグをしつつそう訊くと、ネシェラは答えた。
「お兄様たちと会えるかなと思ってこうして戻ってきたのよ。
それに――これからエターニスに一度戻ろうかと思ってね。」
エターニスに? ロイドは訊くとネシェラは得意げな態度で訊いた。
「ええ、そうよ。ほら、私を見て何か気が付かない?」
えっ、なんだろうか――ロイドは彼女をよく見てみると――
「うん……あれ!? ネシェラ姉様、まさか!?」
「えっ、もしかして――」
「うん……!? ネシェラさん……!?」
シュタルとライアとセレイナすぐに気が付いた。
「そうよ、私、妊娠してんのよ。
妖魔の女の血が入っているらしく、そんなに目立たないから私も気が付くのが遅かったけどね。」
な、なんだって!? ロイドは一番驚いていた。
「あっ……相手はどんなやつだ!?」
ネシェラは得意げに答えた。
「この私がいいって言うぐらいだから命知らずの変態に決まってんでしょ……
ってのは冗談、イケメンってわけじゃないけど、まあ――童顔な感じの可愛い男の子よ。
そんなんがこんなのを告ってきたんだから、せっかく女やっているのならって思って決断したのよね。
で、もうじき生まれそうだからエターニスに行こうと思ってね。
どうせ産むのならお母様と一緒でエターニスでって決めてたのよ。
でも旦那は忙し過ぎてアトローナでカンヅメだけどさ。」
相手の男が見れないとは少々残念か。だが――
「ま、お前の性格にはピッタリだな、
自分よりも上に立つような男よりは弟分ぐらいの若干頼りなさげなあたりがな」
ネシェラは嬉しそうに答えた。
「流石お兄様はわかっているわね♪
本当に頼りないのはNGだけど、それでも下ぐらいの男じゃないと絶対喧嘩するからね。
上に立とうとするといつの間にか蹴落とそうと考えちゃうから、まっ、いいところに収まったってとこね。」
なるほど――やっぱり男の選び方も安定のネシェラということか。
しかし、お前より上の男なんているのか? その疑問はぬぐえない。