アーカネリアス・ストーリー

第7章 アーカネリアスの英雄たち

第225節 真の王の剣を授かりし者

 前日までにそのアレスに差し出した剣を磨いていたネシェラ。
「なんか変な形の鍔ね、どうなってんのかしら?」
 どうしたのだろう、ディアが訊いた。
「磨いたはいいんだけど、変な錆の塊がどんどん出てきてさ――」
 塊――ディアは嫌な予感がしていた。
「えっ、ちょっとそれってさ、磨きすぎて部分的にボロボロになってしまったとかそう言うことじゃないの?」
 ネシェラは考えていた。
「だったらいいんだけどさ――いや、よくないか。 でも、その割には線対称の形にはなるのよね……」
 いや、なら線対称的にボロボロなんじゃないか、ディアは訊くと……
「まあ……錆を磨いていくってことは結局そう言うことだからね、 取れてしまうところは取って使わないと――」
 しかし、ネシェラはすぐさま気が付いた。
「ん、ちょっとまって、さっきの撤回、これ……錆とは全然違うわね。」
 そうなのか? ディアは訊いた。
「これ……炭化した木片? どういうこと?」
 そっ、それは――ディアは悩んでいた。
「なんなんだよ、謎の多い剣だなぁ。 つまり、最初から外すこと前提で組まれていたとかそう言うことじゃないの?」
 外す――そう思い立ってネシェラはどんどん外していくと――
「ぬおおおおおーい! いくつ出てくるんだよそれー!」
「私に訊かないでよ、ったく。見ての通り、結構こじんまりとした印象になったわよ。」
 確かにそんな感じだが――ディアは悩んでいた。
「にしても変な剣だな、何だったんだろう、木片の飾り――」
 ネシェラは剣をその場に置き、立って俯瞰でその剣を眺めた。 すると――
「ん、よく見てみれば木片を取って現れたここの溝、カーブしているわね。 ここもそうよ、ここもそうだし――」
 えっ、そうなのか? ディアも剣を眺めていた。
「見えない鍔が円形であることを再現しているのかしら? なんかそんな風に見えるけど――」
 と、彼女はそう言いつつ、ディアが手入れをしていたトラクロス・サークレットを取り上げた。
「えっ!? ちょっと! なにするんだよ!」
 そして、ネシェラはおもむろに――
「いよっと!」
 思いっきりその溝にサークレットをはめ込んだ!
「えっ……嘘だろ……」
 ディアは驚いていた。
「なるほど、トラクロス・サークレットをはめ込むことを想定した作りだったのね。 まさにトラクロスとティンダロスの友情の剣ってわけね。」
 そう……つまり、その剣の鍔はトラクロス・サークレットがはめ込まれ、これが鍔として機能しているのだという。
 そしてネシェラはディアにその剣を預けた。
「残りの手入れは頼んだわよ。」
 おっ、そう……ディアはちょっと嬉しかった。
「ヘタクソヘタクソ言われてたんだけどなー、いよいよ認めてくれたんだなぁー♪」
 だが――
「勘違いするんじゃないわよ、 曲がりなりにもアトローナの聖獣がそんぐらいできないと困るからやらせてやってんのよ、 感謝するんならその点を肝に銘じてくれるかしら?  当然、仕上がり具合でハイキックかどうか考えるから首洗っとくの忘れんじゃないわよ。」
 遠めから彼女の苦言が――
「うぅっ……相変わらず手厳しい……」
 頑張れ聖獣。ものづくりは一日にして成らずか……。

 そして聖殿ヴァナスティアにて、アレスとレオーナは戦いの行く末を願っていた。
「本物でなくてすみません――」
 彼女はエスティア、例のラディアッシュとフューナ、そしてディアスの6人でやってきていた。
「本物? ああ、聖女様ですか……。 確かに、形式的には本物のほうがいいと言えばその通りなのかもしれませんが、 俺個人としてはアナスタシア聖騎士隊のエスティアさんでも同じですよ。 それにしても……ミュラさんでしたっけ? そんなに身体が悪いのですか?」
 アレスはそう訊くとエスティアは悩みながら答えた、彼女は例の巫女衣装を身にまとっていた、あの重たい服――見た目は案外軽めなのだが。
「ミュラさん……彼女は元々病弱なんですが、人々の安寧に尽くすんだって言って訊かなくて――」
 無理してまで……
「厳しい修行に堪えることはできませんでしたが、 彼女はその努力が認められて特別に聖女になることができました、ただ――」
 だが、途中まで続けていた修行で無理をしたせいで状態が悪化、絶対安静を余儀なくされたのだった――
「ネシェラから聞いたんだけど、一日も早く平和が訪れることを祈っていたのね――」
 レオーナはそう言うとエスティアはにっこりとしていた。
「そうですね、ミュラさんには叶いません。やっぱり、平和が一番ですからね……。 私も一日も早く平和が訪れることを祈り続けることにします、みなさんやシュシュラ隊長の無事のためにも――」
 そして、エスティアはラディアッシュから剣を手渡されると、 エスティアはその剣を鞘から引き抜いて力強く両手で握りしめ、両目で刃を見据えていた。
「私は見ているわね――」
 レオーナはそう言いつつその場から離れると、アレスはエスティアを前にして跪いた。
 そして、彼女は何やら祈りを捧げていると剣を鞘にゆっくりと納め、アレスに上から手渡した。 アレスは両手を差し出してその剣を授かった。その様子を他の4人が見届けていた。
「ありがとうございます、俺、頑張ります!」
 エスティアは頷いた。
「ネシェラさんの仕事に勝るものはありませんよ、 その剣なら如何なる悪しき者をも打ち砕くことができるでしょう、 ”真・王剣エクスカリバー”と名付けられたその剣なら――」
 そう、ネシェラとディアの2人で磨いていたその剣である。 元の剣の名前は特になく、ネシェラが命名したのである。
「そうですね、確かに……。エスティアさん、無理言ってすみません。 みなさんも、お付き合いいただいてありがとうございます――」
 アレスは照れたような様子で言うとディアスとレオーナは嬉しそうに答えた。
「いやいや、次代を担う若者の勇士を見届けぬうちは死んでも死に切れんよ。 ならばその姿を確かめさせてもらっただけだ、心配するようなほどではなかったようだがな!  わはははは!」
「いいのよ。なんか、貴重なものを見させてもらったわね!」
 ほかの2人はエスティアに駆け寄った。
「お勤め、ご苦労だったな、エスティア――」
 ラディアッシュはそっと寄り添った。
「おじい様――」
「エスティア、あんたも無理しちゃダメだからね。しばらく休んだらどう?」
 エスティアは汗をぬぐって答えた。
「すみません、2人とも――」
 そこへアレスが言った。
「あの、俺から言うことではないのかもしれませんが、ゆっくりと休んでください。 無理を言ったのも申し訳なかったのですが、平和になった後も大変なんだと思います。 でも――その時は俺もぜひ、力になりたいんでなんでも言ってください!」
 そう言われて3人は嬉しそうに答えた。
「ありがとうございます! 確かにその通りですね! ぜひそうさせてください!」
「我々はいい仲間を持ったようだな――」
「確かに、世界が平和になってからが大変ですね、やはり流星の騎士団様は目の付け所が違いますね。 平和に備えてヴァナスティアでもやるべきことを考えねばなりませんな――」
 ディアスとレオーナも安心していた。
「平和な時代か――そうなれば私もようやく……」
「平和な時代――待ち遠しいわね……」