そして、いよいよあの男が動き出す……!
「坊ちゃま!」
珍しく、使用人からの呼びかけに、リビングにいたアレスは応じた。
「今年のお母様の命日についてはいかがなさいましょうか!?」
ああ、もうそんな時期か……アレスは考えた。
「そうだね、今年は……どうしようかな?」
アレスは考えた。
「しばらくずっと花を用意してございました。
今年も花に致しましょうか?」
そういえばそうだった、アレスは考えていた。
「そうだ、そういえば、一度も母に会いに行っていないな――」
アレスはそう言うと使用人は答えた。
「そうですね、旦那様の言いつけで、一人前になるまでは如何なる場合を置いてもアーカネルから出てはいけないということでしたからね――」
アレスは頷いた。
「一人前の騎士として自立するまでは勉学に励むようにって……厳しいお父さんだったけど、
そろそろ2人に会いに行きたいよ」
使用人はにっこりとしていた。
「では、今年こそ会いに行かれますか?
今まさに流星の騎士団を率いる身、
そして今やまさに最終決戦に臨もうとされるこの時!
これほどのチャンスはございませぬか!?」
確かにその通りなんだけど――
「いや……今はその最終決戦に……世界の脅威に対抗するための準備が必要なんだ、だからすべてが終わってからにするよ」
それに対して話を聞いていたライアとレオーナが言った。
「行ってあげたら?」
「そうよ、ヴァナスティアでしょ?
私もちょうどフラノエル様のもとに行きたいと思っていたのよ」
えっ……アレスは振り返った。するとアムレイナが――
「戦いの準備には心の整理も必要だと思います。
これから私たちがやろうとしているのは大事な戦いです。
そもそも戦いに向かうということは、最悪の場合を考えなければなりません。
ですからアレスさん、その前にまずは両親に今のお姿を見せてあげてはいかがですか?」
確かに――アレスは考えた。今まで戦いはそれとなくこなしてきた、
どんな強敵にも立ち向かってきた。
だけど――次の相手は強大な力を持つ敵……となると、今のうちにやれることはすべて済ましておいた方がいいか――
最悪、両親にそのまま会えずという可能性もある、アレスは決心した。
「分かりました、そういうことならお言葉に甘えて行かせていただきます!」
そこへネシェラがやってきて言った。
「以前にヴァナスティアに立ち寄った時に会いに行かなかったのね。
でも、明日は用事があるから明後日でいい?」
明日は何をさせる気だ――アレスは悩んでいた。
だが、次の日の用事と言ってもほとんど雑用みたいなもので、
なんでわざわざという感じだった、その割にはネシェラは忙しく動き回っている……
アレスは反論のしようがなかった。
まあでも、ヴァナスティアに行くとなればと、アレスはいろいろと準備を済ませておいた、
かえってこの方がよかったのかもしれないな。
ということでネシェラに言われた通りの2日後、
先日の準備でアーカネルの公的行事も含まれていることもあり、
ヴァナスティアへの”遠征”に向かおうとしたアレスだったが、
その前にアテラスがティンダロス邸へとやってきた。
「あっ、アテラスさん……」
アレスはそう言うと、アテラスは頷いた。
「アレスさん……いえ、アレス将軍!
あなたの将軍位を認める件について話がつきました!
全会一致でアレスさんはこれから将軍位を名乗ることが許されたのです!」
なんだって!? アレスは驚いていると、ロイドは楽しそうに言った。
「いいじゃねえか、とっとけよ。
やつを倒した後はお前がこのアーカネルを支えるんだ。
これはその座だと思ってくれるといい」
シュタルとライアも――
「アレスなら大丈夫だよ! ううん、アレスにしかできないよ!」
「これからもお願いね、アレス将軍」
ネシェラとセレイナも――
「あら、ずいぶんと出世したんじゃないの? これからもずっと騎士として恥ずかしくないようにしていなさいよ。」
「アレスさん! すごいです!」
スティアとリアントスも――
「すげー!」
「せっかくトップに上り詰めたんだからな、どうせなら堂々としていてくれよな」
レオーナもランバートもゼクスも――
「アレスあっての流星の騎士団だからね!」
「よう! ようやくここまで登ってきたな! お前なら将軍になれると思ってたけどな!」
「異論はない! これからも流星の騎士団を頼む!」
サイスもアルクレアも――
「アレスさん、あとは頼みましたよ」
「アレス君! 頑張ってね!」
クレアもディアも――
「アレスさん! 次は何をするんですか!?」
「将軍殿、防具の手入れは必要か?」
ディライドとシュシュラも――
「おっ、よかったじゃないか、出向先はアタリだったようだな」
「そうね! これからもよろしくね!」
ルイスもレイランドもエンダリフも――
「ははははは! 俺が教えた見習い騎士が今や将軍とはなあ! 俺も鼻が高いぞ!」
「これからは若者の時代ですからね――」
「これでアーカネルは安泰か、そうと決まれば後は敵を倒すだけだ」
ランブルとディアスとセディルも――
「喜ばしいことです」
「私の引退も間近に迫ってきたようだな! わはははは!」
「そうですね、私たちの時代も終わりを迎えようとしているということですね」
アムレイナとシャオリンとレミアンナも――
「やはり今は亡き陛下が認めたティンダロスの者ということですね、流石です」
「ですね、やはりこうでなくてはいけません」
「あら、魔族である私にはなんともお誂え向きなお話ね、ボスがとうとうトップに上り詰めただなんて♪」
そして、ナナルとシルルも――
「あら! いい話ね! ちゃんと胸を張って頑張んなさいよ! ……って、ランバートにも言ったわね――」
「よし、そういうことなら騎士としてお前を一層叩きこんでやろう」
みんながみんな、アレスのことを祝福していた。
そうか――ネシェラが2日後にした方がいいと言っていた理由はこれのことだったのか。
するとそこへ――
「アレスさん! これを!」
アテラスはそう言いいつつ、彼の後ろに控えていたノードラスが剣を差し出した。
だが、その剣はどう考えても――いや、それは後で話そう。
「それは?」
アレスが訊くとアテラスが答えた。
「陛下の遺言です。
サークレットをティンダロスの者に譲り渡した、自分が亡きあとには”剣”も返すようにと――」
えっ、返すって!?
「トラクロス=アーケディルが使っていたって言う剣、
エザント先生の調べだと、ティンダロスを名乗る騎士の持ち物だそうよ。
ティンダロスは最後まで剣を握ることができなかった、だからその意思をトラクロスが継いだんですって。
それでトラクロスは獅子奮迅の活躍をしてアーカネルを興した……というのがこの国の起源なんだってさ。」
ネシェラはそう説明した。
「さあ、アレス将軍!」
アテラスがそう言うと、アレスはその剣を手に取り――
「みんな、ありがとう……この剣は、みんなからもらった剣だ。
そう、トラクロスとティンダロスの友情の剣……だから俺――」
アレスは剣を抜き、頭上に掲げた!
「これからもみんなの期待に応えるために精一杯頑張るよ!」
その場は歓喜に包まれた。