レミアンナはアムレイナにアシュバール邸に招待され、そのまま話をしていた。
「魔族の方とこうして一緒に話をするのって初めてですわね――」
「私もプリズム族とこうやって話をするのって初めて――」
レミアンナは訊いた。
「それにしても、プリズム族ってもっとこう――男のやり取りについてはもっとシビアだと思っていたんだけど、違うのね」
アムレイナは頷いた。
「私はアーカネルに来てから随分と経っていますからね。
それに……それはあくまで”魔物”と呼ばれる娘――つまり、理性のない存在ならそうなのかもしれませんけどね」
”魔物”……そう、彼女らは強い香を持つがあまりに自らの意識までもが魔性のものと化している存在がいるのである。
それはプリズム族もそうだが、ラミア族も同じだった。
「そうか……私たちにも同じようなものがいるってわけなのね、つまり、私らは何から何まで同じだってことなのね」
レミアンナは納得した。
「でも、その中でも私たちはそういう存在ではなく、
こうして一緒にお話できたりするような間柄だということに感謝しなくてはなりませんね」
確かに……レミアンナは頷いた。
「そう考えると、この瞬間っていうのは案外奇跡なのかもしれないわね――」
「ええ、この出会いを大切にしましょう!」
ネシェラはティンダロス邸のリビングを見渡していた。
「あれー? レミアンナ、何処に行ったのかな……?」
彼女がいない――先ほどプリズム・ドレスを着て上機嫌だった彼女、
出かけたのだろうか――ネシェラはそう思ってテラスに戻ろうとした。
すると――
「ん? なんだ、どうした?」
そこへリアントスがやってきた。
「ん? ああ、レミアンナいないなと思ってさ。
何処に行ったかわかる?」
リアントスは首を振った。
「さあな、さっきここに戻ってきたところまでは見たがそれ以上はわからねえな」
そういえばそうだったっけ、ネシェラは訊いた。
「ミストガル門で魔物斃してくるって言ってたわね。」
すると、リアントスは意地が悪そうに言った。
「今日こそ勇者ランバート様案件の発動を目撃しちまったぜ。
しかも今回のはスペシャル・エディションだ!」
それが何かというと――
「えっ!? マジで!? これはランバートを問い詰めないといけないわねぇ♪」
なっ、何なんだ!?
あの後、ネシェラはアムレイナにアシュバール邸へと呼び出された。
するとそこでとんでもない話を聞かされることになるわけだが、ネシェラは――
「フムフムフム、なるほど、それは――」
ネシェラは出されたお茶を口に含み、カップを置いて答えた。
「いい話じゃないのよ♪」
というと、アムレイナも嬉しそうだった。
「でしょう!? まさに、まさにですわね!」
何の話をしているのでしょう。そこへアムレイナが訊いた。
「あの、それはいいんですけど、そもそも何かきっかけみたいなのってありましたか?」
ネシェラは得意げに答えた。
「いやもう――きっかけどころか、心当たりが大ありよ。
それこそ、大多数の人たちがだいたいその時の現場を目撃にしているのよ――」
と、ネシェラはアムレイナにヒソヒソ話をすると――
「まあ♪ それは素敵な話ですね!」
「でしょう!? これはもう戦いの準備とか言ってる場合じゃないわよね!」
いえ、あの……世界の存亡がかかっているんじゃあなかったっけ?
ランバートはエンチャント素材を手に持ってティンダロス邸に戻ってくると、何やら様子がおかしい――。
「あれ? ネシェラは?」
そこに待ち構えていたのはロイドとリアントスとディライド、何やらニヤニヤしている様子だった。
「ネシェラ? お前が用のあるのは俺の妹か?」
は? ロイドが言うことに対してランバートは不思議そうにしていた。
「なっ、なんだよ? そうだよ、ほら――ストライキング・ドレイクのエンチャント素材取ってきたぞ」
それをロイドが受け取ると、ディライドはランバートの肩をたたいた。
「俺もお前の勇士、しかと見届けたぞ」
どっ、どういう意味だ――ランバートは困惑していた、別に普通のことじゃねえか、と……。
するとリアントスが本題を切り出した。
「お前……今日”も”愛しのレミアンナ様を助けたんだよな!」
ランバートは驚いていた。
「なっ!? どういうことだよ……!?」
ロイドが言った。
「昨日のティルフィングの際もそうだったな……
お前があの女をそっと背後に隠しながら魔物と戦っているところを俺は見たぞ……」
そっ、それは……ランバートは言い返した。
「なっ!? 何言ってやがる!
別に……あれはただ、たまたまだよ! たまたま!」
そこへディライドが攻撃。
「ほう、たまたまか。
だが俺は一昨日見ちまったんだぞ、お前が彼女を助けながら戦っているところをな!
あれ以来、俺らの間では勇者ランバート様のネタが流行りだしているんだ。
でも、ネタで終わらすにはお前もいい歳だしな、誰かが何か言ってやんねえといけねえだろうかと思ってな――」
それにランバートが言い返した。
「んだよ! それ言ったらお前だって似たようなもんだろうが!」
ディライドは得意げに答えた。
「まあな。
だが、俺は聖騎士団だ、残念ながらその都合そう言うわけにはいかないようだ。
だからせめてお前の恋路だけでも応援してやろうと思ってな」
なっ……こいつ汚ねえ……聖騎士団の枷でもあるのだろうか、ランバートは腹立たしかった。
「んで、今日だな――麗しのレミアンナ様を助けるべく、勇者ランバート様が彼女のことを身を挺して助けたってわけだな!
大丈夫か? 疲れただろう? ここは俺に任せてお前は帰って休むといい――
俺はそん時の一部始終をしっかりと確認させてもらったぜ♪」
リアントスは嬉しそうにそう言いつつランバートを揶揄っていた。
「べっ、別にそんなんじゃねえ!
確かに、彼女はラミア族だ! 美人っちゃあ美人だ……気があるかどうかで言われると……まあ……
でも、だからって俺は別にそんなつもりで助けたわけじゃない!
彼女だって仲間だからだよ! 仲間の危機を助けただけなのに何が悪いんだ!」
ほう、こいつは本気だな――何人かはそう言いつつ、ランバートは腹が立っていた。
「いいんじゃねえのか別に――揶揄ったのは悪いが、俺はむしろお似合いのカップルだと思ったぞ。
それにお前ら同い年だったろ? 魔族と精霊族、種族間の懸け橋にもなる間柄でもあるんじゃないか?
言ったように、俺はお前の恋路は応援しているからな、例え結果的にどんなことになろうともな」
ディライドは冷静にそう言いつつ、その場を後にした。
「だな、俺もディライドの話には賛成だ。
知っての通り、俺にはセレイナがいるし、ロイドにもライアがいる。
だからお前もそろそろ将来の相手を大真面目に考えればいいんじゃねえか?
レミアンナに気があるってんなら俺も応援するぞ。なあ、ロイド?」
リアントスはそう言うとロイドは頷いた。
「ああ。純粋な話だが別にいいんじゃねえか、好きなら好きで。
それでもそんなつもりはねぇってんなら、今一度どうしたいか考えればいいんじゃねえか?」