アーカネリアス・ストーリー

第7章 アーカネリアスの英雄たち

第216節 こういう人は怒らせると大体怖い

 そんなリアントスの相方のスティアではなく、もう片方の相方のセレイナはティンダロス邸のテラスにて、 エンチャント素材を加工して魔力を封入していたが――
「どうしたの?」
 ネシェラは彼女にそう訊くとセレイナは汗をぬぐいながら答えた。
「少し、疲れちゃいました……。準備するのも大変ですね――」
 ネシェラもセレイナと同じ作業をしていた。
「どんな戦いでも準備するのって大変よね、少し休んで来たら?」
 するとセレイナはネシェラに寄りながら言った。
「ネシェラさんもですよ、疲れの色がだいぶ出ています。ちょっと息抜きしませんか?」
 そう言われ、ネシェラは加工を終えた素材をその場において答えた。
「それもそうね、そうしようかしらね。」

 ネシェラは一旦工房に顔を出して状況の確認と、 セレイナもお城に顔を出して状況を報告しに行くことにしたのでまずは一旦別れた。 そして2人はカフェで落ち合うことを考えていた。だが――
「ん? あっ、セレイナ――」
 なんと、セレイナの周りには害虫共が!
「いいじゃねえかよう! 俺らと一緒に遊ぼうぜ!」
 害虫その1がセレイナの腕をつかんで強引に引っ張っていた!
「だから嫌ですって言ってるじゃありませんかっ!」
 が――セレイナはそのまま引っ張られた勢いでそのまま害虫その1の顎の下から頭突きを――
「ぐはぁっ……」
 その害虫その1はよろめき、ひるんでいた。害虫その1は鼻血が出ていた。
「おいおい、大丈夫か? ったく、とんだ跳ねっ返りだなぁ……まあ、そのほうが燃えるんだけどな!」
「ッハァ! その通りだぜぇ!」
 害虫その2とその3は逆に燃えていた。その様を見てセレイナは呆れていた。
「……はぁ……、アーカネルの治安をよくするにはまだまだ時間がかかりそうですね――」
 と、なんと、セレイナはその手に例のサイプレス・パイルを取り出すと、 そのまま害虫共をボコボコに!
「ひっ……ヒィ!」
「たっ、助けてくれ……!」
 害虫その2とその3は完全に腰が砕けていた。 するとそれに対し、セレイナは落ち着きつつ――
「そうですね、流石に懲りたでしょう――」
 と言いつつ――
「私、結構回復魔法が得意なほうだと思うんです。 ですが――次は回復魔法も効きませんからね――」
 顔はにっこりと微笑んでいるのとは裏腹に、 その表情はどこか恐ろし気で殺意むき出しな負のオーラを漂わせながら言い放った…… 害虫共はもはや彼女相手に恐怖しか抱くことはなかった。 こういう人は怒らせると大体怖いとはいうが、まさに彼女こそがその典型である――ゆえに彼女を怒らせてはいけない。
「あーぁ、伝説の美女を怒らせてやんの、あいつら…… セレイナ怒らせるととにかくエグイんだから気をつけろとあれほど以下略で。」
 ネシェラは呆れ気味にその殺人未遂の現場を眺めていた。 そう――彼女を絶対に怒らせたらいけません、大事なことなので2回言いました。 なお、彼女についてはこれが初めてではない。
「あっ! ネシェラさん! こっちです!」
 あっ、元に戻った、ネシェラはほっとしていた。

 そういえばセレイナについてはあまり話をしてこなかった気がする。 だからここではその話もしておこう。
 それは彼女が執行官になった後の話である。
「どうしたの……?」
「いえ、その……私、足手まといになっていますよね……?」
 そんなことはないけど……ネシェラは話した。
「セレイナの魔力は本物だもの。 それに……セレイナはとっても筋がいいから基礎能力も高いし、 磨けば磨くほどすぐに強くなっていくじゃん、すごいと思うよ――」
 が、しかし――
「そうなんですよね、やっぱり、経験の差にはかないませんよね――」
 そっ、それは――ネシェラは悩んでいた。
「確かに、能力では圧倒的だけど、それを活かすことがなかったからその分他の人とは差がついちゃっているのか…… それは戦技然り、魔法然り――」
 ゆえに、平たく言うと能力の高いだけの役立たずという状態なのがセレイナなのである。 なんだろう、高級精霊に通ずるものがありそうだ。

 そこへロイドが差し掛かり、セレイナの様子を見て悩んでいた。 彼女はサイプレス・パイルをもって一生懸命訓練していたのだった。
「ん、何かあったのか?」
 ロイドは一緒にいたネシェラにそう訊くと、彼女が彼の元へ行って答えた。
「必要なことよ、彼女の望みをかなえてあげるべきだって思ってさ――」
 必要? ロイドは訊いた。
「見るからに誰かに守られている感の強い高嶺の花って感じするでしょ?」
 まあ……そう言われてみればそうか……ロイドはそう思った。 というのも、ロイドは最初に訊いただけではむしろあまりそうは思わず、その発想には結びつくことがなかった、何故か?  一緒にいる妹ネシェラがまさにそう言う部類だからだった。 そのせいで他の人とは感覚がちょっと違っている――いや、だからこそ考えたのは、
「なるほどな、害虫を問答無用で殴り倒していく能力を身に着けさせるってか。 でも、あんまりやりすぎねえようにな、ボコボコにするのは構わねえが、 しまいにはバラバラにしてアビスに叩き落すなど言わせたりしねえようにな」
 うっ、それは――ネシェラは自分が言われていることだと思った。
「もっ、もちろんよ――セレイナのイメージには合わないことは絶対に言わせたりしないから安心してよ……。」
 本当か!? ロイドは不安しかなかった――いや、本当だよ。