高級精霊の件の後、シルルはアーカネルの東側へとやってきた。
「受け入れたようだな」
自分の中にいるフェリンダがそう訊くとシルルは答えた。
「単に生まれ変わりというだけの話なら、否定する要素もなければ不自由もないからな。
それに、今まで謎だったのだ……私はなぜこれほどまでの力を持っているのか――
その答えがこうだということで説明できるのなら正直なんでもいい」
「なんでもいい?」
「なんでもいいだろう、それはフェリンダも同じ気持ちのはずだ」
「ふっ……そうだな、不思議なものだ、同じ人格の者とこうして話し合うことになろうとは――
それはひとえに私自身が運命の精霊と呼ばれる者が故の事なんだろうな」
運命を司る者――シルルはこぶしを握り締めながら考えた。
「そうか、ならば運命を力とする者らしく、
憑代である私は運命を切り開いていかねばならんようだな」
だが、フェリンダは――
「それなら心配はない、
私はずっと見てきたが、この器はその役目を十分に……いや、それ以上に果たしてきた――
こちらこそ、この器に宿る者として光栄に思う」
「何を言うか、それはひとえに運命の精霊が宿ってこその事だろう?
それに十分以上ということはない、フェリンダにとっては想定の範囲内でことをこなしてきただけにすぎん。
言っただろうフェリンダは私であり、私はフェリンダ自身なのだからな。
だからこれからも私は私であり続ける……私が何をしても、それはすべてフェリンダ自身の行動でもあるのだ――
だろう?」
フェリンダはなんだか嬉しそうに答えた。
「そうだ、そうだったな。
だが――想定の範囲内というのは大きな間違いだ……私はそれこそ精霊界でも一部の界隈では有名なほどのオッチョコチョイ、
だからシルルは私よりも上回っていると言っていいだろう」
しかし、シルルは――
「そうだな、確かにオッチョコチョイだ……ずっと見てきた割には私のしでかしたことを見落とすとはな。
私も仲間内では有名なほどのやらかし常習犯だ。
最近ではエドモントンに行くために届けを出したらネシェラに要らないって言われたばかりだ、話を聞いたばかりなのにな……。
挙句、必要な鉄鉱石の手配を手伝おうと頼まれた数量を書いたつもりが0が1つ足りなくてな、結果的にネシェラにこっ酷く怒られてしまった。
さらにネシェラ関連で言えば随分前にアルティニアでご馳走になったときにスティックシュガーを新手のお菓子かと思って破いたら砂糖をそのままこぼしてしまってな、
彼女に思いっきり笑われたよ」
な、なんだって!? それを聞いてフェリンダは愕然としていた、そりゃあそうだ――
「そうか……時に運命とは残酷なものだ――スティックシュガーや1桁違いなら私にも覚えがある」
って! そっちかよ! なんなんこの人たち! 威厳もへったくれもない――
ネシェラはティンダロス邸のリビングにて、辺りを見渡していた。
「どうしたんだ?」
戻ってきたロイドがそう訊くとネシェラは話した。
「いや、シルルお姉様ってどこに行ったのかなって思って――」
「シルル? 何か用か?」
「うん、お使い行ってきてくれるって言うから頼んだんだけどさ、その後どうしたんだろうと思って――」
「純粋にまだ戻ってきていないだけなんじゃないか?」
「いや、そもそも戻ってきているんだけど。
だって、頼んだのってティルフィングの試し切りをするずいぶん前の話なんだけど――」
ティルフィングの試し切り――
「ずいぶん時間が経っているどころか一度戻ってきているってことか?
そもそも忘れてんじゃないのか?」
すると、何者かがティンダロス邸の入り口で誰かを呼んでいた。
「ん? なんだ?」
ロイドはそう言いつつネシェラと一緒に出てくると、
そこにはどこかしらのショップの店員がいた。
「あっ、あの……これ……忘れ物です――」
店員は買い物袋を差し出してきた、ロイドがさらに追及すると――
「いえ、その――女の人で、それは流星の騎士団員の誰かだって訊いたもんですから渡しに来たんです。
これ、うちの商品なんですが、代金はお支払いいただいたのにお持ちいただくのをお忘れになったようでして――」
なるほど、ネシェラは頷くと買い物袋を受け取った。
「わざわざ届けてもらえるなんて嬉しいわね! ありがとう!」
ということで、その場は収まると店員は岐路についた。
そしてネシェラは買い物袋からサンドウィッチを取り出して食べ始めると――
「ったく、シルル姉様……またやりやがったな――」
えっ、まさか――ロイドは冷や汗をかいていた。
「カイルフレアザード・マスターだかなんだか知らないけどあの女、マジでやらかすからね!
こんなん一度や二度じゃあないのよ、アルティニアでの邂逅劇でもやってるからね!」
な、なんだってー!?
「それこそ家出るときに靴を置き去りにしたまま外出ようとしたこともあるからね!
どう考えても可愛すぎ案件でしょ!?」
うそだろ……ロイドは頭を抱えて悩んでいた。
そこへリアントスが現れ――
「ん? シルル様の可愛すぎ案件? またなんかやったのか?
そういえば昨日ヤバイこと言ってたな……ウロボロスじゃなくて……なんだっけ?」
というと、一緒にいたセレイナは冷や汗をかきつつ答えた。
「ウボロロス、です――」
大パニック!
「ちょっと! カイルフレアザード・マスターだかなんだか知らないけど! それはどう考えても伝説案件ね!」
ネシェラに同意。多分元白銀の騎士団員に訊けばもっと出てくる可能性。
こうして彼女は伝説となったのだ――なんだかすごいすごいと持ち上げられている彼女だが、
実はこのような特大の大穴が開いているという憎めないキャラなのである。