アーカネリアス・ストーリー

第7章 アーカネリアスの英雄たち

第213節 シルルの運命

 ティルフィング事件の少し前のこと。
「私が……フェリンダ=フローナルだと……?」
 ティンダロス邸のネシェラの部屋にて、彼女は悩んでいた。
「そもそもそれが何者なのかわからん――」
 彼女はさらにそう言うと、一緒にいたアルクレアが答えた。
「フラノエル様の直系の子孫って訊いたわね――」
 と言われても――その神話の時代の人のことなどわからないのだが……シルルは悩んでいた。 ただ、確かにフラノエル様のことは知っている、ヴァナスティアの教えではなかなか重要な人物だ、それぐらいは知っている。 なのに……私がそんな重要人物の子孫に関係する人だって!? シルルはとにかく悩んでいた。
「私は……なんかちょっと嬉しいかな――」
 アルクレアはそう言った、嬉しいって? シルルは訊いた。
「だって、フラノエル様って人気があるんだよ?  ヴァナスティアの教えで一番偉いはずのユリシアン様よりもね。 だからそんな人に関係する人だって言われたら――なんか嬉しく思わない?」
 そう言われると……どうだろうか、シルルは悩んでいた。
「まあ……捉え方は人それぞれだから、別にシルルに考えを押し付けるつもりはないんだけど、 でも私は少なくともそう思っているよ!」
 そういうものか――シルルは考えていた。

 アルクレアがその場から去った後、そこにマーシャがやってきた。
「私はローアの時代から20億年後、今から60億年前の時代になるのでしょうか、 ”グローナシア”と呼ばれる刻にも復活しました。 その際にはフレア=フローナルという第4級精霊様と共にしたことがあります。 その方はまさに今のシルル様ととてもよく似たお方ですね。 そう――私に言わせてみれば、あなたはまさに彼女の生き写しという感じですね。 この時代のフェリンダ=フローナル様は恐らくさらに高位の存在となられているようですが、 彼女はきっとあの時代の彼女やシルル様と同じようなお方なのでしょう――私はそうだと思っていますね」
 フェリンダには会ったことはないのか、シルルはそう思った。
「フレア様はとても決断力が強く、とても頼りがいのある強い御方でもあります。 第4級精霊というお立場から恐らくお察しいただけるかと思いますが、 つまり、高級精霊たちの使いという立場です。 フラノエル様は第3級よりも上……高位の精霊様だったそうですが、 グローナシア期当時の高位の精霊の中でも重鎮と言われる存在たちはフラノエル様の流れをくむ者のやり方に反発する者のほうが多く、 それのせいで粛清されかけたこともありました。 しかし彼女はとても強い……粛清できるほどの者はいなかったのです。 故に彼女自ら運命の精霊様として転生される際に精霊界を脱し、 第4級精霊として身を置いたのだと伺っておりますね――」
 なるほど、重鎮共が嫌いだから精霊界にいたくなかったのか、シルルは考えた。
「まるで人間界にもあるようなモデルケースを絵にかいた話だな、 あくまで私個人の意見だが、その重鎮共による腐敗政治を是正しようと声を上げたら叩かれた。 だからそこを脱するというより第4級精霊という存在として左遷された――まるでそのようなハラスメントを受けたようにも聞こえるが――」
 マーシャは首を振った。
「いいえ、確かに彼女曰く、腐敗政治を是正しようと声を上げたら叩かれたというところまでは事実のようです。 ただ――どう言ったところで埒が明かないから彼らに期待するぐらいなら自ら行動に出た――これが真相のようですね」
 確かに、それはなんとも決断力の強い御仁である、だが――シルル本人も身に覚えがあった。
「不思議だ、私もそのフレアと同じ経験を現世でしたことがあるな。 反発する相手は大体決まって偉そうに重鎮ぶっているやつらだ。 それはハンターしかり、当時のアーカネル騎士しかりだ。 もし、フェリンダがそのフレアと同じような存在だとしたら――まあ、共感はできるな」
 マーシャはにっこりとしていた。だがその時――家に激しい雷が落ちた!
「なっ、なんだ!?」
 ティルフィング事件に続く。

 ティルフィング事件の際に魔物が続々と現れると、何とか魔物を始末し続けるシルル、 ある程度魔物片付けるが死骸の処理に追われていた。
「ったく……図体のデカイ魔物……ただの邪魔だな――」
 ナナルは死骸を炎魔法を使って燃やしていた。
「もう、処理しきれないものはこうするしかないわね……」
 確かにその通りか、シルルは悩んでいた。
「これは早めに邪悪なる者とやらと決着をつけなければならないな」
 だが、その時だった。
「よし、こんなもんでいいだろう。行くぞ、ナナル――」
 シルルはそう言ってナナルに促すが、彼女は返事をしなかった。
「どうしたんだナナル?」
 彼女は振り返ってそう訊くが、彼女はまさに時が止まったかのように動くことはなかった。
「なっ!? これは――」
 すると、自分の中から何者かが語り掛けていた。
「余計な者が現れたようだな。 生きているところ申し訳ないが、ちょっとだけ身体を借りてもいいか?」
 こっ、これは――シルルは訊いた。
「フェリンダ=フローナルなのか?」
 彼女は答えた。
「そうだな、自覚するハズなどないからな、本当に申し訳なかった。 もう既に話を聞いているようだから詳細は省くが、つまりはそう言うことだ」
 しかしシルルは言った。
「私が何者なのかは私が決める。だからフェリンダ、今すぐ決めてくれ」
 どういうことだ? フェリンダは訊くとシルルはに答えた。
「分かりきっていることを訊くな、要はお前は私であり、私はお前ということだろう?  私は孤児だった、周囲は何もなく、ただエデュードの子として拾われたのが始まり―― だが、それ以外の何物でもなかった、だから――私の正体がフェリンダなのだというのならそれでいいのだ、 それが私の存在意義でなすべきことがあるというのなら、私はその運命に従うことにする!」
 運命は動き出す!