それからしばらくして――
「ふう……とんでもない剣だが――それにしてはなんとも素直な武器だな、思った通りに動けるとはな――」
ロイドはそう言いつつ剣を背中に納刀……だが、周囲が妙に静かなことに気が付いた。
「ん? なんだ? どうなってんだ!?」
いや、静かどころか……すべての時が止まっているかのように見えた……。
「いや、待てよ――これってまさか――」
ロイドは何かに気が付いた……
「恐ろしい力がここでも振るわれていたか。
だが、これは今のうちに芽を摘んでおかねばなるまいな――」
ロイドの背後に何者かが!
「なっ!? クソッ!」
ロイドはとっさに振り返ると腰の剣を引き抜いて構えた!
「ほう……破壊の力に頼らずに来るとは恐れ入ったぞ?」
相手は余裕の面持ちだった、そいつは間違いなく高級精霊だ!
「お前――エードビアスってやつだろ、この俺を粛正しに来たのか!?」
そいつは言った。
「反逆者ティバリス=ヴァーティクスの子――
あやつも粛清すべきだったが”メシア”のことで止む無く諦めることにした、どうせ命も果てたことだしな。
だが――お前は今すぐに処分する必要がありそうだ」
するとそこに――
「わざわざ精霊界からご苦労だな、エードビアス。
それとも何か? 貴様は相変わらず暇なのか?」
シルルが背後からそいつの首元に剣を向けてそう訊いた――
「何っ!? 何故だ!? この空間には他の者は入れぬはずだが!?」
エードビアスはとっさに離れた、そこには自分と同じような高級精霊の姿が――
見た目は見るからに大いなる力を備えた、あからさまに大精霊様のようないでたちの美女という感じだが、
その眼光は非常に鋭いものだった……。
「他の者が入れぬというのなら部外者はお前だろう、さっさと消え去るがいい」
シルル……いや、彼女こそがフェリンダ=フローナル、運命の精霊様そのものだった。
彼女がそう言うとエードビアスは訊いた。
「フローナルよ、このような恐るべき力、早めに摘んでおかねばなるまい?
なのに何故かばうのだ? いつもの貴様ならこのような存在、早めに潰しておくべしと判断するところだろう?」
フェリンダは答えた。
「そうだな、確かにそれはもっともと思うがこいつは違う――
この程度の破壊の力を正しく使うことを可能とする存在だ。
それよりももっと粛清すべきとする対象が他にもいるはずだが?」
エードビアスは悩んでいた。
「そんなことは言われなくともわかっている。
しかし――対処するのに苦慮しているところだ、あれは力が大きくなりすぎている。
だが、”メシア”がいるのだろう? であればそれは大したことではない、
ある程度メシアが力を削いでくれたところで対処すればよいのだ。
だから私はこうして今まさに摘むべき存在を処理しようとしている、さあ、邪魔をするな!」
だが、フェリンダはロイドの前に立ちはだかり、エードビアスの行く手を阻んだ!
「断る。これはまさに必要な力、ローアの時代の破壊の化身を滅ぼした力だ、
たとえどのような力とて、正しく使われるのであれば私も奨励しよう、お前こそ邪魔をするな!」
するとエードビアスは高らかに笑っていた。
「どうしたというのだ、フローナルよ!
まさか人間界の武器をもって我に挑むというのか!?」
フェリンダは得意げに答えた。
「ああ。これはミスリル製の武器だからな、それにこれの作り手はメシア本人……
そう、シルグランディアの名を継ぐものが作ったのだ、お前が懸念している破壊の剣と共にな――」
エードビアスは悩んでいた。
「それが信じられんのだ――何故メシアが破壊の剣など――」
フローナルは答えた。
「シルグランディアだからだ。
ローアのティルフィングは使用後にシルグランディア自ら消し去っている……
使った後のことまで考えて作っている証拠と言っていいだろう。
つまり今回も同じこと……心配する必要はないのだ」
そうは言っても……エードビアスは悩んでいた。するとそこにさらに――
「ふぅむ、どうやら話は平行線ということだな……」
また別の精霊が――
「ドラストス! フローナルに阻まれたぞ――」
エードビアスはその精霊にそう言うと、そいつは答えた。
「そうか、それならば仕方があるまい、フローナルの言うことを信じてみるとするか――」
エードビアスは耳を疑った。
「ドラストス!? 正気か!? 破壊の力だぞ!?」
ドラストスは頷いた。
「ああ、消し去りたいのは私も同じ気持ちだ。
だが――フローナルがこう判断するのでは仕方がなかろう?
ずっと人間界にいて人間界の動向をつぶさに観察し、そのうえで要と判断しているのだ」
そう言われてエードビアスはさらに悩んでいた。
「そうは言うが――」