セディルはディアスと話をしていた。
「引退はしないのですか?」
「ああ、戦いが終わったとはいえ、流石に負の遺産を残したまま次代を担う者に引き渡すのは忍びないからな、
せめて後始末ぐらいはしていくつもりだ」
セディルは頷いた。
「ですね、私も同じことを考えていました、付き合いますよ」
ディアスは訊き返した。
「訊くところによると、古来型は役目を終えたら直ちにエターニスへ戻らねばならんのではないか?」
セディルは頷いた。
「もちろん。ですから、役目を終えるまでは付き合いますよということですね」
そういうことか、ディアスは考えた。
「あなたがアーカネル騎士を辞めた後でもしばらくはアーカネルに留まり続けるつもりです。
邪悪なる者の脅威はあちこちで残っていますからね、
その脅威が取り除くことができたのなら――それで初めて私はエターニスに戻ることになるでしょう」
レイランドがエンダリフと話をしていた。
「古来型……こうして相まみえるのは初めてだな。
だが、まさか、古来型がこれほどまでに紛れている様を見るのは初めてだ――」
エンダリフは言った。
「確かに……本来であれば許されるような状況ではないからな。
だが、どうだろうか、この世界はたとえそんなことが起きようとも平穏無事に成立しているのだ、
なんとも柔軟な世界だと思わんか?」
言われてみれば確かに……レイランドはそう思った。
「まさにフォース・ゾーンをかき乱さんとする邪悪なる者がいるということを考えれば確かにその通りだな」
エンダリフは頷いた。
「ああ、まさにその通り。
つまり、上位の精霊は神経質が過ぎるというのが我々の中でも一部が考えていることだ」
その発言は――レイランドは訊いた。
「そんなこと言って、問題にはならんのか?」
エンダリフは頷いた。
「ああ、もちろん大問題だ。故にお叱りを受けるのは必至だろうな。
言っても、私にしてみれば、初めてのことではないからな、慣れたもんだ。
なぁに、今までこれで粛清されたことはないから心配はいらんよ。
そもそもやたらめったら粛清などということを行うこと自体がフォース・ゾーンを乱す行為に他ならん。
連中もそれを知っているから私にできるのもせいぜい厳重注意までと決まっている」
そ、そうなのか……レイランドは冷や汗を垂らしていた。
「だが――そう考えると、邪悪なる者という大きなフォース・ゾーンを形成する者を倒してしまうのもそれはそれで問題がありそうだな」
エンダリフは言った。
「まさにその通り。
だが、存在していればフォース・ゾーンに大きな乱れを与え続けることにもなる……
故に上位の精霊にしてみれば、邪悪なる者を放置するか斃すか、究極の選択を迫られることになる。
そのうえで斃すという選択をしているのはまさに苦肉の策というわけだな」
そうなのか……レイランドは考えていた。エンダリフは続けた。
「無論、その後は穴埋めをしなければならない。
精霊界においても、一番大変なのは邪悪なる者を倒した後の処理ということだな」
ランブルはパタンタにて、ゼクスと共に話をしていた。
「わざわざ一緒に来てもらってすいません――」
ランブルは申し訳なさそうに言うが、ゼクスは気さくに言った。
「構わんよ。
俺もランブル殿にはだいぶ世話になったからな、
この広大な平原でな――」
ランブルは頷いた。
「私はむしろ助けられてばかりです。
見ての通りこのガタイですからね、ゼクスさんいは叶いませんよ」
ゼクスは首を振った。
「いやいや、ランブル殿の魔法の力には目にみはるものがあります。
流石は古来型と呼ばれる精霊……俺なんぞとはわけが違います」
ゼクスは話を切り替えた。
「ところで、ランブル殿はこの戦いの後はどうするおつもりで?」
ランブルは頷いた。
「私はアーカネルの世の中に残ります……ええ、アルトレイにそのまま居続けるということですね。
妻はもう亡くなってしまいましたが、子供も充分大きくなってエターニスにいますし、余生はこの地を見守り続けることにしますよ」
ランブルは妻子持ちだったのか。
「古来型なら、エターニスに戻らなければいけないのでは?」
ゼクスはそう訊くがランブルは首を振った。
「私は古来型でも立場が弱い方の存在ですからね、精霊界も私なんぞのことは見逃すでしょう。
しかし、子供は精霊界に昇ることを約された身です、向こうのことは向こうにすべてお任せするつもりです」
なんともまた――ゼクスは考えていた。ランブルは話を続けた。
「精霊界は私のような中途半端な存在をどうするか、そのうち整理することになるでしょう。
ですが、それならそれで私自ら早めにどうするか考えたのです。
私は英雄と呼ばれた私の祖先ライブレードが台頭した地に眠りましょう。
そして、私にはできない精霊界での役目については子に委ねます。
これがきっと、正しい選択なのだと私は信じています――」
ゼクスは頷いた。
「戦いの後のことについては既に選択されたということですか。
でしたら私も、ランブル殿に付き合いましょう!」
ランブルは驚き気味に振り返った。
「ゼクスさん? いいのですか?」
ゼクスは広い平原を見据えて言った。
「俺の先祖もこの広い平原を守り切った者だと聞かされています。
俺には娘がいますが、ヴァナスティアで神道を極めようとしています。妻はもう亡くなりました。
娘にも妻にも時々会いに行くのですが、俺ができることはせいぜいそれだけ――
それ以上はこの平原から見守ることにしようと考えました」
そうか――ランブルはにっこりとしていた。
「ゼクスさん、ありがとうございます――」