アーカネリアス・ストーリー

第7章 アーカネリアスの英雄たち

第207節 ロイドの行く末

 ロイドは窓から外を眺めて言った。
「多分、親父が俺やネシェラに託したのってこの世界を自由に見て回れって事なんじゃねえかと思ってな。 話を聞いていると、エターニスに慣れちまった精霊がこの世界に出て生活するのはかなり難儀なことだ―― だから親父はこのアーカネルの世に出て相当苦労したらしい。 そうまでしてこっちにやってきた理由――それを考えると、こういうことなんじゃねえかと思ってな」
 なるほど――スクライトは頷いた。
「言われてみればその通りだね。 私もキミもセディルたちも、生まれはエターニスだったとして生活は基本的にはこっち側だ、 だからこれが普通だと思っていたけど、ランブル氏は結構苦労したって話をしていたね」
 スクライトは訊いた。
「ところで……キミは第4級精霊としての啓示を受けてないのかい?  念のために言っておくけど、こればかりは私の力でも見えることではないから正直に教えてもらえると助かるね」
 ロイドは頷いた。
「ああ、俺もネシェラもそういったことは何もされていない。何か違うのか?」
 スクライトは考えた。
「それはわからないね、だって、言ってしまえばキミらはこれまで存在しえなかったタイプの第4級精霊だからね。 だから――恐らく、精霊界でもキミらの取り扱いについてはわからないんじゃないのかな?」
 それもそうか、ロイドは考えた。
「生まれたとき特有の行為というか、そういうものなのか、その啓示って……」
 スクライトは悩んでいた。
「それは多分違うと思うよ。 ただ――この世界のバランスの面で考えると、不用意にキミらに啓示を与えていいのかは彼らも悩むところだろうね――」
 そうきたか――ロイドは悩んでいた。
「結局、エターニスには戻るに戻れないということになりそうか、 それなら仕方がねえ……だったら、ハンター稼業に専念すりゃあいいか――」
 だが、スクライトは首を振った。
「いや、それについてだが、とてもいい方法がある。 キミはエターニスに行くんじゃない、精霊界に入るんだ」
 えっ!? ロイドは驚いた。
「おいおいおい、いくらなんでもそれはダメだろ!?  あっちはそもそも器のサイズがまるで異なる存在の住み家だ、 俺なんぞが立ち入るような次元の領域じゃねえだろ!?」
 スクライトは頷いた。
「もちろんさ。 だからキミも器のサイズを大きくしたらどうかってことだよ」
 どっ、どうやって……!? ロイドは再び驚いていた。
「簡単さ、精神修行だよ」
 ロイドは悩んでいた。
「簡単って……マジで簡単に言うな……。 それってゲートの先、つまり、精霊界にある”訃音の祠”に行けってことだろ?  そもそも器のサイズが一定水準を満たしていなければ祠はおろかゲートの通過すら許されないだろ――」
 スクライトは頷いた。
「もちろん。だが、予め器のサイズを一定水準を満たしていれば問題ないともいえる。 そのためにはまずは最初にクロノリアの頂に”試練の祠”があるからそこで修行をするといいよ。 今回の戦いが終わったらクロノリアの入り口は閉じちゃうけどキミらだけは入れるようにしておくからね。 で、修行が終わったらエターニスのゲートで申請をすればいいさ」
 マジで言ってんのかこいつ――ロイドはますます悩んでいた。
「向こうの住人になって……つまり、世界を管理する側になってしまえば啓示のルールなんて気にする必要なんかないだろ?  だからキミの今後の道筋としてはこれがベストだと思うけど、どうだろう?」
 こいつは俺を何者にしたいんだ……ロイドはさらに悩んでいた。

 ロイドの部屋の前を横切るライア、そのままリビングへとやってくると、そこにいたナナルと話をしていた。
「この戦いが終わったら……ロイドはアーカネルを去ってしまうのね――」
 彼女はなんとも寂しそうだった。
「一緒に行けばいいじゃない? ライアちゃんは辞めたくないの?」
 ライアはナナルと話をしていた。
「もちろん、私は彼と一緒に行くつもり、けど――なんていうか、アーカネルから彼が去ってしまうのがね……」
 そういうことか、ナナルは納得した。
「アーカネル最強の騎士だもんね、アーカネル最強じゃあなくなっちゃうってことか。 そしたら……確かに、この王国はもちろんだけど、なんだか寂しい感じがするわね――」
 ライアは頷いた。
「別に、ロイドがアーカネルにいなくてもそれはそれでいいの。 ただ――今まで一緒にいた仲間たち――」
 ナナルは頷いた。
「確かに、とっても寂しいわよね、 この楽しい日々が二度と起こらないって考えるとなんか怖い気がするけど。 でも――別に二度と会えなくなるわけじゃないんだからいいんじゃない?  別れはいつかは訪れるもの……いつそんなことがあっても悔いのないように生きていないとね――」
 確かにその通りか――ライアは悩んでいた。
「そうね、それなら私、もう少しみんなと話をしていた方がいいかもね――」
 それを聞いてナナルはにっこりとしていた。