鏡の件を終えた後、アレスはロイドとアーティファクトの話をしていた。
「アーティファクトの破壊か……」
アレスは遠慮がちに言った。
「いっ、いや、だからってロイドにやれって言うわけじゃあないんだよ、ロイドだってネシェラさんと同じだろ?」
ロイドは頷いた。
「ああ。
そもそもアーティファクトだって世界のフォース・ゾーンを構成する要素の一つにもなっているからな」
そうなのか!? アレスは訊いた。
「じゃっ、じゃあ――やっぱり破壊しないといけないんじゃあ……」
ロイドは首を振った。
「違う違う、既にアーティファクトが存在していることを前提に考えるんだ」
えっ、なんで? ロイドに訊いた。
「なんでも何も、既に存在しているものに対してこれ以上どうしようもないだろ。
わからないようなら言い換えると、現時点でアーティファクトありきでフォース・ゾーンが構成されている状況になっているってことだ。
そこからアーティファクトを不用意に破壊しようものならそのフォース・ゾーンを構成する場の力が失われる――」
そういうことか……アレスはようやく納得した。
「なるほど、それ自身が天変地異の引き金となってしまうことなんだな……。
そしてそれを世界の管理者サイドの人間がそんなことをやったらやばいってわけか。
でも――俺たちがそれをやるのとどう違うんだ?」
ロイドは頷いた。
「何も違わない。
だが――世界の管理者サイドの人間がやるのは流石に上の人間から怒られ、
確実に粛清対象――存在自体が許されないものとなってしまう。
アレスたちがやるのは世界の管理者サイドの存在にしてみれば自然の成り行きにということに過ぎない。
とはいえ、フォース・ゾーンを構成するブツが相手だからな、そうそう簡単に壊すことは叶わない……
例え俺がやってもあれを破壊するのは難しいだろうけどな――」
エンダリフが話をした。
「アーティファクトの破壊について議論しているのか?
我々の間でもよく話し合っていたことだけどね――」
そうなのか!? アレスは訊いた。
「世界の管理者サイドの人たちでフォース・ゾーンを乱すような話をですか!?」
エンダリフは頷いた。
「必要なことだよ、高級精霊は常にそれを懸念している……
だから我々の議題も常にそのようなことを想定するようなテーマばかりとなる。
クリストファーの犯人説の時にも話があったように、
世界を乱す方法を知っているって言うのもまさにそういった話からきているんだ、
もっとも、彼はそもそも邪悪なる者だからなのかもしれないけどね」
なるほど、確かに――アレスは改めて納得することになった。エンダリフは話を続けた。
「だが、アーティファクトの破壊については行きつく答えは常に決まっている――」
なんだろう……アレスは訊いた。
「そんな大いなるパワーを持った代物を破壊するのは容易ではないってこと、つまりそもそもが不可能なことなのさ。
アーティファクトの破壊自体がそもそもあり得ないこと……だからそれ前提で話をすること自体がナンセンスなんだよ」
でも――スクライトは……アレスは訊くとエンダリフは頷いた。
「いつかそういう時代がやってくるんだろうね、そう……力場がちょっと乱れたところでびくともしないような世界の時代がね」
なるほど……ロイドは考えた。
「ってことは……純粋に力場が乱れても簡単に修復してくれるような都合のいい世界になっているか、
それともアーティファクトが失われたとて、そもそも世界がとにかく力に満ち溢れているからアーティファクトの影響がほとんどなくなっているかのどちらかってことだな」
後者はアレスにはまったく理解できなかったがエンダリフとロイドは続けた。
「確かに、フォース・ゾーンのレベルが高い世界だったらアーティファクトの1つや2つが消えたとて、大して問題はないかもしれないね」
「あるいは――アーティファクトの1つや2つの存在がそもそも障害にすらならないから壊すほどでもない世界になっているかだな」
なんか、別の次元の世界の話をしているようだ――つまり、少なくとも今の時代を生きている自分たちがとやかく言ったところでどうしようもない話なんだなとアレスは悟った。
それでクロノリアの人たちに任せ、以降は人から人へ……ってわけか。アレスは少し安心した。
ある日のこと、ロイドは自室にて、何者かの訪問で頭を抱えていた。
「やあ! ロイド君!」
まあ――みなまで言う必要はないだろう、そいつである。
「ノーサンキューだ」
「まあまあそう言わず。大事なようがあるんだ」
ロイドはしぶしぶスクライトを部屋の中に入れて話を始めた。
「ったく……で、何の用だよ?」
「いやいや、これまでの事なんだけどさ、結構なお手並みと思ってね」
だからなんだよ……ロイドは呆れていた。
「それだけか? 用がないんだったらさっさとどっか行ってくんねえか?
言っただろ、俺はお前がキライなんだ」
スクライトは呆れていた。
「用があるからこうして話に来ているんだろう?」
だったらさっさと話せよ、ロイドはイラつき気味に訊いた。
「いやさ、この戦いが終わったらの話なんだけどさ、キミはどうするのかなと思ってね」
どうするって――今度は何を企んでやがるんだ……ロイドは悩んでいた。
「とりあえずアーカネル騎士は引退だ。第一、俺はお前と同じ第4級精霊だからな、
親父の件も片を付けたつもりだし、そしたらあとは元凶たるヤローをぶっ斃すだけ。
このまま第5級精霊みたく世界を渡り歩いてみるのもおもしれえが、
この際だから親父のケジメのほうも俺が始末してやろうかなと思ってな」
ほう、それはそれは――スクライトは感心していた。
「キミがそんなことをしようと考えるなんて意外だね――」
ロイドは呆れていた。
「バカが――そんぐらいのことは見えてんだろうが――」