鏡はかけ布とスタンドまでついているもので、その傍らには箱のような容れ物があった。
普段は周囲に影響を与えないようにその箱の中に入っているのだろう、箱に入れてティンダロス邸まで持ち帰った。
そしてそのままミストガル門付近にて――
「精霊石を複製していたのねきっと――」
ネシェラは言うとヴァルハムスは頷いた。
「精霊石は裏も表もないから純粋に複製ができるということだな。
ただ……純粋にパワーを生み出すための代物、作るまでには時間がかかりそうだがな」
するとネシェラは鏡を取り出し、”太陽の石”を映し出した――
「気を付けて、太陽の石を映し出すと鏡の力も暴走するはずだから、不用意なものを映さないように!」
そう言われてアレスはビビっていた。
するとヴァルハムスは箱を持ち出し、鏡の向いている軌道を途中でシャットアウトした。
「その場合はこの箱が役立つ――これが効果を遮断するものならこうやって使うべきなのだろう」
なるほど――ネシェラは頷いた。ヴァルハムスは箱と蓋を組み合わせて”壁”を作っていた。
「魔物がよってこないわね?」
ネシェラは周囲を見渡した、確かに――アレスも確認するとヴァルハムスは頷いた。
「これ自体が非常に危ない力――魔物のほうも熟知しているのかもしれぬな。
この状態の鏡に照らされると何が起こるかわからん……そういうことなのだろう」
そういうことか――ネシェラとアレスは頷いた。
「意外と魔物のほうも考えているってこと?」
ヴァルハムスは首を振った。
「それはわからん、純粋に本能による危険回避行動とも考えられるな」
そして、次第に太陽の石の隣には何かが現れ始めた――。
「鈍く光るものが現れたわね、これが”月影の石”かしら?」
それは確実に一定の形をとどめていた、形と大きさは太陽の石と瓜二つだが、
光り具合はあからさまに違っていた。
ネシェラはそう言いつつ鏡にかけ布をかけると太陽の石と月影の石を取り上げ、鏡を丁寧に片付け始めた。
「そのようだな、その2つを使ってどうすべきか訊きに行くとするか」
ラグナスたちの前に2つの石と鏡の入った箱を置いた。
「太陽の石と月影の石、そして鏡――本当に揃えてきたのだな」
アミラは頷いた。
「たまげたねえ、本当にこんな方法で作れるなんてさ。
でも――鏡はどうするんだい?」
ヴァルハムスは答えた。
「今となっては不要のものだが――だからといってそのまま放置しておくわけにもいくまい。
アーティファクトは人から人へ――時の流れに任せるしかあるまい」
それもそうか――アミラは悩んでいた。
「まあいいさ、それはその後のことだとして、今はクロノリアの民にどのようにさせるか決めさせるさ」
すると間にスクライトがやってきて箱を取り出した。
「りょーかい。だったらこんなところには置いとかないでさっさと持ち帰らせるよ」
こいつも危険視するほどだったようで、早めに対応していた。
「でも人から人へ――時の流れに任せるって――」
アレスは悩んでいるとヴァルハムスは答えた。
「アーティファクトというのは元来そういうもの――
クロノリアの民も外の世界から持ち出したものをそのまま自分たちで保持しておくわけにもいかんからな。
無論、我々聖獣も人間の世の者には原則干渉はしない――それがアーティファクトに関係することだったとしてもだ」
つまり、今回は特別だということか。
「”太陽と月の鏡”は太陽を照らし出した、
今の鏡は力が非常にアクティブな状態、時が来るまでクロノリアで預かるが、
人の世に戻すまでには少々時間がかかるだろう」
アレスが訊いた。
「それほど危ないものなら壊すことってできないんですかね?」
ネシェラがすぐさま答えた。
「さあね、やっているぐらいだったら既にこの世界にはないと思うけど?
そこは仮にもアーティファクト、今の如何なる技術を以てしても破壊はできないでしょ。」
「あれ? ネシェラ嬢ならやれるんじゃないかな?」
スクライトは訊くと彼女は答えた。
「ええ、そうは思ったんだけどね。
でも、私もあくまでエターニスに連なるもの……これ以上は手出ししないほうがいいでしょ?」
スクライトは頷いた。
「それもそうだね、愚問だったよ。
キミがアレを破壊するとしたら、エターニスに連なるものという枷から放たれた時になるだろうね」
「あれ? 見えないんじゃないのかしら?」
スクライトは首を振った。
「キミじゃない、鏡の未来だよ、何者かが勢いよく壊しているね。
誰がそれをやっているのかまではわからないけど――でも、我々の想いが成就されるのは確実だということだね――」
ネシェラは頷いた。
「そうね、期待して待っていることにしようかしら。
私の役目は物を作ること――破壊は許可されていないんだからね。」
そっか――ネシェラはあくまで第4級精霊か――アレスは考えた。
だとしたら、やるのは自分たちになるか、他の誰かか……アレスは悩んでいた。
「ネシェラさんがエターニスに連なるものという枷から放たれる方法ってあるんですか!?」
アレスはそう訊くとネシェラは頷いた。
「いい質問だけど、その方法はただ一つ――私自身が死ぬことだけね。
ま、私の遺志を継いだエターニスに連なることがない別の誰かか、
エターニスに連なっていても縛りのない第5級精霊の私だったらやれるんじゃないかしらね。」
世界の管理者というのも案外自由のないものだ。