ティンダロス邸のリビングにて、見慣れぬ男がうんうんと悩んでいた。
「おや? 誰だろう――」
アレスは悩んでいるとアミラが答えた。
「おや、遅かったじゃないか、何をしているんだい? 問題のブツはそろえてきたんだろうね?」
ということはつまり聖獣――あともう1人いるとすれば、もしかしたらアルティニアの聖獣ラグナス?
「クロノーラ――問題のブツはこの通りだ、
だが、もう一つがどうしても見つからなくてな――」
何の話だろうか、アレスは訊いた。
「邪悪なる者の破壊の力を食い止めるために必要なものだよ。
あいつが滅んだ時にそれが発動されてしまっては意味がないからね、
だからそれに備えていろいろと考えているんだけど、材料が足りなくてね――」
すると上の階からネシェラがやってきて言った。
「私らがまずクリストファーを斃す。
でも、邪悪なる者の執念深さを考えれば確実にそれぐらいのことを考えているハズよね。
だからそのためにはまず、封印の篭を使って亜空間をもう一つ生成させるのよ。
で、破壊の力を一旦その場に発動させる――
クリストファーのいる空間に対してやると一緒に対峙している私らも巻き添えになるからこれは避けなければならないってところね。」
なるほど、それならそれできちんと対策をしておかないことにはいけないのか――。
で、そのうえでなにが足りないのだろうか、アレスは訊くとアミラは言った。
「亜空間といっても封印の篭で作られた空間はこの世界の上に疑似的に展開されているのと代わりはしないんだよ。
つまり、亜空間の殻がその力に耐えられなければ意味がない。
だからそのためには封印の篭の力を強化しなければいけないことになるんだけど――
そのために必要なのは、かつて同じように亜空間を生成した技術を用いること――」
それに対してレミアンナが反応した。
「訊いたことあるわ、私たち魔族とは考え方を真っ向から対立したって言う存在、
言ってしまえば”世界の闇”と呼ばれる存在、通称”闇の眷属”ね――」
それはアレスも知っていた、ヴァナスティアの教えで話していたローアの時代の世界の悪しき者ども――
そう、世界を均す者イセリアらによって斃されてきた者たちのことである、まだいるのか――
「世界の覇権を巡る戦いで魔族が真っ先に闇の眷属と対抗してきた――あいつらに破れて魔族は散り散りになった。
魔族は疲弊したけど闇の眷属も精霊たちの攻撃もあって疲弊している――
今もまだこの世界を奪うために彼らが作り出したっていう亜空間の中でくすぶっているみたいね――」
レミアンナはそう説明した、この世界はいろんな存在に脅かされているというのか――。
「その亜空間を生み出す技術については魔族の間でも知れ渡っているみたいで私もクリストファーから訊かれたわよ。
もっとも、私は魔族の文化で暮らしていないからわかんないって言ってやったけどね」
彼女はそう続けた、クリストファーも狙っていたのか。
「でも、クリストファーはどうやら手に入れられなかったみたいなのよ、
片方はラグナスが持っているらしいって――」
彼女はさらにそう続けるとラグナスは答えた。
「クレメンティルの連中がミストガルド山を捜索していたのを見たからな、
クリストファーの手の者による所業と考えれば、こいつは予め回収しておくことが望ましいと考えたのだ」
ネシェラは頷いた。
「世界で一番高い山の頂にしか生成されない……”太陽の石”と名付けておこうかしら、
数千年数万年、数億年に1度しか作られないと言われているわね――」
「あるいは数百億年に一度かもしれんがな」
ラグナスはそう言いながらネシェラにその石を手渡した、なんとも暖かな石だった。
「我が見つけたのはこれだけだ、もう片方は影をなす存在の石――
まずは世界の闇を見つけねば目的を果たすことはできんぞ――」
するとそこへヴァルハムスがやってきた。
「世界の光とするものと闇とするもの――2つを見つけて封印の篭の亜空間を確かなものとするつもりか。
だが、世界の光とするものさえあれば話は早い――目的を果たすことは十分にできるだろう」
ラグナスは言い返した。
「いいや、無理だ、世界に光があれば必ず闇も存在する、だからどちらも必要なのだ」
ヴァルハムスは頷いた。
「その通り、だから闇のほうも手に入ったも同然だということだ」
どういうことだ? 何人かはキョトンとしていた。