アーカネリアス・ストーリー

第7章 アーカネリアスの英雄たち

第201節 さらに大掛かりな準備

 複数の車輪がアーカネルを走っており、それは例の工房へと運び込まれていった。
「これ楽しー♪ ねぇお姉様♪ こんな感じでいいかってシルル姉様が言ってたよ♪」
 シュタルは楽しそうに運んでいた。
「ええ、ありがとうね。ひとまずこんなもんでよさそうね。」
「OK♪ じゃあ、伝えて来るね♪」
 可愛いな……ネシェラは彼女を眺めながら感心していた。
「ったく、将来どんな旦那様と一緒になるのかしらねー。 もしそんな男がいたらまずハイキックよね。」
 ナナルのビンタとネシェラのハイキック……下手したらそいつ死ぬぞ……。
「あ? 終わりでいいのか?」
 ロイドはそう訊くとネシェラは答えた。
「とりあえず、裏の倉庫に入れといて。そこらへんにあるのも全部ね。」
 人使いが荒いな……ロイドは言ってても仕方がないので言われた通りにしようとしていた――
「終わりらしいぞ」
 ロイドがそう言った相手はアレスだった。
「そうか、わかった――」
 するとネシェラがその声に反応した。
「や! 待って! お兄様、今頼んだ仕事は全部アレスに任せて、リアントス兄様が来たら一緒に来て!」
 えっ、どういうことだよ……ロイドとアレスは困惑していた。

「で? 何をしろと?」
 リアントスはネシェラに訊いた。
「来たわね。やってほしいのは精霊石の作成よ。 まずは角の芯の部分だけをくりぬいて頂戴ね。」
 おい……全部やれってか……ロイドとリアントスは訊くとネシェラは考えた。
「そうね、本当は全部と言いたいところだけど……まずは1つずつやってもらえればいいんじゃないかしら?」
 セーフ……それならいいか――2人は考えた。 角の色は金の色に近いそれだが、よく見るとほのかに紫がかっているようにも見える。 そして中の色も紫がかっているのが示している通り、白濁色のような色合いに紫がかっていた。 しかしそれが想像以上に硬く、もはや鉄である。
「ぐっそぉぉぉおおおおお!」
「このぉぉぉおおおおお!」
 ぶち抜こうとしている2人だがまるでびくともしない!  そこへやってきたシルルだが――
「これは……切断するのとは違って全く歯が立たない所業だな――」
 彼女でも全く歯が立たなかった。それに対してネシェラは――
「やれやれ、思った以上ね、そんなに硬いなんて……。 しゃあない、魔法の使用を許可するわね。」
 いや、魔法でどうこうするような所業ではない気がするのだが――ロイドとリアントスは悩んでいた。
「魔法か、それだけでは何ともな。ヒントはもらえないか?」
 シルルはそう訊くとネシェラは頷いた。
「ええ、もちろん。 叩いても割れないし砕くこともままならないのに切り裂いても刃一つ通さない。 とくればやれることはただ一つ――」
 ロイドが気が付いた。
「そうか! わかったぞ!」
 そして彼は何かを考えると……
「こうだな! いくぜ!」
 ロイドは剣を引き抜き……
「燃えろ!」
 炎の魔法剣フレイム・スプラッシュを放った!
「炎? ……そうか!」
 シルルは気が付いた。その様子にリアントスもなんとなく気が付いた。
「なるほど。で、”溶かす”の結果は?」
 そう、そう言うことである。すると――
「やってやれなくもないが結構骨が折れそうだな、まあ、素材が素材だからそうでなくちゃな。 とくればあと必要なのは熱源だけか」
 車輪の表面にはわずかに削れた跡が!

 あの後、アーカネルにほど近い土地において、もはや火事か何かではないかと言わんばかりの状態だった。 クロノリアの魔導士たちによる力……ものすごいものだった。
「なるほど、精霊石はパワーがより濃密な空間で生まれやすい……確かにその通りだな」
 ロイドはその光景をみて皮肉っていた。 無論、例の角の芯を焼き切って取り出そうとしている現場である。風の刃に炎をまとわせてがりがり切り裂いている……
「はいどうぞ、ロイドさん!」
 一つ出来立ての塊を手渡されたロイド、小手でよかった。
「熱いな、出来立てほやほやってわけか。そしたら――」
 と、ロイドはおもむろにそれを地面に落とすと――
「ぬおおおおおおおおお!」
 勢いよく魔力を込めた!
「はあ……はあ……しんどいな……」
 ロイドは頭を手で押さえフラフラしていた。
「まあいい……後はネシェラのもとに持っていくだけだ――」
 ロイドは膝に手をついて精霊石を拾い上げた、精霊石はものすごい力を蓄え、 なんとも言えないような激しいオーラが煙のように立ち上っていた……。
「ぐはっ――」
 と、今度は自分の隣でリアントスが倒れこみ――
「おっ、おい! 大丈夫か!?」
 ロイドは慌てていた。そこへセレイナが――
「リアントスさん!」
 愛の力……いや、彼女の魔法で助けられていた、彼女は彼に魔力を分け与えていた――。
「無理するな、魔力を使いすぎても死に直結するからな」
 そう言われたリアントスはゆっくりと起き上がり、頭を手で押さえていた。
「……くっ、フラフラするな――」
「いわゆる魔力、つまりエーテルって言うのは精神エネルギーを源にしている。 前に”マナ”を”エーテル”に変換して使うと言ったと思うが、 そのマナっていうものは”精神”が源なんだそうだ。 ただ、それが生物の場合はマナに変換するその精神の源は生命力にある、だから……」
 ロイドに言われてリアントスは答えた。
「生命体が行使する場合は周囲から力を集めるよりは自分の中にあるまとまった力を使ったほうが手っ取り早いからそっちのほうを優先して使うんだろ?  だからやり過ぎると自分の身が危うい……」
 ロイドは関心していた、知っていたのか。
「俺に適性があるってんならきちんと知ってて使うべきだと思ってクロノリアの連中から教わったまでだ。 しかも同じ目には何度かあっている、セレイナ、悪いな……」
「リアントスさん……」
 同じ目に何度もって――それにしても見てらんねえなと言いたいところだったが、リアントスは素早く立ち上がった。
「いよっし、いつまでもじっとしているわけにはいかねえからな。 さっさとネシェラにこいつを預けて野郎を倒す準備を進めていこうぜ」
 と言いつつ、セレイナの肩にそっと手を添えつつ、そのまま町のほうへと走って行った。 ロイドはリアントスと一緒にその場を去って行った。 残されたセレイナはなんだか嬉しそうだった。 しっかりと手を添えているなんて……やることがいちいちイケメンだな。
「次は私たちの番ね!」
 ライアは嬉しそうに声をかけるとセレイナは笑顔で答えた。
「はい! 私も負けてられません!」