アーカネリアス・ストーリー

第7章 アーカネリアスの英雄たち

第199節 封印されしものの役目

 封印の精霊様が話を始めた。
「私の名前はマーシャ=アリスランドと申します。 皆様は”邪悪なる者”へと挑むおつもりなのですね?」
 そこへロイドが訊いた。
「”邪悪なる者”イコールクリストファーってのがどうにも釈然としないところがあるんだが、 まあ、そいつはこの際だから捨て置こう。 そもそもその”邪悪なる者”ってローア期に滅んだんじゃねえのか?  言っても、同じ”邪悪なる者”とは限んねえか――」
 マーシャは丁寧に答えた。
「かの者は世界の創造者によって生み出されました―― 恐らく、世界を創造するのと同時に意図せず生み出されてしまった負の産物なのかもしれませんが。 あれには世界を脅かす以外の感情は持ちません。 そのためならどんなことでもするのです、脅かすためならいくらでも図太く生き残り続けることも辞さないのです――」
 ゆえに滅んだかのように思われていて、実はそんなことはないということか―― どうやらローアの”邪悪なる者”と同じものを示しているらしい。
「魔物がいるのと同じような理由って気がしないでもないね――」
 シュタルがそう言うとマーシャは頷いた。
「魔物は老廃物――この世界に生命が生み出されると共に意図せず生み出されてしまう負の産物そのものです。 生命の流れは精霊界にある母なる大樹ユグドラが担ってます。 しかし、世界のバランスが崩れ、ユグドラが根ざす大地の力のバランスが崩れると、ユグドラ自身にも影響を与えてしまいます。 ですが、ユグドラは自律的にバランスを取ろうとするため、必要以上の力の分は魔物を生み出すという方法でバランスを取っているのです――」
 それで兇悪な魔物が現れたりするのか―― ヴァナスティアの教えにも”世界循環性クリーチャー”と記載がある魔物だが、 そのような背景があることを考えると、やはり世界の性質上どうしても存在してしまうのは避けられないようだ。 無論、それがいるために生計を立てられている人もいるわけだが、なんとも皮肉めいた話である。

 いるものはいると、それ以上の説明が不可能だが、問題はそれをどう斃せということである。
「まるで不滅の存在、ウロボロスだな。 斃したところで再び復活するんじゃないか?」
 リアントスはそう訊くとマーシャは答えた。
「ええ、それはもちろん。 ですが――そのたびにその時代の勇士たちによって滅ぼされるのが”邪悪なる者”です。 最初はローア期、それから20億年後の”グローナシア”と呼ばれる刻の際にも”邪悪なる者”は現れ、 当時の勇士たちによって滅ぼされていますね――」
 随分前の時代にも――何とも面倒臭いやつだな……。
「よっしゃ! だったらこの時代の勇士は俺たちだ! 俺たちが斃してやろうじゃねえか!」
 スティアは楽しそうに言うとアレスも追随。
「そうだな! 俺たちがやらなければ誰がやるんだ!  そのための俺たちなんだ! 他の時代ではともかく、この時代は俺たちが守る!」
 なんとも前向きなことで……まあ、道はそれしかないわけだが。
「で? どうすればいいの? 準備が足りていない?  敵は”破壊の灯”の中に展開しているっていう亜空間の中に潜んでいるのよ、 私たちはどうすればいいのかしら?」
 ネシェラはそう訊くとマーシャは答えた。
「それについてはすべてお話いたします」

 強大な敵を前にしてとにかく早め早めの行動が要求される。
「さてと、まずは精霊石の作成ね、こんなもんでいいかしら?」
 ネシェラは早速実行していた、エターニス付近で作られる高エネルギーなエンチャント素材を用いて作り上げていた。
「すごいです! 本当に作ってしまうんですね! 流石はシルグランディアの系譜の方です!」
 私って本当にそのシルグランディアの系譜の方なのか……ネシェラは悩んでいた。
「でも、こんなの、精霊界に行けばごろごろ転がっているんだろうし、私のなんて所詮はまがい物でしょ?」
 マーシャは頷いた。
「それはそうなんですが、あなたの作るものは本物のパワーをはるかに凌駕しています! もはや世界の脅威に立ち向かわんという意思を受け取りました!  もちろんシルグランディアの系譜の方ですので後始末のほうについても心配はしていません!」
 ネシェラの頭の中にはティルフィングが思い浮かんだ、そっか、あの後イセリアはなんとかしてティルフィングを処分しているんだもんな。
「それでは早速現世に蘇ったウロボロスのいた場所に行きましょう」

 アルトレイから北上し、その終端にたどり着いた一行。
「まさに毒を以て毒を制すってわけか、破壊の力で破壊の灯を討ち破る、と……」
 リアントスが言うとロイドも言った。
「ローア期のウロボロスもまさに自らが司るハズの破壊の力で破られているからな、案外そういうものなんだろう」
 すると、ネシェラはおもむろにその精霊石をロイドに手渡した。
「なっ!? なんだ!?」
 ネシェラは嬉しそうに答えた。
「やっぱりこういうのはお兄様に任せようと思ってね♪」
 はぁ? ロイドは呆れていた、どういうことだと。すると――
「来ます! 気を付けて!」
 マーシャは注意を促した、なんだか強力な力場が――
「この感覚……またウロボロスが来るぞ!」
 ランブルは身構えていた。そしてその時――
「なっ!? なんだあれは!?」
 海へと散って行ったはずの破壊の化身が浮上してきた! だが、その身体は透過していた!
「やろっ! やってやろうじゃねえか!」
 リアントスをはじめ、何人かは慌てて戦闘体勢を整えていたが、ロイドは――
「待て! なんだか様子がおかしい!」
 そう言って全員を静止していた。すると、その透過している身体は少しずつ粉のようなものとなり、 そして一気にロイドが持っている精霊石へと吸収される!
「うおっ!? くっそぉおおおおお!」
 あまりに強烈な力に対してロイドは踏ん張っていた、ネシェラが手渡した理由……。 そして――
「なっ、なんだったんだよ今のは!?」
 リアントスはロイドにそう言うと、ロイドは精霊石を掲げて言った。
「ウロボロスの力を吸収したようだ、これで目的のブツが手に入ったってことだ。 なんて名前を付けておく?」
 ネシェラに訊いた。
「そうねぇ……それならこんな名前はどうかしら?」
 ロイドはウロボロスの魔石を手に入れた! いや、ネーミングまま……。