アーカネリアス・ストーリー

第7章 アーカネリアスの英雄たち

第197節 アルクレアの真実

 ガトーナス=エルグレストは話を続けた。
「フェリンダ=フローナルは何とも気性の激しい精霊だ、 プリズム族由来の美しい精霊とは第4級第5級精霊の間でも人気のある彼女だが、 それとは裏腹に腕っぷしも強く、そこいらの戦闘向けの精霊とも引けを取らないほどの能力者でもある。 世界創世期のエルフェリア=フラノエルの流れをくむ存在だからな、当然と言えば当然か」
 ネシェラは考えた。
「でもさ、そんな気性の激しい精霊からアルお姉様みたいな可愛らしい女子が生まれてくるっていうのが―― もっとも、生まれ変わったら別人格って可能性もありそうだけど――」
 ガトーナスは答えた。
「俺はあまり詳しくはないんだが、それでもシルル殿はまるでフェリンダにそっくりだ。 アルクレア殿については、フェリンダの魂を分離したことで現れた秘められた人格……なのかもしれないな」
 リアントスは考えていた。
「あんた力の精霊なんだよな? 高位の精霊ってのはそういう二つ名があるのか?」
 ガトーナスは考えた。
「二つ名というか、平たく言えばそういうものを司る存在と言ったところだな。 あくまで力と言っても俺の見てくれの通りだが、お前たち生物の活力を司る存在だ。 お前たちも知っているようだが、俺たちはあくまで神に成り代わって世界を管理しているにすぎん。 だから、司るといっても管理――その程度のものだと思ってもらえればいいだろう」
 ネシェラは考えた。
「管理ってことはあくまでそのうちの1人ってわけ?」
 ガトーナスは頷いた。
「察しがいいな、その通りだ。 いくら高位の精霊といえどそのうち衰える―― お前たちよりもはるかに長く生きるとは言え、それでもいつかは限界を迎えるのだ、 だからつまり――」
「つまり、その時が来たら後継者と交代するってわけね。 オッケー、そこまではわかったけど――リアントス兄様の疑問の続き、 フェリンダ=フローナルは何の精霊様? ってことでしょ?」
 ネシェラはそう言うとリアントスは少々狼狽え気味に言った。
「おっ、おう……よくわかったな、やっぱり安定の――」
 ネシェラは何それとなく答えた。
「フラノエルは”運命の標”を使ってあだ名すものを斃してきた、 だから答えは簡単、フラノエル直系の子孫であるフェリンダ=フローナルは運命の精霊様。 そういうことでしょ?」
 ガトーナスは顎を手で押さえて言った。
「エターニスを発った1人の精霊がいた―― ”メシア”を探し出し、この世に潜む”邪悪なる者”を倒すようにと命じられた。 その精霊は既に現世にはおらず、その使命を2人の子らに託した。 だが、”邪悪なる者”は想像以上に大きくなっているようで、 精霊界は2人の精霊だけでは太刀打ちできないだろうと判断した。 しかし――」
 ネシェラは頷いた。
「自分では実感していないんだけど、”メシア”は私ってことなのね。 もちろん私だけじゃないわ、御覧の通り、ここには私を含む28人の勇士がいるのよ。 だからこの流星の騎士団に任せておけばその”邪悪なる者”にも打ち勝てるってわけよ。」
 ガトーナスは頷いた。
「どうやらそのようだな、お前たちに任せておけば大丈夫なのだろう。 そうと決まったら私は精霊界から様子を見ているとしようか。 もちろん、世界を管理する側として、お前たちの支えになることが仕事だからな」
 ロイドは頷いた。
「おう、頼むぜ、俺の力をしっかりと維持しといてくれよな」
「なんだ、力を貸してくれ、ではないのか?」
「貸してくれるのか? あんまり期待はしてねぇんだが」
 ガトーナスは得意げに答えた。
「ふっ、お前の言う通りだな――俺はこっちでは自分の力を最大限ふるうことはできん、 その分、お前の力のほうがはるかに上なのはわかっている―― そのような者に私から与えられる力はないも同然だ、自分の力を信じて進むのがいいだろう。 俺はそんなお前たちのために祈り続けよう」

 ガトーナスは去って行った。
「結局、話はあれだけだったのか?」
 リアントスが訊くとネシェラが言った。
「本当はいろいろとあったんだろうけれど、 自分から話をする必要がないって判断したんでしょうね。」
 じゃあ……リアントスは訊いた。
「俺らの標的はクリストファーだ、それがいつ”邪悪なる者”になった?  クリストファーは”邪悪なる者”なのか?」
 サイスが答えた。
「というより、恐らくクリストファーは”邪悪なる者”の仮の姿と言ったところでしょう。 これまで、彼がこの一連の事件の犯人であることは我々エターニスのライト・エルフの中では満場一致でしたが、 魔物による危機と魔法の反乱……並の精霊族が考えてここまでやるとすれば、 ”邪悪なる者”の手による者と考えれば合点がいくことでしょう」
 ネシェラは考えながら言った。
「それにやっぱり”雲”を持ち出していることね、 ローア時代の”邪悪なる者”も目的は確か世界の大破壊だったハズだし――」
「そうか、”破壊の灯”を作り出したのは”邪悪なる者”に連なる存在だったか。 そもそも”破壊の灯”を必要とするのは世界を破壊しようと考えるやつぐらいしかいない、 つまりは……そう言うことになるね――」
 スクライトも考えていた。
「まあいい、そこまでの根拠が整っているんだったら十分か。 やつを倒せばすべては丸く収まるのならそれでいいか」
 リアントスはそう言うと、話は一旦締めることになった。