クレメンティル陥落から1週間が過ぎ、アーカネル騎士団は相当の被害が出ており、いろいろと対応に追われていた。
だが、アーカネルにおいての対応はアテラス執行官長にすべてを任せることで調整がついているため、
流星の騎士団としては打倒クリストファーに向けて突き進んでいくだけである。
そんな彼らだが、現在はティンダロス邸へと舞い戻っていた。
戦いのための最後の拠点だが、それでもやはりホームということである。
「精霊石か――なんとも厄介なものを持ち出してきたようだね――こんな使い方をするとは……」
スクライトは守護宝石と呼ばれたそれを眺めながら悩んでいた。
「なあ、時間がないんじゃないのか? こんなところで油売ってても――」
スティアは急かすように言うが、スクライトは淡々とした表情で答えた。
「言っても、世界を滅ぼすような力だったらそんなに切羽詰まった状況ではないハズだからね、
世界を滅ぼすほどだったらそれだけ時間をかけるものさ――」
ロイドは訊いた。
「効果と対価の関係だな、何かデカイことを成し遂げるにしても、
その結果に対しては代償として大きなものを支払う必要があるってわけだ。
クリストファーにとって必要なものは時間ってことか――」
スクライトは頷いた。
「間違いないね、だって、そうだとしたら破壊の灯の入り口をわざわざ閉ざすことまでしなくたっていい、
時間が必要だから誰にも邪魔させないってことなんだろうね――」
するとそこへ、見慣れぬ精霊族の女性がやってきた、少々お年を召しているようだ。
「ちょいと邪魔するよ—。クレアはいるかい?」
クレア? 呼ばれた本人は返事をした。
「おっ、ちゃんといるねぇ、よしよし。とりあえず、まずはあんたに伝言だ。
20年後にクロノリアの山頂にある”試練の祠”に来なさい。
詳しい話はその時にしてあげよう――」
いっ、いきなり唐突に何言っているんだ!? 何人かは困惑していたが――
「ああ、何でもないよ、私とクレアとの話、業務連絡ってやつだよ」
わけがわからない、どういうことだ。
女性は話を続けた。
「さてと、あんたたちと話をする前にだ、
その前にちょいと待っといてくれないか?」
なんだろう、待ち続けること3分、何者かが現れた。
「確か、ここにいると思ったが――」
そいつは筋骨隆々の男だった。だがその男にシルルが反応した。
「なんだ貴様、どこかで見た顔だな――」
その声に男は反応した。
「おっ! いたいた! フェリンダ=フローナルだな!?」
やっぱりか……それは予感していたが、当人はあくまでシルル=ディアンガート、すぐさま否定したが――
「悪いが私はそんな名前ではないが――妙だな、何とも聞き覚えのある名前だ――」
しかもそれだけではなかった。
「えっ!? なんですか!?」
誰かが名前に反応したようだ、それは誰かというと――
「アルクレア!?」
サイスは驚いた、そう、反応したのは彼女だった。
「なっ!? フェリンダ=フローナルが2人!?
そうか、とうとう魂を2つに割って別人格の器に入れて転生することに成功したんだな!」
あっ、魂と器の話――
「ほう……確かに原理的には可能だとは思っていたけど、実例がいるとはそれは何とも興味深い――」
スクライトは考えていた。が、それに対してアルクレアは――
「あれっ!? 私、どうしたんだろ……?」
その様子にアムレイナとライアが男に訊いた。
「どっ、どういうことです!?」
「お姉様が――何だっていうの!?」
それに対してあの女性が話をし始めた。
「やれやれ、唐突すぎるんだよねぇ、私が説明してやろう――」
「そうねぇ、まずは自己紹介からにしておこうか、まずは私から。
私はアミラっていうんだよ、セカンド・ネームはこの際だから伏せておくよ」
何故伏せる。理由を説明した。
「直接の理由じゃあないけど私はクロノーラなんだよ」
もはや聖獣だらけ――家の中にはほかにヴァルハムスとヴェラニスがおり、
他にはサーディアスがくたびれて部屋の隅っこで眠り込んでいた。
「それだけあんたたちには期待しているってことだよ、世界が破滅を迎えるにはまだ早いってことさ。
で、今ここに現れたこいつだけど、こいつは力の精霊ガドーナス、第3級精霊だよ」
なんだって!? 何人かは驚いた。
「フォース・ゾーンとかいう問題があるんじゃなかったのか!?」
「って、ロイド、知ってたんじゃないの?」
リアントスとライアはそれぞれそう訊くと、まずはロイドが答えた。
「俺が知っているのは話だけだ、面識もないどころか見たのも初めてだ」
「いくらエターニスって言っても私らは”精霊界”にいる高位の精霊とは交流がないのよ。
エターニスの奥には”ゲート”って呼ばれる、まさにこの”人間界”と”精霊界”とを結ぶ門の役割をするものがあるんだけど、
通常、私たちはそこから精霊界に入ることはできないし、むこうからもフォース・ゾーンへの影響もあって不用意に出てくるということはないわね。」
ネシェラはそう説明した、だからあっちの世界のことは一切わからないのか。
「ただ、第3級精霊が時々”ゲート”から出てきては第4級精霊に対して指令を出すことはあるからな、
俺らが把握できているのはせいぜいその際に出てくる話が噂として広まった内容ぐらいだ」
ロイドはそう説明した。案外、情報源は限られるんだな。
ガドーナスが説明した。
「俺は第3級精霊の中でもその”フォース・ゾーン”というものに比較的影響を与えにくい身体なのだ、
だからエターニスから遠征することが必要な場合にはこうして駆り出されることがあるのだ」
比較的ということはそれでも影響を与えるということである、
つまり、それだけ緊急事態であるということだった。