アーカネリアス・ストーリー

第6章 伝説との邂逅

第190節 流星の騎士団の最後の出陣

 ランデルフォン邸で話は続けられた。
「今回の敵は政府関係筋にまでことごとく浸透してしまっているのが特徴ってわけね。 となると、正攻法では難しいわね――」
 ネシェラは悩んでいた。それに対してレイランドが言った。
「だが、それでも”踏み絵”の効果は絶大だった。 あれは本当に傑作だったと思う、今のアーカネルの技術力と発想では到底考えられない行為だ。 敵はクリストファーだと的を絞った判断は正しかった、私はそのように思う。 そもそも、古来型の方々は口をそろえてクリストファーならやりかねないと判断しているようだし、 それでいいんじゃないかな?」
 しかし――サイスが言った。
「それはそうなんですが、問題は彼の目的です。 こうまでして、何がしたいのかが全くつかめていません――」
 すると――
「”禁呪の書・雲”か――」
 と、スクライトが……
「お前な……いつの間にいるんだよ……」
 何名かが口々にそう言ったが彼は構わず話を続けた。
「もし、クリストファーがそれを用いて何かをしようと企んでいるのなら、 行動は早く起こしたほうがいいよ」
 ロイドが訊いた。
「ってか、それって本当にクリストファーが窃盗したで会っているんだろうな?」
 スクライトは頷いた。
「ああ、窃盗した犯人は暴いたよ。 ”予測”の力は借りたけど裏まで取れた……とまで言っていいのかはわからないけど――」
 彼はそう言うと、後ろから少々お歳を召した女性が現れ――
「ちょいと待ちなよ、まったく……年寄りを少しぐらい労わりなさいよ――」
 女性はもんくを垂らしながらやってきた、彼女は右目に眼帯をしていた。それにはレイランドが驚いていた。
「フェルア!? 戻っていたのか!?」
 フェルアは言い返した。
「何よ、私が戻っていたらダメだっての?」
 レイランドは全力で首を振っていた。
「めっ、滅相もない! 今の状況でよくもまあアーカネルに戻ってきたもんだ……」
 フェルアは得意げに答えた。
「ふん、この程度の事、私にしてみれば造作もないことね!  それで、なんだって? 窃盗の話だって?」
 フェルアは話を続けた。
「エルナシアだったかな、エンドラスが何者かと会うことが分かったんだよ。 そしたらその場にエンドラスと見慣れない男がいて――あれは多分ハンターの類だと思うね。 確かに書物みたいなのをやり取りしていたのはわかったんだ。 エンドラスについてはあの後どこに行くのかが相場が決まっているから、 ハンターがどこに行ってどうするのか気になって、それでドミナントまで行くことになったんだよ。 そこまで行って力づくでねじ伏せて問いただしたら、クロノリアで窃盗をしたことまでわかったんだ。 だけどそのせいでドミナントでひと悶着あって、あのままじゃあ生きて帰れない気がしたから――あとはあんたたちが知っての通りさ」
 と言いつつ、彼女は眼帯を取り外した、右目にはちゃんと目があった。
「アトローナの技術ってすごいね、割としっかりとした眼球だよ、これでもう無茶な真似はしなくて済みそうだ」
 それに対してネシェラが驚いていた。
「えっ!? まさか――私が作ったやつ!?」
「えっ!? そうなの!?」
 フェルアも驚いていた。
「ちょうど少し前にアトローナの職人ギルドでそんな仕事の依頼があったからね、 面白そうだから作ることにしたのよ。満足してもらえたようで何よりよ。」
 いや、えっ、見えるのか!? レイランドは驚いていた。
「眼球は外からの刺激に対して脳に電気信号を送り込むための器官だからね。 だから見た目だけでなく、魔法まで駆使して機能再現にまでこだわった渾身の作品よ。 ただ――ちょいとノイズが入るのが欠点で、安全性も考えた末、ノイズを抑えるために多分標準の明るさよりも暗く見えるかもしんないわね――」
 しかし、フェルアは――
「いやいや、それでも私はこれで充分だよ。 確かにこれは結構暗いとは思うけど――それでも、失った右目の光が取り戻せたんだ。 見えるだけでも私は十分さ。 なーに、どうせ老い先短いんだからこれぐらい構いやしないよ、 私にしてみれば十分すぎるほどの出来栄えだね」
 とても満足しており、なんとも嬉しそうだった。 だが、思ったより暗いんだな――ネシェラは悩んでいた。
「まあ……本人がそれでいいというのなら……。でも、これは宿題ね――」
 と、言うことで――
「とにかく、アーカネルの守りについてはお任せください。 これでも一応元騎士、戦う力は衰えてもやれるだけのことはやって見せますよ」
 ガドリウスは調子よく言うと流星の騎士団は家を後にした。

 アーカネル城の1階ホールにて、なんと、あのアテラス執行官が堂々と騎士たちを前にして話をしていた。
「いいかみんな! クレメンティルの者共には何があろうと絶対に怯んではならん!  アーカネルの騎士としての誇りを持て!  たとえそれが魔物であろうと、連中にアーカネル騎士団の力を見せつけるのだ!」
 何があったんだというぐらい堂々としている彼、 そんな彼の前には大勢のアーカネル騎士たちが奮起しており、士気を高めていた。 ノードラスはそんな彼を眺めながらニコニコとしていた。
「ふう……これでようやく肩の荷が下りたな。アテラス新執行官長、あとは任せてよいか?」
 そう、アテラスは執行官長となったのだが、 ノードラスはもう引退を考えていてアテラスにその座を譲り、執行官長補佐の地位にとどまっている。
 アテラスは行儀よく答えた。
「はい! お任せください! ノードラス元執行官長!  クレメンティルは今や、クリストファーという悪の枢軸に侵されている状況!  あいつを追い出すまでは私も一歩たりとも退いたりしません!」
 本当に頼もしくなったな――ノードラスは感激していた。 それにしても、アテラスって牢獄に幽閉されていたのでは?  いや、そう言えば、クレメンティル相手にそう言っただけであって、本当にやっていたという光景を見たことがない気がした、 ノードラスも幽閉されているとは言っていたが――なるほど、彼はそもそも幽閉されていなかったということか、 クレメンティルにゆさぶりをかけるためのパフォーマンスだったということか。 なるほど――踏み絵と言い、クレメンティルに精神的ダメージを与えていく効果は大きかったようだ。
「ネシェラさん、流星の騎士団さん――後は頼みましたよ!」
 アテラスはそう祈っていた。