そして、いよいよシルルが本格的に口を開いた。
「私が問題にしていたのはエルメルダが亡くなったからだけではない。
そもそも、彼女が亡くなったのは魔物に襲われたからだ」
なんだって!? それじゃあ――
「そう、問題は何故それを隠さなければならなかったのかだ。
いや、そもそもあの件を機に私らの活動記録の一切が抹消されているのだ。
なんとも不気味なその状況ゆえに当時はまだ執行官の一人に過ぎなかったセドラムに話をしたところ、
彼自身にも圧力がかかっていたことが分かった。
言わば、彼は傀儡……執行官長になったのもその圧力のせいだったようだ」
なんてことだ、と言うことはアルクラドの戦いは、彼の反対云々以前に決まってしまったこと――それに対してアムレイナは話をした。
「そう言う背景があるからこそ、私たちは当時のことは触れずに行こうと考えました、
いつかそれが明るみになる日が来る――表立って行動すれば確実に殺られてしまう――
だから真実を暴くためにも密かに行動しようと考えたのです――」
そうだったのか。シルルは話を続けた。
「第一、そんな圧力をかける人間はすぐにでもわかっている、
当時の貴族会側の連中ぐらいしか考えられない。
だが、たとえそれがわかっていても私としては打つ手がなかった。
そこで、元青光の騎士団の1人であるレイランドに接触しようと考えたのだ」
レイランドが話を続けた。
「アルザックとエラドリアスの死、
さらにはセドラムの意とは反するアルクラドの戦いでの妙な戦術――
相次ぐ妙な出来事に不信感を抱いた私はあの時以来、身を隠すように暮らすことを決断した」
確かに、エラドリアスも亡くなっているか、しかもそれがアルクラドの戦いと同じ年だったとは。
「そこで当時は貴族会の一員でありながらも当時の貴族会の在り方に異を唱えていたアントリス=クロアトインを頼ることにした。
彼は貴族会の中心人物の1人だったが是正を進めようと試みていた人物だ。
彼は誠実で気さく、私のことをすぐに受け入れてくれた。
それで私はロードアン=クロアトインを名乗ることにし、アーカネルを秘密裏に調べることにしたのだ。
シルルと出会うことになったのもその後のことだった、すぐに私の居場所を見つけるとは恐れ入ったよ」
シルルは頷いた。
「昔のハンター時代のクセがしみついているからな、私なら見逃すことはない。
だから隠れて活動する気ならと、それをすぐに正すようにさせたのだ」
レイランドは頭を掻いていた。
「彼女には参ったよ……。
とにかく、私はクロアトイン家の一員になりすまし、アントリスにいろいろと便宜を図ってもらった。
そして、貴族会の勢力図がすぐにねじれていることに気が付いたんだ、
恐らく、私ら正規の勢力と敵方のほうの勢力とが対立しているのだろう、どこかでそのような構図が起きているせいだと思う。
それをシルルに調べてもらったところ、ドミナントの地で不穏な動きがあるということが分かった。
それでアントリスはドミナントに行って調べてくると言ったんだ」
だが、その結果、アントリスは――
「えっ!? アントリスは死んだって!? いやいや、そんなハズはないよ。
確かに、クリストファーの息のかかった連中に襲撃されたとは言っていたが、その後はどこかに身を隠しているハズだよ」
そう言われてライアは気が付いた。
「そっか――義眼ってところに注目したんだけど……」
レイランドは頷いた。
「彼女は似たようなことを過去に1度だけやっている、自分の義眼を抜いて相手の死体の眼球と入れ替えるなんていう芸当を平気で行っているんだ――
その光景は想像したくないけど、それだけに執念深い人なんだよね――」
それは何とも言い難い光景だ、想像しないでおこう……。
ん? てか今、彼女って言った?
「ああそうそう、あの人はああ見えて実は女の人なんだ。
男装の麗人とはよく言ったもんだけど、友達が謀殺されて不審を抱いたというもんでね、
元は白銀の騎士団に所属していたフェルア=クロアトインなんだそうだ」
なんと、その彼女もまさかの白銀の騎士団員……シルルは頭を悩ませていた。
「フェルア……あの子はいろんな意味で無茶な子だった。
後にアントリスとして青光の騎士団に配属されたときに私は驚いた、
姉を追って騎士団に入団した体を保ってエルメルダの死の真相に近づくんだって――
だから私も放っておくことはできず、無茶と言われようと何だろうと行動に移さずにはいられなかった――」
それに対して元白銀の騎士団はみんな頭を悩ませていた。
「フェルア……確かに、エルメルダと一番仲が良かった子ですね。
友人が急に亡くなって、その真実が隠蔽されたことで一番激怒したのは彼女でした。
それだけではなく、彼女の遺体すら戻ってきていません。
彼女はそんな大きな陰謀の闇に恐怖を覚えるどころか、むしろそれに挑戦しようと言わんばかりの覚悟でした」
アムレイナが言うと、それに対してリアントスが言った。
「なるほどな、それだけを聞くとまるでどこかの誰かさんみたいな女だな」
しかし、それについて当事者がはっきり言った。
「へぇ、なるほどねぇ、まるで私みたいな子なのね、気が合いそうじゃないのよ。」
自覚があるのか……ネシェラは得意げに言うと、何人かは改めて呆気にとられていた。
そんな話を、改めてランデルフォン邸でしていた。
「そうですか、フェルアにエルメルダ……久しいですわね――」
と、その家の奥様が感傷に更けていた。
「アドメイア=ラダックス……ここにいたのか……」
レイランドがそう言った、そう、この奥様こそが7人いた白銀の騎士団の団員の1人である。
「すみません、私にはもう弓を取れと言われてもそんな力はありません。
ですが――わがままなお願いということは重々承知しておりますが、
これを受け取ってはもらえないでしょうか?」
彼女はそう言うと、弓を取りだした。
「受け取るのは簡単だけどね、どうかしら、それを自分の娘に譲ってみてもいいんじゃない?」
ネシェラはそう言うと、彼女は悩んでいた。
「お母様――」
レオーナが訊くと、そこへガドリウスが気さくに話していた。
「そうだな、やはり自分の子に譲ってこそだな。
気持ちはわかる、自分の弓を手に取ったことで自分たちの時と同じような悲劇に合わせたくない――
だからかつての仲間に、陰謀に向かって挑戦している仲間に託したいという気持ちもわからんでもない。
だがしかし――今はレオーナもそのうちの1人なのだぞ? 弓を譲ろうと譲らなかろうと同じことなのだ。
それに、レオーナには今やたくさんの仲間に囲まれている、アーカネル始まって以来の最強の軍団、流星の騎士団にな。
だからまずは、レオーナや共にいる彼らを信頼したらどうだろうか?」
そう言われると、アドメイアはレオーナに弓を譲り渡した。
「そうですね、あなたの言う通りですね。
レオーナ、私の弓、受け取ってもらえる?」
レオーナはその弓を携えると、力強く答えた。
「お母様の分まで頑張ってくるわ、だから私の事、見守っていてほしいの」