アーカネリアス・ストーリー

第6章 伝説との邂逅

第186節 やっぱりこの人が一番ヤバイ女

 誘惑女こと、レミアンナ=アドーランスを拘束し、 地下牢ではなく何故か別の個室へと連れていくことになった、主にネシェラの指示で。 無論、彼女の色香にかかっていたものはすっかりと元通りの状態に戻っている。
「魔族だからね、ちゃんとした対応をしてあげれば話は通じるものよ。さてと――」
 と、その個室に入ってきたネシェラだった。彼女は扉を閉めて話を始めた。 その個室にはゴージャスなソファがあり、彼女はその上に座らせていた。
「何よ、地下牢に連れていかれるハズだったのに途中で変わったのはあんたの指示?」
 レミアンナはそう訊くとネシェラは得意げに答えた。
「そうよ、大正解。 にしても、なかなか見かけない魔族とこんな形で遭遇することになるなんて珍しいわね。 ま、魔族は現状散り散りに過ごしているんだろうけど――アーカネルの世になってから人間の世になっちゃったからね、 魔族も肩身の狭い思いをしてんのね。」
 と、ネシェラは彼女の腕の縄を解いた。それにはレミアンナも驚いていた。
「私が何をしようと余裕って感じね、これだからエターニスのライト・エルフってキライなのよねぇ――」
 ネシェラは頷いた。
「別にエターニスに限った話じゃあないでしょ、ま、特にキライなのかもしんないけどさ。 でも、クリストファーだってエターニスのライト・エルフでしょ?」
 レミアンナはため息をついた。
「そうねえ……でも、背に腹は代えられないでしょ?  あいつはね、自分の目論見さえうまくいけばあとでなんでもしてやるって言うからね。 私は元々行く場所なんてないから、何でもよかったのよ」
「なんでもいい? プライドないの?」
「あるわよ、魔族だもの、自分にとってより有利なほうにつく――鉄則でしょ?」
 ネシェラは頷いた。
「流石ね、力がある男――魔王様とでも言っておこうかしら?  魔王様に取り入って自分の魅力をアピールし、そして魔王様の玉の輿となり、 下々の者たちに対してマウントを取る――ラミアの出世としては真っ当よね。」
 レミアンナは得意げに答えた。
「よーく知ってんじゃない! 感心するわね♪」
 ネシェラも得意げだった。
「人間の女もよく真似する行為よ、 もっとも、人間の場合は魔族と違って文字通りの”力”でなくて”権力”とか”金の力”とかになるわけだけど。」
 レミアンナは頷いた。
「言っても、別にそんなに力が欲しいわけじゃないけど――そもそも選択肢がないからクリストファーに付いただけのことよ。 エルフはキライだけど、それなら仕方がない――エルフと組んだっていいわ。 ただ――彼は根暗で自分以外のことはなーんにも考えてないみたいだし、 あんまり私の好みって感じでもないから一緒になろうなんてこれっぽっちも思ってないんだけどね」
 なるほどね、この女ははっきりしているな、ネシェラはそう考えたが本当だろうか……。
「あのさ、もう一度聞くけどさ、本当にエルフがキライ?」
 そう言われてレミアンナはため息をついていた。
「そうねぇ……なんだかんだ言ってさ、こうしてあんたと話をしているんだもんねぇ……」
 ネシェラは得意げに訊いた。
「多分、先入観じゃないかしら?  精霊族は世界を管理している側の種族だ、それが気に入らない――っていうだけの話じゃないの?」
 レミアンナはお手上げだった。
「それは――私にはさっぱりわからないのよね、私、もともと孤児だからそういう概念を教えられて育っていないのよ。 あなたも言ったでしょ? 魔族は現状散り散りに過ごしているって、私もそのうちの1人よ」
 すると、ネシェラは嬉しそうに話をはじめると、何か箱のようなものを目の前のテーブルの上に置いた。
「そうそう! ラミア族のお姉さんだからいいものを用意したのよ♪  本当はプリズム族のお姉様の誰かに着させる予定だったんだけど、 むしろラミア族に着せるべきよね!」
 と、ネシェラは箱を開けると――
「えっ、なにこれ、服?」

 とゆーわけで。まさかのティンダロス邸にて。
「なっ!? なんであの女がいるんだよ!」
 ロイドは驚いていた、レミアンナを指さしてネシェラに問いただしていた。
「そりゃあ見ての通り、私の作品を華麗に着こなしていただけるファッションモデル様だからよ。」
 もはやカオス!
「じゃなくて! 敵だったんじゃないのか!?」
「違うわよ、彼女の目的は、ただただ自分の願いをかなえたかっただけ。 そもそも、彼女がクレメンティルに単に手を貸しているってのもおかしいじゃない?  だって、クレメンティルっていうか、クリストファーよ?  あんなのに彼女を満足させるような能力があると思って?」
 ロイドは悩んだ。
「まあ――少なくとも、女を喜ばせるような能力はないだろうな、根暗だし」
 するとレミアンナがネシェラを――
「ねぇ! ちょっとこれ、胸がちょっときついから何とかしてもらえるかしら?」
「はーい! お嬢様ただいま少々お待ちを!  ……でしょ? それに何より――レミーったらなんだか可愛いじゃないのよ♪」
 と、ネシェラは彼女に返事をしてからロイドに伝えるだけ伝えると、 レミアンナのもとに行って楽しそうに服を手直ししていた。 その周囲には他の女性陣も群がっていた。
「やれやれ、言っても聞かねえんだからな。 ま、ネシェラがそうするって言うんだったらなんでもいいか――」
 そこへシルルが話しかけてきた。
「随分と妹をかってるんだな」
 ロイドは頷いた。
「ああ、”メシア”だからな」
 シルルは嬉しそうにしていた。
「そうか――だが、こうして人間族と精霊族、そして魔族が手を取り合う世の中とはいいもんだな」
 ロイドは訊いた。
「あんたはこれまで魔族を見かけたことはあったのか?」
 シルルは答えた。
「たまに見かける程度だった、魔族は滅びてしまうのだろうか――そう思っていたこともあったが――」
 だが、そんな魔族が、レミアンナは女性の輪の中心にいて何とも楽しそうな様子だった、何処からどう見ても普通の女性という感じである。
「なるほどな、”刃無しの珠”がついてて正解だったようだな」
 ということで、レミアンナを使ってアーカネルを内部から崩壊させていくクレメンティルの目論見は失敗に終わった。