アルクレアは意地が悪そうに訊いた、暗殺者はそのまま彼女に跪いたまま微動だにしない!
「ほーらぁ♪ どうしたのかしらぁん♪ 私はこぉーんなに無防備なんだけどー?」
さらに、如何に無防備かをさらしつつ訊いた。
「私を殺せないのはどーしてなのかなー?」
暗殺者は泣きながら言った。
「俺は――お前……いえ、アルクレア女王様を殺すなんてことできません!
お願いです、お願いですからどうかどうか、どうか許してください!」
暗殺者は土下座をして懇願していた。
「あははっ! そっか! そうなんだね! しょうがないなぁーもう♪
ゆるしてあげちゃおーっと♪ ねっ、ネシェラちゃん♪」
えっ、やっぱり生きてるのか――
「そうね、仕方がないわねぇ――」
暗殺者は驚いていた。
「なっ!? 生きている……だと……!?」
辛うじて、まだ誘惑魔法で意識まで完全に奪われていないようだ。
そして、ネシェラはため息をつきつつ立ち上がった。
「誘惑女がこの場所に入ってきて男たちを一気にかっさらってきたからね。
私も急だったから完全してやられたわね。
だからとにかく、誘惑女と一緒にやってきているハズの暗殺者さえあぶりだせれば――
そのためにずっと魔法で死を演じていたのよ。
だけど、こうもあっさりと引っかかるなんて、やっぱり詰めが甘いわね、ねっ、サイス兄様♪」
サイスは起き上がった。
「はあ、全くです――おとなしく、ネシェラさんの言う通りにしているのが正解って感じですね――」
暗殺者は驚いていた、死んでいたはずの生存者が2名――
「ふっ、くくくっ――だが、先ほど立ち寄った男、残念だがその誘惑女の餌食になるのだぞ、
結局お前たちは同士うちが避けられぬのだ――さあ、仲間の手にかかり、その命を終えるといい! ふはははは!」
ネシェラは呆れていた。
「はいはい。アル姉様、もういいよ――」
するとアルクレアは得意げに美しくふるまうと――
「あはははははは! あはははは――」
暗殺者はそのままネシェラの前にやってきて、素直に後ろ手に縛られていた。
「んなところで死体を作る趣味はないからね、後でしっかりとぶち殺してやるよ。
ほら、サイス兄様! いつまでも自分の女に見惚れてないでちゃんと始末なさいよ!」
そう言われてサイスは焦っていた。
「なっ!? いや、えぇっ――」
サイスはどう返答していいのかわからなかった、別に見惚れているわけでもなし、
かといって否定するとアルクレアに悪いし――
「うふふっ、そうよ、サ・イ・ス♥」
アルクレアは彼を誘惑していた――。だが、そう言えば――
「あっ! それよりもロイドさんです! その誘惑女のところに向かったんじゃあないですか!?」
そう言われてアルクレアは我に返った。
「あ! そういえばライアが探しているハズ! ロイドたんをなんとかしないと!」
だが、ネシェラは得意げに答えた。
「ふふっ、お兄様なら平気よ、そこいらの誘惑女の色香なんて絶対に効くわけないからね。」
えっ、そうなの!? 2人はキョトンとしていた。
「ええ、まあいいから見てなさいな。」
どっ、どういうことだ!?
玉座にて――
「うふふっ、あんたっていい男ねぇん♥
いいわ、だったらトクベツに……この私の身体を抱かせてア・ゲ・ル♥」
誘惑女の色香が当たり一面に充満する! その色香がロイドを包み込むと、彼はたちまち彼女の虜に――
「ウフフフフ――これであんたはこの私の下僕♥
さあ、私は女王様よ! 下僕は女王様の命令に従いなさい!
まずは流星の騎士団をお前の手で壊滅させるのよ!」
すると、そこへ運悪くライアが後ろからやってきて――
「ロイド!」
彼の名を叫んだ――
「あらぁ♪ 噂をすればなんとやらだねぇ♪ さあ、まずはその女を殺しなさいな!」
誘惑女は楽しそうに命令すると、ロイドは剣を取り出し――
「なっ!?」
なんと! 何食わぬ顔で誘惑女のほうに剣閃を飛ばした!
「どっ……どうして……、どうして……」
誘惑女はその場で倒れた――。
「どうして? そんなの簡単な話だ。
そもそも、誘惑魔法が有効な対象はかなり限定されているんだ。
まずは対象が術者とは異性であること――効力次第では同性でも有効ではあるのだが、
基本的な誘惑魔法だと異性がほぼ絶対条件と言ってもいい、これは確かに要件を満たしているな。
そして次の要件だが――相手の精神力が術者の精神力を上回っているかどうか。
とはいえ、こいつに関しては一概には何とも言えない、相手との相性っていうのもあるからな。
基本対象が異性っていうところにも通じるところだから要件としては同じ内容と思っていいだろう。
そして3つ目だが――残念ながらこの時点でお前の誘惑魔法はそもそも俺に有効にすらならないんだ、何故だかわかるか?」
えっ、どういうこと!? ライアは訊くと、ロイドは言った。
「ん? 訊きたいのか? というか、ライアが一番よくわかっているだろ?」
えっ……そう言われても――ライアは考えたが、すぐにわかってしまった。
「まさか、そういうこと!?」
ロイドは頷いた。
「そう言うことだな。
3つ目は、そもそも俺自身が別の女王様――プリズム族の女王様の虜だからだ。
その女王様と夜を共に過ごしてしまっているからこの程度の色香で引き込まれようがないんだよな。
もちろん、先ほどの精神力の関係で奪われる可能性もなくはないが、まあ――どうやら届かなかったということだな。
ったく、寄りによってそんな説明をわざわざ女王様当人を前にしてするハメになるなんてな――」
ロイドは頭を掻いて照れていた。すると、ライアは楽しそうに言った。
「あらぁ♪ ロイドったら♪ うふふっ……
ちゃんと誘惑女を始末してくれたのね♪」
ロイドは頷いた。
「ああ、女王様、仰せのままに」
すると――
「ん? 生きてる!?」
ロイドは驚いた、妙にもがいている――なんでだ!? しかし、ライアは気が付いた。
「ロイド! 剣に”刃無しの珠”がついたまま!」
あっ、このせいか――ロイドは悩んでいた。但し、
「……どうやら急所に入ったことには変わらなそうだ、しばらくは身動きがとれねぇか――」
だそうだ。するとライアが前に出て――
「なら、ちょうどいいわね! ロイド、この女を生け捕りにしなさい!」
そう言うと、ロイドは頷いて調子よく答えた。
「仰せのままに……まあ、この際だからそれでいいか――」