アーカネリアス・ストーリー

第6章 伝説との邂逅

第182節 これが本当の伝説に名を残す金属

 話はアーカネルの時代に戻り、一行は全員アーカネルに集結、最後の戦いについて考えていた。 ヴァナスティアの教えの上では冒険者の個人個人の名前はイセリア=シェールすらも例外なく残されていない。 一応、”メシア”の行動については残されているようだがそれがすなわちイセリア=シェールであるという記録も残されていない。 だが、世界の管理者の一部であるフラノエル様だけは残されているのはイセリア=シェールの意志なのだという。 それは何故か? 大いなる精霊様だからである。
「で、これがその”破壊魔剣ティルフィング”を作った時に使われた鉱石か?」
 そう、ネシェラが話をつけていたモノというのはその鉱石のことである。 ロイドが訊くとヴァルハムスが答えた。
「当時アトランド時代のアトローナから持ち出されたということもわかっている。 それだけではない、後に精霊界入りを果たしたイセリア=シェールはアトランドとも行き来をしており、 アトランドを技術都市へと発展させている。 だが――彼女はこの鉱石を使用するのは厳しい制限を敷いていてな―― 不用意に力を流出させることはやはり世界のフォース・ゾーンを乱す行為他ならないからだ。 無論、これが自然界にある以上はそのような心配をするほどではないのだが、 当時のイセリアは”まだ、その時ではない”と言い残し、一切使用を認めなかったのだ――」
 極力、力を出さないため――
「私もアトローナ以外でこれをみたことはないわね、 つまり――アトランドで厳しく取り締まってしまえば他で使われることはないと――」
 ヴァルハムスは頷いた。
「そうだ、イセリア=シェール――”精霊シルグランディア”がそう判断したのだから皆それに従ったのだ。 しかし、彼女はそれ以上にすごい能力を持っていた――だから今のアトローナがあるといっても過言ではない――」
 ヴァルハムスはそう言いながらネシェラの目を見ていた。
「わっ、私!?」
「他に誰がいるんだ――どう考えてもお前がイセリア=シェールだろうが――」
 ロイドは呆れ気味に言った、言うまでもないが、皆同じ意見である。
「えーっ!? でも、その話だと、イセリア=シェールって男できてんじゃん? 私と全然違う女よ。」
「なんでそこだけで判断するのよ。 聞いている限りだと、彼女、結構な跳ねっ返りって感じだったけど?  さんざん男をボコボコにしているみたいだし、彼も好きにさせてあげようって感じがにじみ出ていたしね」
 ライアは呆れ気味に言った。
「男いること抜きにしてもほぼネシェラだしな。 俺なんて、話聞いているうちにイセリア=シェールって女を、 いつの間にかネシェラ=ヴァーティクスのつもりで聞いていたしな」
 リアントスも呆れていた。
「だな! もはやイセリア=ヴァーティクスかネシェラ=シェールだな!」
 わからなくもないスティアの発言。
「イセリアお姉様♪ 絶対に素敵なお姉様に間違いないね!」
 シュタルは嬉しそうだった。
「つまり、イセリア=シェールは”シルグランディア”であり”メシア”でもある。 彼女の生き写しと言わんばかりのネシェラ=ヴァーティクスは……」
 ヴァルハムスは頷いた。
「左様。ネシェラ=ヴァーティクス、つまりお前こそがこのアーカネルの世に生まれ出た”メシア”その人なのだ」
 そう言われて当人は無茶苦茶驚いているが、それに対して周囲は全く驚いていない、 むしろ自覚しろよと言わんばかりである。いやマジでなんで自覚ないんだよ。
 いや待った、そういえば、まだ大事な話があった。
「ところで――この鉱石は何ですか? ティルフィングの材料?」
 アレスが訊くとロイドは頷いた。
「聞いて驚くなよ、この鉱石は誰もが一度は耳にしたことがあるほどの”レジェンド・メタル”だ。 そう、こいつが正真正銘の――」
 この独特の緑色の質感、だが、ところどころ銀の色が顔をのぞかせている――
「――これが伝説に名を遺す大いなる魔法金属”ミスリル”だ」

 ”ミスリル”――それは多くの物語でも語られているほどの伝説の金属である。 しかし、この世界の”ミスリル”は――
「シルグランディアが使用を禁じたほどの金属だからね、基礎スペックは相当のものだと思っていいんじゃないかな」
 と、ディアは説明した、そんな”レジェンド・メタル”を前に多くの者はビビっていた、伝説の金属が目の前に――
「でも、使ってもいいものなのでしょうか?」
 アムレイナは心配しているとシルルが話した。
「現世の”メシア”こと、シルグランディアが言うのなら構わないのだろう。 それに――今のアーカネルの世はまさに当時の暗黒時代へと向かおうとしているようだ、 それを避けるためにも必要とするべきなのかもしれぬな――」
 シルルは少し前に大破した自分の武器を眺めながらそう言った――。
「でも、これで”ティルフィング”が作れるのかしら?  いえ、そんな代物を作るべきではないのかもしれないけど――」
 レオーナは心配しているが、ネシェラは頷いた。
「もちろん、当時の再現は不可能よ、あれは破壊の力を吸収しているみたいだからね。 でも、それ相応には作るつもりよ、使い手が制御可能な代物ぐらいにはね――」
 と、ロイドに向かって言った。
「おっ、俺!?」
「他に誰が使うのよ、適任者が他にいると思う?」
 ネシェラは言うとリアントスは頷いた。
「こういう時は大体ネシェラと意見が合うんだよな――扱うんならお前しかいないだろ?」
 それに追随して他多数もロイドが使うのを押していた、なんでだよ――ロイドは悩んでいた。
「でも、使っているのはミスリルだけじゃないみたいね。 まあいいわ、逆算して、材料としてよさそうなものを少しずつ考えることにしましょ。」
 と、ネシェラ、本気かよ――ロイドはますます悩んでいた。