アーカネリアス・ストーリー

第6章 伝説との邂逅

第177節 今も昔も彩りの大地

 翌日――アルタリアの道中にて、
「おいおい、そこの姉ちゃん! イイ女じゃねえか!」
 悪漢3人が2人の前に立ちはだかった――
「おいおいおい、俺の女には手を出さねえほうがいいぞ」
 テュラスは調子よさそうに言うと悪漢共は切れた。
「あんだぁ!? 何様だテメェ!」
「こんなイイ女独り占めしてんじゃねえよ!」
「だったらテメェの前でこの女キズモノにしてやらあ!」
 だが――
「やれやれ、だから手を出さねえほうがいいって言ったんだが――」
 テュラスは呆れていた。言うまでもないが、イセリアが悪漢3人をボコボコにしていたのである。
「気が済んだか? なんなら俺も手伝おうか?」
 テュラスは何の気なしに言うと、イセリアは上機嫌で答えた。
「いいえ♪ この程度の雑魚、あなたの手を煩わせるほどじゃあないわ♪」
 これはこれで怖いが――テュラスはもはや慣れていた、いつもの強い彼女である。 慣れって怖いな……。

 その日は早速刀鍛冶に依頼して譲り受けた剣を叩き直してもらうことにした。 だが、まともに取り合ってもらえず、新しいのを売りたいんだろう――そんな印象がにじみ出ていた。 しかし、イセリアも譲ろうとはしない。
「やってくんないんだったらいいわよ別に。 ところでそこのライン、空いてるの?」
 そう言われた店の人はそのラインを見て言った。
「ああ、見ての通りだ。それがどうかしたか?」
「自分でやることにしたから私に貸しなさいよ。」
 そう言われて店の人は驚いていた。
「はぁ!? おいおいおい……どこのお嬢ちゃんだか知らねえが―― 簡単にやっているように見えるかもしれねえが、身の程知らずにもほどがあるってもんだぞ?  まあいい、それでもやりてぇってんだったら止めはしねえ。 もちろん手なんか貸さねえからな、それでもよければの話だが――」

 それから三時間後――テュラスは頭を抱えていた。
「ほら、いっちょ上がりよ。こんだけやれば十分でしょ?」
 店の人は手のひらクルー!
「すっ、すごいな姉さん……本当に初めてなのかい!?」
 むしろ彼女の所業に驚いていた。 その彼女の仕事ぶりにはほかの鍛冶師も注目していた。
「姉ちゃん……やるな! こんな仕事をするなんて、俺らもまだまだだな!」
 そう言われてイセリアは照れていた。
「なあ姉さん! 申し訳ないが、もう3本打ってもらえないだろうか!?」
 そう言われてイセリアはむっとしていたが、
「いや、さっきは本当に悪かったよ! だから、その――工房は好きなだけ使ってくれていいし、 報酬も弾むからさ、なっ!? いいだろ?」

 あの後、結局5本打ったイセリアだったが、そのうちの2本は――
「ほら、どんな感じ?」
 イセリアは剣をテュラスに渡した。
「お前が打ったのか?」
 イセリアはにこにことしていた。
「使ってくれると嬉しいんだけど――」
 テュラスは嬉しそうにその剣を手に取った。
「イセリアが打った武器なら間違いないだろ?  プロも太鼓判押してたし、しかもじゃんじゃん売れてたみたいじゃないか!  やっぱりお前、すげーよ! イセリアはすごいな!」
 残りの1本はイセリアが携えていた、お揃い――

 アルタリアでは少々長居することになってしまったが、 そこから南部の”彩りの大地”へと赴くこととなる。 話の通りなら、そこにエターニスという精霊の土地があるハズである。 そこでの話は聖獣の伝承にのみ語られている話である。
 ”彩りの大地”にエターニス、アーカネルの世でもそのままの土地、 80億年もの間変わらぬ精霊の土地としてあり続けているのもすごい話である。 色とりどりの花々が咲き乱れているその光景――やはりイセリアは女子だった。
「いいわね! こーんな花畑の土地ってさ!」
 そんな嬉しそうにしている彼女を見ながらテュラスも嬉しそうだった。 もちろん、魔物が出ようものなら瞬時にねじ伏せてしまうイセリア、テュラスは彼女のことを好きにさせていた。 出るのは例によってエレメンタルばかり、すぐさま魔法ぶっぱする彼女なら問題なさそうだ。

 しかしやはりというべきか、エターニスでは誰もマトモに相手にしてくれなかった。 やはり、”イセリア=シェール”という存在がいるだけでは取り合ってもらえないのだろうか。
 するとそこへ――
「そこのお前たちに頼みたい――」
 言われて2人は反応したが、どうやら自分たちが聞かれたわけではなさそうだ、精霊同士で何やら話をしていた。
「はい、なんでしょう?」
「お呼びでしょうか?」
 恐らく上位の精霊らしき者が下位の精霊2人に話をしているようだ。
「今回のウロボロスは相当の能力を持っているようで、どうやら人間たちでは歯が立たないらしい。 だから――」
 斃せということだろうか、2人はビビっていたが――
「いや、我々だけでは斃すことはかなわんだろう。 あれを倒すには、人間界において英雄と呼ばれたかの存在が必要なのだ。 そこでお前たちに頼みたい用事だが、その者たちを探し出してほしいのだ――」
 と、その話をそっと訊いていた2人だが、そこに別の精霊がやってきて――
「何をしている貴様ら! ここは貴様らのような者が来るような場所ではない!  さっさとあっちに行け! しっしっ!」
 やはり、人間界の者は歓迎されないのか――イセリアとテュラスは悩んでいた。 しかし、さらに悪いことに――
「待てお前たち! まさか――今の話を訊いていたのではあるまいな……?」
 げっ……これは面倒くさそうだ――2人はどうするか悩んでいると――
「なんだ、どうしたのだ?」
 先ほどの上位の精霊がその場がもめていることに気が付いてやってきた。
「いえ、それが、このような者たちが今のお話をこっそりと聞いていたそうで――」
 するとその上位の精霊がすぐさま気が付いた。
「いや待て、まさか――」
 それに対し、イセリアとテュラスは得意げな態度だった。