アーカネリアス・ストーリー

第6章 伝説との邂逅

第175節 プリズム族の驚愕の真実

 これは何気にヤバイ話になることをテュラスはまだ知らない。
「生まれる確率3%未満?」
「ええ、1%未満ともされているらしいわね。 プリズム族は戦闘民族、この時代よりも少し前の時代の話になるけど、 その際に現れた邪悪に立ち向かうために立ち上がった容姿端麗な精霊様たちが起源とされているのよ。 その人たちは身体がしなやかで、戦いに特化した能力をお持ちだった。 だけど1つだけ、大きな問題があった――」
 それは――容姿端麗な女性であることだった。
「すぐに男ができそうな感じだな」
 テュラスは言うとイセリアは頷いた。
「そういうこと、子供ができるのも時間の問題って感じじゃん?  でも、そうなると重たい身体や子供を抱えながら戦うなんてことにもなってしまう、 戦いに特化した能力を持っているがあまり、頼られやすいのはそうなんだけど、 子供抱えて戦えなんてムリゲーに近いでしょ?」
 それはまあ――わからんでもないような気がする――テュラスは言った。
「相手の男よりも戦いに特化した能力を持っているってことか―― なんか、それはそれでいいんだか悪いんだかって感じだな」
「そう――だから彼女らは子供を産む能力がオミットされているのよ、そういう進化を遂げてきたの。 だけど――完全に出産能力を切り捨てると子孫を残せなくて困るから低確率ってのが落としどころみたいね。」
「でも――子供がなかなか出来ねえと相手の男が気にしないか?」
 すると――イセリアは得意げに答えた。
「ええ、でもそうならないようにするために彼女らに備わっている能力があるわけよ。 そう――低確率だったら回数だけをこなせばいいだけのこと、 そのためにはより確実に男を自分たちに惹きつけておく必要がある――」
 まさか! テュラスはビビっていた。
「かっ……回数って……! それで誘惑魔法を持っているってのか――!?」
「ええ、その通りよ。もちろん、それだけじゃないわ。 私みたいな恋愛には興味なし女だった子が、ある日突然に男が欲しくなりました―― ずっと戦いに没頭していたけどもうその必要もなく、幸せな家庭を築き上げたくなっちゃった―― そんな場合にも一役買っているのよ。」
 えぇ……テュラスは悩んでいた。
「しかも――」
 まだあるのか! テュラスはさらに悩んでいた。
「プリズム女の身体の年の取り方はとても緩く、長い間ずっと20代ぐらいの姿を保つみたいよ。」
 なっ、なんだってー!? テュラスの頭は吹っ飛んだ。
「もちろん、戦闘民族ゆえに若い身体を維持していたほうが有利っていうのが一つの理由だけど、 もう一つの理由が、年をとっても異性を引き付ける能力を継続させるためってのがあるわ、 誘惑魔法を備えているのと同じ理由ね。」
 さらにイセリアはショッキングなことを続けた――。
「だからちなみに言っておくと、私の見た感じ、昨日話を一生懸命にしてくれていた子、 あれは多分ここの”長”だと思うけど、あんな24歳のおねーちゃんにみえて実際の年齢は人間だったら70を超えているハズね。」
 テュラスの頭は吹き飛んだ。
「周りの女性たちも20代のおねーちゃんにしか見えなかったけど、本当は40・50を超えているハズよね――」
 テュラスの頭はなおも吹き飛んだ。
「なっ、なるほど――俺はイセリアと一緒にいて正解だったってわけだな、 本当に、俺、とんでもないところに来ちまったようだな――」
 テュラスは……もはや恐怖するしかなかった。
「そうよ♪ だからイセリアお姉さんから離れたりしたらダメだからね♪」
 テュラスはその言葉を心に刻むしかなかった。 この話を聞いている男性陣も動揺していることは言うまでもない。

 言われてみれば、なんかそんな感じがしてきたテュラス、 先日は妙に古い話を持ち出してくる彼女たち――テュラスもこれまで話でしか聞いたことがなかったようなことを、 当時のことを知るかのように話している彼女たち――その違和感はそう言うことだったのか、テュラスは悩んでいた。
 とにかくいろいろと怖い目にあったが、その日のうちに里から脱し、森を脱して街道へと戻ってきた2人。 冬の備えとして防寒服で身を固めていたが、イセリアはそれを妙にオシャレに着こなしていた、 品は女性の里ならではと言ったところである。さらに彼女は剣まで譲り受けており、既に帯刀していた。 だが――—
「ちょっとガタが来ているようね、あんまり無理させないようにしないと――」
 刀身はさびていた、しかし、錆にしてはとにかく黒ずんだ異様な色をしており、 いずれにしても、せいぜい護身用にしかならなそうだ。

 だが、その護身用はイセリアに使わせるととんでもないことになってしまっていた――。
「はいやー! おらぁ!」
 剣を鞘から抜かず、そのまま次々と殴り倒していった――。
「無理をさせないようにってどの口が言ってるんだ?」
 テュラスは呆れていた。