アーカネリアス・ストーリー

第6章 伝説との邂逅

第173節 伝説のメシアの隠し技

 イセリアたちはピンチに陥っていた。
「くそっ! いくら何でも多すぎるだろ!」
 テュラスは大勢の魔物を前にして悪戦苦闘していた。 対するイセリアもまた――
「えいっ! やぁっ! たぁ!」
 敵を次々と斃しているが、
「ちぇっ、なかなかしぶといわねぇもう――」
 やはり苦戦していた。
「ったく、どうなってんのよこれ!」
 さらに次々と攻撃を繰り出したイセリアだったが――
「なっ!?」
 剣の刃がはじけ飛んだ!
「くっ、何よもう!」
 だが、イセリアはそれでも魔物を手で押さえて相手していた――
「イセリア!? くっ、武器がとうとうイったのか……」
 テュラスはイセリアを助けようと魔物をかき分けていこうとしたその時――
「ったくもう! いい加減にしなさいよ!」
 ここでイセリアのハイキック!
「何っ!?」
 さらに立て続けにもう1体に向かってハイキックを決めると、その魔物さえも圧倒し、見事に飛んでいった!
「くっそ――辛いわね……」
 イセリアは息を切らしていた――
「あんたに限ってとんでもない能力を持っていることにはいつも驚かされるが―― あんたは力が残っているうちに引き返せ!」
 と、テュラス、イセリアは耳を疑った――
「どっ、どうしてよ!」
「あんたの格闘術が強いのはわかったがこの状況――どう考えても俺らのほうが圧倒的に不利だ!  あんたは武器を失ったが、それでもまだ力が残っている!  俺はあんたほど力は残ってないし、ここで魔物の相手をするので手一杯だ!  だからあんたは俺が食い止めているうちに! 早く行け!」
 そう言われても……イセリアは困惑しているが、テュラスは――
「いいから行け!」
 そう言って聞かない――。しかしこの状況、確かに――彼の言う通りかもしれない…… イセリアは悔しそうにその場を去ることにした――。
「そうだ、それでいいんだイセリア、俺は――」
 だが、イセリアはテュラスの隣まで戻ってきた!
「なんだ!? イセリア! 早く行けって言ってんだろ!」
 だが、しかし――
「ええ、そうしたかったんだけどね、どうやらそれは叶わないみたいね――」
 と、イセリアは背後に向かって構えていた――
「なっ――まさか――」
 そのまさかである、彼らは残念ながら魔物に取り囲まれてしまったようだ――

 なんだかんだでピンチを脱した2人だった、その理由は――
「だからお前、何なんだよ――どこにそんな力を隠し持ってんだよ――」
 という、イセリアの隠し玉による恩恵だった、 これまでテュラスたちが見たことのない魔力を振るって敵を撃滅していたイセリアだった。 だが――
「って、おい! 大丈夫か、イセリア!」
 テュラスは慌てていた、イセリアは街道の真ん中に倒れていた――
「起きろっ! クソッ――こんな冷てえ地面の上で倒れんじゃねえ!」
 どうしようか悩んでいたテュラス、こうなったらアレしかない――
「ったく、世話の焼ける女だな――」
 テュラスはイセリアをしっかりと抱えていた――お姫様抱っこだ!
「この前もこんなことがあったか。俺でよければ構わないが――」
 既に経験済みな模様。イケメンに揺られて贅沢な女だなイセリア……。 だが……テュラスの目に見える光景は、どこまで続くかわからない街道が伸びている光景だった――。
「くっそー、仕方がねえか……」
 テュラスは悩んでいた。

 だが、そんなテュラスにも疲れの色が――
「やばいな、そろそろ限界か――」
 だんだん雪深くなっていく街道、雪に足を取られ、前に進むのもつらくなってきた――。
「俺は――どうなってもいい、イセリアだけでも助けてやらねえと――」
 テュラスはなんとかイセリアだけは雪につかせまいとしていたが、彼の腕も限界が――
「くっ――もうダメか――」
 テュラスは森の中へと入りしゃがみ込むと、自分の膝の上にイセリアを置いた。
「風よけぐらいにしかならないが――可能な限り、地面にはつかせないようにした、とにかく、助かってくれ――」
 テュラスは木にもたれかかっていた。意識が朦朧とし、いつの間にか気を失っていた――

 そして、イセリアが気が付くとそこは家の中、自分はベッドの中にいたようだ。
「あれ、ここは――?」
 目の前にはテュラスがいた。
「よう、元気か? なんだかわからねえんだが、俺らはどうやら助かったみたいだ」
 助かった――イセリアはそう訊いて安心していた。
「そう――でもこのシチュエーション的には助けられたって感じ?」
 テュラスは否定しなかった。
「まあ、そういうことだな。 ただ――俺は外には出ないほうがいいって言われちまってな、ここがどういう場所なのかさっぱりわからねえんだ」
 そうなのか――イセリアはそう思うと、その理由がすぐにわかった、 それはその場に誰かが入ってきたことで瞬時に察したのである。
「あら!? 気が付かれたのですね!」