アーカネリアス・ストーリー

第6章 伝説との邂逅

第171節 世界を均す者たち

 なんとか船に乗り出したイセリアたち。
「ったく、変なトラップ踏んでる暇じゃないのよ、ったく……。 ま、おかげで戦利品の3,000ローダも獲得できたわけだけど――」
 彼女はそう言いつつ、甲板の上を見渡していた。
「降りる前までに情報収集しないとね――」
 ということで、あちこち話を聞いているイセリア。すると――
「あっ、あいつだ!」
 どうやら目的のやつを見つけたようだ。
「よっ!」
 イセリアはそいつに話しかけた、どうやら人間族のようだ。
「なんだ? 冒険者か?」
「あんただって冒険者でしょうよ、イケメンさん♪」
 彼女は何とも恵まれているようだ。
「ま、そうなんだけどな――自分ではイケメンなんて思ったことはないんだが……。 ところで物は相談なんだが、俺はこれから”トリア”の都ってところにまで行くつもりだが、一緒に来ないか?  そこでは魔物対峙を募っているらしいが、出港前に訊いた話だと1人では門前払いを喰らうってことらしい。 だから次の”アルゴーティア”で仲間を募ることを考えていたんだが、あんたたちなら信用できそうだ、どうだ?」
 イセリアは即決した。
「あなたのような素敵なイケメン様の言うことにNOという選択肢はないわね! そう言うわけで、これからもよろしくね!」
 イセリアは気さくに言うと、男は腕を出して答えた。
「ああ、よろしくな、美人のお姉さん。 俺の名前は”テュラス=フェルナスト”っていう、よろしくな」
 イセリアとテュラス……2人は握手を交わしていた。
 ヴァナスティアの教え第1章第6節、世界で生を等しく共にする者同士、常に手を取り合うべき――

 この4人がイセリアの冒険の仲間である。 ヴァナスティアの教えの上においてはイセリアも含めて名前までは記録がないものの、 この4人の英雄”世界を均す者たち”が登場しており、 彼女らの行動こそが教えにおける規範となっているがこのヴァナスティアの教え第1章の内容となっているのである。 第1章についてはまだこの先も続き、 テュラスが仲間になるのは”トリア”における魔物対峙のミッションの達成時にイセリアが”一緒に行きましょ”と言ったことで正式に決定することである。
 この先の話で肝心なのは、イセリアたちがある程度魔物と戦い、ある程度名声を得てからとなる。 冒険の拠点として彼女らは”トリア”に滞在していた。 ”トリア”はまさに今のアーカネルのある場所、アーカネルの場所は何気に由緒正しい地なのである。 それはともかく、何かのっぴきならないような自体の話を聞きつけたイセリアは話を改めて訊くと、 そいつは答えた……破壊の悪魔たるそいつ、”ウロボロス”が現れたのだと。
 だが、そいつはその後も続々と現れることとなる。 そして、なんとかそれを抑えた勇士たち、そしてイセリアたち――
「なーんか、不用意にどんどん出てくるわね――レイドボスみたいなやつなのかしら?」
 そして、当時の黒幕の正体に言及する者も……
「これも”邪悪なる者”ってやつの仕業か?」
 冒険者たちは口々に話をしていた。それは、ローアの時代が闇に包まれている要因の一つとして有名なものだった。
「”邪悪なる者”――」
 イセリアは考えていた。
 そして、最後はその”邪悪なる者”を倒すのである、ここまでが”邪悪なる者”を倒すまでのお話である。 そう――”邪悪なる者”を斃しのたのはイセリア――つまり、彼女は”メシア”と言われたのである。
 ヴァナスティアの教え第3章、”メシア”、完――

 しかし、このお話は”邪悪なる者”だけを倒して終わりではなかった、さらなる邪悪なる者たちがいたのである。 故に暗黒時代――”セント”・ローアの名を戴くまでにはまだ先の長い話。 世界を混迷を極めていく中、あの英雄が再び立ち上がったのである――
 ヴァナスティアの教え第4章、世界を均す者の新たなる旅路――

 イセリアたちは西へ東へと奔走しつつ、強大な力を持つ魔物を倒していた。 だが、それには限界もあり――
「ライブレード! ヴァディエス! 大丈夫!?」
 2人は疲弊しきっていた。
「すみません、イセリアさん……」
「ごめんなさい――私、足手まといにしかなっていないですね――」
 イセリアは首を振った。
「そんなことないわよ! 2人ともがんばってるじゃないの! 私が助けられてばかりだし!」
 それに対してテュラスが言う。
「いや、あんた1人でずいぶんと戦い通しているけどな、正直、俺らはギリギリだ。 言っても、あんたについていかないなんて選択肢はないんだけどな、気持ちは一緒だからな――」
 そう言われてイセリアはなんだか浮かない顔をしていた。

 4人はしっかりと休むことにしたが――
「いいのか? このまま休み続けて――邪悪はどんどんと湧き出てくるんだ、休んでる暇なんてないだろう?  言っても、俺としてはとてもありがたい休みだけどな」
 イセリアは頷いた。
「いいのよ別に――私がやんなくたって、他の誰かがいるもの。」
 ライブレードはそう言われて見回すが――
「うーん、それなんですけど、あんまりそうは思えないんですよね。 なんていうか、これまで見てきた戦士たちはだいたいやられてます。 言いたくはないんですが、多くの犠牲の上に我々がいる――そう見えますね……。 そしてそれと同時に、邪悪に対して他の冒険者たちも急速に士気が下がり、 そもそも邪悪に立ち向かおうという者が減っているようにも感じます。 ですから、このまま――」
 テュラスが反論した。
「おいおいおい、いくらなんでもそいつは言いすぎだぜ。 そんなことになったら誰が邪悪を斃すというんだ?」
 しかしそれに対し、イセリアは――
「いえ、ライブレードの言うとおりね……私もそれを薄々感じていたからね。 まさかと思ったけど、やっぱりそうなのね……。」
 マジかよ……テュラスは頭を抱えていた。
「あーあ、奇跡でも起こんないとダメかしら?」
 と、イセリア――奇跡? だが、テュラスが言った。
「なんだそれは? そんなものがあるわけないだろ、そうでなければいまだにこんなことにはなってないぞ」
 しかし、イセリアは――
「いいえ、奇跡は起こるものなのよ、そもそもなかなか起こらないから奇跡なのよ。 だから奇跡はまだ起きていないだけ、期待しないでそっと神頼みする程度で待つことにしましょう。」
 神頼み? ヴァディエスは訊いた。
「でも、創造神様は既に亡くなられたと――」
「亡くなったって神は不滅よ……生きているって意味じゃあないけど。 誰かが願っていれば神は存在し続ける者なのよ。 でも、それさえもなくなれば神も死ぬ。 だからそう――神の引き起こす奇跡ってやつ、それを信じ続ければそのうちいいことが起こるわよ、きっとね。」