精霊の事情の話は一旦置き、まだ時間がかかりそうというアトローナ組、
ヴァルハムスがドミナントにいたときに訊いたヴァナスティアの教えの話の発端となる、
セント・ローアの刻の話を聞くことにした。
アーカネル残留組、シャオリンはその当時のことを話した――
「今からおよそ80億年前のことです――」
なお、念のために言っておくが、
ヴァナスティアの教えには話中に出てくる具体的な人名などは出てこない。
そのため、これから話す内容はあくまで聖獣の伝承とプリズム・ロードの伝説上で語られている内容で補完したものである。
ローアの時代……当時、世界創世期は暗黒時代、多くの邪悪なる者がウヨウヨとしている危険な時代だった。
それゆえに町もそれほど大きくなく、人々は常に危険な状況にさらされていた。
だが、そんな邪悪なる者たちに立ち向かう者がこの時代にもいたのである、精霊族――いや、むしろ冒険者と呼ばれる者たちである。
ドミナントの町――
「おい! あの町で冒険者を募ってるらしいぜ!」
「魔物を倒すためにだろ? そんなのどこも似たり寄ったり、どんなもんだかなぁ……」
「策があるんだろ? とりあえず、行ってみようぜ!」
人間たちはとりあえず、ドミナントの町へと集まっていた。
だが、人間たちはそのドミナントの町の冒険者の酒場というところに行ってみるととても驚くことになった。
「おっ、おい! あれ、まさか――」
「せっ、精霊だ! 精霊じゃねえか!」
「なんで精霊までいるんだ!? しかもあれ――」
「何っ!? 魔族だと!? やつら、魔物の眷属じゃあなかったのか!?」
そこへ、ドミナントを取り締まっている領主みたいな者が台の上に登壇すると、
何か話を始めた。それはそれは何とも退屈そうな話である。
だが、そんな中でも印象的な言葉があった、それは――
「我々は、この世界を救おうという者であればたとえどのようなものであれ深く歓迎する!
人間族はもちろん、精霊族、そして魔族であろうと、
この世界に等しく生きる者たちのために立ち上がるのなら、如何なるものでも歓迎する!」
この町の成り立ちにして、この世界の基本的な成り立ちというのはこれによって成立したのである。
故に、この世界の成り立ちは冒険者により成り立っているということである。
ドミナントはまさに冒険者のための始まりの地、太陽の祭壇にて旅の無事を守るという風習はここからきているのである。
そして、冒険をする者、つまり、この世界の共通貨幣単位である”ローダ”は”旅をする者”の意であり、
まさに冒険者によって成立している世界だからこそと言えよう。
ヴァナスティアの教え第1章第1節、世界に等しく生を成す者はすべて等しくあれ――
冒険者の酒場――多くの冒険者が集まり、それぞれ仲間を募っていた。
仲間がいないことには旅も心細かろう――特に邪悪ひしめくこの時代ではなおのことである。
「にしても、いろんなやつがいるけどな、誰がどんなのだか全然わかんないんだよな――」
「情報が欲しいもんだな。ま、話をしてみねえとわからねえか――」
「なあなあなあ! だったらさ、さっきの精霊族とかどうよ?
あいつら、魔法を使うんだろ? そういうのに頼ってみるって言うのもいいんじゃないか?」
「うーん、それは確かにその通りなんだが、連中はなんとも気難しい連中らしいからな、俺たちみたいなのと徒党を組んでくれるかどうか――」
悩む冒険者たち。そんな彼らとは別に――
「ここが冒険者の酒場ってところね。
最初に手続きでもすればいいのかしら?」
その女性はそう言いつつ、カウンターのほうに赴いた。
「ようこそいらっしゃいました。
冒険者様は人間族の方でしょうか?」
えっ……女性は面を喰らっていたが――
「あっ、ああ、なるほど! ここから始まるのね!」
なっ、なんだ? だが、カウンターの受付はただただにっこりと佇んでいるだけだった。
「それなら……これがいいかしら、私は精霊族よ。そうは見えないかしら?」
受付は首を振った。
「いえいえ! 滅相もございません! そう言われると確かにその通りですね!
それでは、お名前をお聞かせ願えますか?」
そう言われて女性は悩んでいた。
「名前? あっ、そか、名前ね。
名前は……えぇっと、そうねぇ……じゃあ今回は”イセリア=シェール”ってことにするわね。」
そもそも全体的に発言がおかしい。偽名か何かか。すると受付は――
「畏まりました、”イセリア=シェール”様ですね。
それでは、これからあなたに紹介できる方をお見せしますので、どうぞごゆっくり選んでください――」
そう言われ、イセリアは出された名簿を眺めていた。
「へえ、いっぱい用意してあるのね。なら、どうしようかしら? オススメはある?」
「うーん、それはなんとも……。
ただ、ご用命の人物であれば検索条件を付けることで絞ることも可能です。
もちろん、ご用命の人物を事細かく特定する方法もございますが――」
なるほど、イセリアは考えた。
「あっ、そうね、それなら条件は……ありきたりじゃあ面白くないしね。
じゃあこういうのはどう? せっかくならイケメンと一緒に旅をしてみたいわね♪」
それには流石の受付も面を喰らうしかなかった。
ヴァナスティアの教え第1章第2節、世界で生を等しく共にする者同士、常に楽しくあれ――