アーカネリアス・ストーリー

第6章 伝説との邂逅

第166節 精霊たちの動き

 聖獣ヴァリエスこと、ヴェラニス=フォーティア―― 中身はプリズム族だが、聖獣としての姿はまさに銀龍様という感じである、 いわゆる蛇型のドラゴンであり、あのウロボロスとは対を成すような存在とも言えそうな感じである。 そんな銀龍様は山道の途中からの分岐の奥にある森の中に隠れ住んでいるようにたたずんでいた。 一応、階段を登り降りしなくていい位置である。 彼女は穏やかな目でアレスたちを迎え入れてくれた。
「ようこそ、ヴァナスティアへとお越しくださいました、ごゆっくりとどうぞ――」
 と言いつつ、シュシュラを見てさらに続けた。
「なるほど、この間の人達のお仲間様ということですね。 この方々と共に改めてヴァナスティアの教えをお話すればいいのですね?」
 シュシュラは頷いた。
「はい! お願いします、ヴァリエス様!」
 すると、ディライドがしっかりと釘をさしていた。
「聖獣様の話を前に寝ていました――ってネシェラに報告されたくないだろ?」
 そう言われてスティアはとても焦っていた。
「はっ! はい! 俺、絶対に寝ません!」
「いい返事だ、忘れんじゃねえぞ、覚えてるからな」
 スティアは冷や汗をかき、ビビっていた。

 一方でそのネシェラたちと言えば、ヴァルハムスの家へとやってきた。 彼もまたディラウス並みになんとも大きなウサギである。
「ネシェラか――また来たのだな」
 ネシェラは手を挙げて調子よく答えた。
「やっ! また邪魔するぜっ!」
 それに対してヴァルハムスは頷き、話をしてきた。
「そうだ、そういえば例のものをようやく採掘したと言っていたぞ。 今、ネシェラが来たことを知らせるからここで待っているといいだろう」
 えっ、目的のブツは採掘するものなのか!?
「ええ、新しい素材で武具を作って最終決戦に臨もうって魂胆よ。 ここに来た理由はそのための話を改めてつけるために来たってことなのよ。」
 そうなのか、ネシェラの説明に納得するメンバー。
「しかし、あれはまだ先日採掘したばかりだと言っていたか、少し時間がかかりそうだが――」
 ネシェラは頷いた。
「だったらいいわよ、せっかくこっちに来たんだしさ、少しだけ待たせてもらうことにするわね。」
 そこへライアがヴァルハムスに訊いた。
「そういえば、以前にドミナントにいたわよね?」
「ん? ああ、サーディアスと話がしたかったからな。 セディルの話を聞いたろう? あの者が探しているもの――ヴァリエスが同じものを探しているのだ。 第4級精霊たちに下った任――いよいよ決着をつけねばなるまいな――」
 そんなに深刻なのか、ロイドが訊いた。
「俺たちも第4級だが、俺らが生まれる前に親父が既にはみ出ていたからな。 だから俺らはまったくわからないんだが――”メシア”を探せってことでいいのか?」
 ヴァルハムスは首を振った。
「いや――それは目的を達するうえでの一つの通過点にすぎん。 やるべきはただ一つ――この世に潜む”邪悪なる者”を倒せということらしい」
 ”邪悪なる者”だって!? リアントスは訊いた。
「おいおいおい、なんか偉い話になってきたな!  精霊界のお達しとやらでそんなことになって――つまり、今の世はヤバイことになっているってことじゃないのか!?」
 だが、そう考えると――ライアが言った。
「むしろ、なっている気がするわね、ウロボロスまで現れているからね。 魔物もとんでもなく強くなっている感じだし、まさにその”邪悪なる者”が生み出される予兆って感じかしら?」
 ヴァルハムスは悩んでいた。
「あるいは――既に生み出されているかだな……」
 ネシェラは考えた。
「なるほど――それで”メシア”が必要ってわけなのね、 ヴァナスティアの教えにも語られている、ローア期の”邪悪なる者”を倒したのが”メシア”だから。 でも、誰が”メシア”なのかわかるものなの?  私か訊いた限りだと、そんなのは他人は愚か、”メシア”本人ですら自覚していないってことでしょ?  そんなんで探せるのかしら?」
 ヴァルハムスは首を振った。
「ああ、つまりはそう言うことだ。つまり、それ自身が不可能なミッションということだ。 だから精霊界の目的も基本的には”邪悪なる者”を倒せということでしかない」
 それに対してリアントスが訊いた。
「でも、倒すのはいいが、そう言うのって精霊界とやらがやらないもんなのか?」
 精霊界は高位の精霊、つまり、第3級精霊以上が住まう空間である。ロイドが答えた。
「やっている結果がこれだ、そう思えばいいだろう。 言ったろ、エターニスの精霊ってのは自分から何をしようと思うことがないんだ。 例外は俺らのような精霊と、あとは”フローナル”って言う高位の精霊だけだな」
 フローナル? ライアは訊いた。
「”フラノエル”って言うのは知ってるか? ヴァナスティアの教えにもある精霊なんだが、 フローナルはどうやらフラノエルの直系の子孫にあたる存在らしい。 それこそフラノエルは”運命の標”というものを用いて大いなる力で仇成すものを倒してきたっていう、 精霊界でも英雄に当たる存在なんだそうだ」
 ロイドはそう言うとライアは頷いた。
「ヴァナスティアの教えの後半あたりから出てくる精霊様ね。 でも――それほどの方だったら精霊界で動こうって考えないのかしら?」
 ネシェラが答えた。
「フローナルが動かないんじゃなくて精霊界が動かないのよ。 そもそも精霊界は人の世がどうなろうと知ったこっちゃないってスタンスだから連中の行動としてはこれが正解なのよ。 ただ、フローナルは違ってて、そんな精霊界の現状に納得がいかないからって1人で人間界に飛び出して謎を追うような人なのよ。 言ってしまえば精霊界の異端児ってところかしら? とにかく、行動派の精霊様なのよね。」
 そっ、それはすごい――何人かは絶句していた。
「なるほどな、そういう精霊がいるから、あんたらみたいなのがエターニスから飛び出したりもするってわけか。 でも、そんな高位の精霊が人間界に飛び出したりなんかして、目立たないものなのか?  何となくだが、いるようには思えないんだが――」
 リアントスはそう訊いた。