アーカネリアス・ストーリー

第6章 伝説との邂逅

第164節 悪夢の航路

 一方でアトローナ組、こちらは島に着けば目的の町は目の前であるため、 ヴァナスティア組に比べればとっても楽な行程である。
 そのため、アルトレイの港からアトローナ行きに乗り、 北東にあるアトローナ島へと赴くだけでよいということだけでしかない。
 ……と言いたいところだが、そうは問屋が卸さない。 それもそのハズ、アーカネリアスにおいてアトローナの島といえば”最も渡航困難な島”として有名だからである。 それがどれほどのものかというと――
「なっ!? ゆっ、有料なのか!?」
 リアントスは驚いていた、通常は船の定期便についてはアーカネルやハンターズ・ギルドによる支援により賄われているのため無料で利用できるのだが、 アトローナ便については唯一の例外となっている、それもそのハズ――
「”最も渡航困難な島”だからよ。 その都合、定期便運用会社から提示されているアトローナ便についての支援額については別口となっていてね、 しかも1便3,000ローダするような高額商品だから行くかどうかはよく考えたほうがいいわね。」
 高っ! ちなみに支援なしだった場合のアルトレイからの想定料金は、エルナシア行きが50ローダ、 ヴァナスティア行きは距離に反して特別安く、100ローダである。 それなのに、ネシェラが作った例の1個2,000ローダのカンテラが買える値段…… 文明の利器故にそちらも少々値段が高めの設定のそれすらをも上回る値段―― 船賃にしては相当高いことがわかる。
「まっ、まあ……よくよく考えればそりゃそうだよな……仕方がねえか――」
 リアントスはため息をついて諦めるように言った。
「どうしてそんなに高いの?」
 ライアはそう訊くとネシェラは何か紙を手渡した。
「これを読めばわかるわよ、アトローナ便を買う前に必ず手渡される誓約書ね。 これにサインをしないとアトローナ行きを買うことはできないわよ。」
 誓約書……ネシェラじゃないのに嫌な予感しかしないことは言うまでもないだろう。

 誓約書にはこう書いてあった……。
「アトローナへの渡航については保証されません……え?  出港後より、その時のコンディションによっては引き返してくる場合があります……?  その際は渡航キャンセルとなり、半額の1,500ローダまでしか返金は行いません……?  なお、往復料金ではありませんので予めご了承ください……?  また、乗船に当たり、乗組員の指示には必ず指示に従ってください……?  どっ、どういうこと!?」
 ライアのように困惑するものが多発中、それはそうだ。
「アトローナ島は”最も渡航困難な島”だがこうも呼ばれている、”天然の要塞島”ってな。 そこに渡ろうって言うのだからそれだけの心構えが必要ってことだな」
 それを聞いてディアは悩んでいた。
「そう……だから俺、アトローナに帰るのは嫌なんだ……できればずっとこっちにいたいんだよな――」
 ということで、アトローナ島は天然の要塞島、この正体はこうである。
「まさにそれはアトローナへの渡航については保証されないから。 その理由は簡単、アトローナへと渡るには海路を利用したうえで通称”ナイトメア・バリアリーフ(悪夢の岩礁地帯)”を抜けなければならないからよ。」
 と、ネシェラ……ナイトメア(悪夢)とかもはや嫌な予感しかしない。
「はぁ!? 岩礁地帯を渡るのか!?」
 リアントスは驚いていた。
「そもそもアトローナ島自体が岩礁に囲まれた島だから仕方がないわよね。 しかもあの辺りは岩によって気流も乱れやすいし、たくさんの岩礁のせいで海流も結構入り組んだ感じになっているし。 だから海の機嫌がちょっとでも悪いと渡航を断念するしかないのよ。 それこそ、ここからナイトメア・バリアリーフに着くまで5日かかるけど、着くまでの間に海や風の機嫌が斜めになる可能性だってある。 もちろん、そうなったらそうなったで渡航キャンセルだから、そのあたりもちゃんと覚悟して渡ることを考えなさいよ?」
 ネシェラは言い聞かせるようにそう言った。 そう、ヴァナスティアはフィジカルが削られる行程であるのに対し、アトローナはメンタルが削られる行程なのである……。
「ちなみにそれだけの場所を渡るということから船のメンテ代がバカにならないのよ、ある程度岩礁にこすることが想定されているみたいね。 もちろん燃料代もあるから渡れなくてもその分は払わないとだし、渡航にかかる技術料もあるから料金設定もこの価格になるわけよ。 ちなみにアーカネルの経費じゃあアトローナ渡航費は落とせないから自腹でお願いね。」
 メンタルだけでなくお小遣いまでもが削られていく……。

 ということで、フィジカルを削ってたどり着いた一行は、 もはや削ったフィジカルがすべて帳消しになるほどの素晴らしい光景だった。
「こっ、これが聖地ヴァナスティアなのか――」
 もはや地面も建物の壁もすべて白一色というその光景…… ”ヴァナスティア・ホワイト”とも呼ばれるその白の色には誰もが圧倒されること請け合いである。 白と言っても200色もあるのかはともかく、 例えばよくあるのが白い家が経年劣化によって少々黄色っぽい色合いの白に見えてくるのだが、 それがエルナシアやフォーンである、緑の上に立っているため黄色っぽい白の色がとても映えるのだ。
 だが、ヴァナスティア・ホワイトについてはそれらとは対照的に高地にあることからむしろ空の色である青っぽい白であるのが特徴で、 なんだか少々寒々しい感じではあるのだが、それでもその美しい景観に対し、疲れ切った旅人の癒しになることは請け合いである。

 一方で、2回メンタルと3回のお小遣いを削っただけで運よくたどり着いた一行のほうは三度目の正直で辿り着いたという達成感に包まれ、 その夜は宿屋で穏やかな一日を暮らすのであった……。
「問題は帰りもあるってことだな……」
 リアントスは悩むが、ロイドはそうでもなかった。
「帰りはしょっぱなから悪夢だからな、行けないと思ったらその時点で出港停止だ。だから懐もメンタルも気にしなくたっていい」
 それもそうだ。つまり、アトローナ行きについては帰りの心配だけはしたとしても、メンタルと懐を削るのは行きだけだということである。 故にアトローナ民は帰りを心配しなければならないため船出が嫌いな人が多い。