アーカネリアス・ストーリー

第6章 伝説との邂逅

第163節 海は穏やか時代は大荒れ

「ええ、プリズム族は癒しの精霊様、そんなあっさりと命を投げ捨てるような選択はしないハズだからね。」
「でも、その場合はまず最初に他人の命でなくて自らの命を選択するという気高い行いをするのが”プリズム・ロード”の様式美というものでしょ?」
「伝説の悪魔ウロボロス……あんたのような命を無慈悲に殺戮するだけが取り柄の悪い子に相応しい末路というものを教えてあげるわ――」
「貴様のような命を粗末に扱うような地べたを這いずり回ることだけしか能のない虫けらが―― 殺してくれと泣いて頼んでも絶対に許さないからな――」
 命のやり取りについてはとにかく気高い行いをするプリズム・ロード……つまりプリズム族、 命をもてあそび、さらには無慈悲な行いをするものに対しては一切容赦のないネシェラ……もはや因果応報と言わんばかりの所業である。
「あんなことをする私だって同罪よ、罪深き者よ。 もちろん、あんなことしたからには私もその咎を追うだけ――一生背負っていくわよ。 だからそれで罰を受けるってことなら本望よ。 でも――現状のこのアーカネルの世を乱すようなやつだけは絶対に許せない、 誰も手を下さないんだったら私がやってやる――それで世の中平和になるんだったら私は喜んで犠牲になるわよ。」
 なるほど――やはり彼女はプリズム族に通づるものがありそうだ。
「ネシェラ……お前だけが犠牲になる必要はない。 それを言ったら私も同罪だ、真実を突き止めるために多くの敵の命を奪ってきた―― 共に戦い、共に罰を受けよう――」
 シルルもそれに続いた。
「ったく、俺の言ったこと忘れてねえか?  そういうことは数人で分け合うって約束だろ? 1人だけで責任を取ろうとしてんじゃねえよ」
「そうよ、ネシェラ。私だってついているんだから!」
「そうだよ! 俺だって一緒だ! 流星の騎士団のリーダーだからね!」
「ネシェラ姉様! 私も一緒だからね!」
 ロイド、ライア、アレスとシュタルも続く。
「ネシェラ、そう言う考えはいけませんよ。 こういうのは年功序列、まずは私がその責任を取らなければなりませんね。」
「シルル、あなたもよ。 私たちは4人で1つだった――今でもその思いは変わらないからね!」
「シルルー! 1人で何もかも背負う必要なないんだからねー!」
 そしてアムレイナ、シャオリン、ナナルが続く……。 さらにそこへほかにも多くの仲間が集まり、このアーカネリアスに起きている事件についての最後の戦いが始まるのであった――。

 アーカネル城下に起きていた問題はとりあえず収まると、騎士団はとにかく疲弊していた。 多くの魔物があちこちから町へと流入し、町はなんとも荒んだような状態――そんな状況下に多くの民は……
「絶望するのかと思えば歓迎ムードだな――」
 ロイドはお城から城下を眺めていた。
「ただ――これまで信じていたクレメンティルの教えが揺らいでしまったな。 そのせいで町のクレメンティル教会は本格的に閉鎖が決定したらしい」
 リアントスも城下を眺めていた。
「しかし――サイスとクソライトが言っていた通りになったな―― なんか、これでいいのか?」
 リアントスはさらにロイドにそう訊くとロイドは頷いた。
「根クリストは根クリストだって――俺が知っているのはその程度のことだ。 ただ――サイスもクソライトも以前から言っていたからな、根クリストは頭の良さとは裏腹に幼稚なところがあるって―― 直接そうだとは言わなかったが、2人の話を聞いている限りだと俺はそんな印象を受けたな――」
 なるほど、リアントスは納得した。
「頭がいいからネシェラも警戒していたんだろ? 頭脳戦によるそれっていうな。 だから真っ向勝負を仕掛けてもダメだと悟った。 だから幼稚なところを利用して挑発してみたらどうかって――物は試しだったのにまんまとかかるとはな――」
 ロイドは頷いた。
「押してダメなら引いてみなってやつだな。 手数も考えればネシェラのほうが数枚上手だ、サイスやクソライト、根クリストは言うに及ばずだが、 アトローナの職人の大半と、自分の恩師であるはずのエザント教授でさえ軽く出し抜いているからな」
 リアントスはそう聞いて悩んでいた。
「ああ……チェス名人でも有名なエザント教授相手にネシェラ7歳が破っているって話だろ?  そんなのが敵に回ったら勝てるわけないだろ――」
 ロイドは頷いた。
「味方でよかったとつくづく思うよな。 だいたい、この歓迎ムードだってネシェラの予定のうちに入っている、 新たなる文明の力というアメと現状のムチという図式の上でな」
「そのアメが如何に強烈なのかを思い知らされるな」

 海は穏やか――何人かはアーカネルの守りのために残し、 それ以外はこの機に乗じてヴァナスティアやアトローナへとやってきていた。 シルルとレイランドからある程度話を聞いたが、その内容については後ほど―― 今はとにかく海が穏やかというのが重要だからである。
 まずはヴァナスティア――アルトレイの港から北西の島はフォーンへと渡る必要がある。 行程にしてゆうに1週間はくだらない船旅……つまり、往復で2週間ということになるわけだが、 それでも”聖地ヴァナスティア”への巡礼のためと思えば何が何でもいかなければならないと考える信者は後を絶たない。 特に今後、クレメンティルとの兼ね合いもあってか、なおのことそちらに殺到する者も多くなることだろう……。
「人が多いな……」
 アレスはフォーンの港の光景に絶句していた、アーカネルの比ではないその光景にとにかく圧倒されていた。 あまりの人の多さに町を散策している暇はなかった。
「これは……寄り道とかはやめた方がいいな」
 ディライドはそう言って宿屋に入るように促していた。

 翌朝、アレスたちはフォーンを出発していた。 振り返るとフォーンの町は、確かに例のエルナシアよろしく白の街並みだった。 だが、その白さはやはりエルナシアと同じく、白と緑でできている光景だった。
 だが、フォーンと言えばその大地の色合いがとても素晴らしく、 まさに新緑と言えるようなその大地の上を歩いているかと思うと、なんだか特別な感覚を覚えた――これが聖地――
「でも、どんなところにも魔物はつきものだ――」
 ディライドとシュシュラは大剣を引き抜くと、スティアも目をこすりながら馬車から飛び出してきた。
「魔物だって言われてすぐに起きてくるなんて、どういう身体してんの?」
 スティアに対してシュシュラは呆れていた。

 しかし、ヴァナスティアといえば、問題は山道である―― その見た目も新緑の土地から一気に殺風景な岩肌から始まり、 登山道へとたどり着く前に99段の岩の階段が立ちはだかる。
 だが、その99段はまだまだ序の口であり、その後は大体半日以上はくだらない距離の登山道が続く……。 無論、標高の高さゆえに空気も薄く、息苦しさが続く。 緩やかな傾斜と段差が続く山道故に休憩を挟まないととてもではないがヴァナスティアに辿りつくことはできない。
 だが――それらを克服しても、初見にとっては絶望とも言えるような大きな壁が最後に待ち受けていることを忘れてはならない、 それは……ヴァナスティアの町へと通ずる最後の108段の階段である……。
 さて、そんな行程に対し、一番最初に悲鳴を上げることになるのはだーれだ!?  但し、スティアはいつも寝ている体力バカなので1番に到着しているものとする。いや、知ってっし。