アーカネリアス・ストーリー

第6章 伝説との邂逅

第155節 犯人の特徴

 そもそも今回の件、最初から犯人の特徴が絞られているのである。
「なに、大したことではない。 スクライトも言っていただろう? 魔法の制限をかけているのはクロノリアだけだということをな――いや、そうだったのだな。 当時はそれこそ魔物の狂暴化も徐々に懸念されていたことだった、だからこの状況に終止符を打つべく魔法の力を解放しようと考えたのだ。 もちろん、手段としては安易であることは百も承知だ。 だが――ほかに打つ手としてベストと言えるものがない以上はそれに頼るしかないのもまた事実。 だからクロノリアに働きかけることを考えたのだ」
 これは、流星の騎士団がクロノリアから戻ってきたときにクリストファーが語っていた内容である。 そう、お気づきだろうか?
「魔法の使用の必要性について、魔物の狂暴化が引き金となっている―― 確かに、魔法を使うような異形なる存在、そしてあからさまに何者かの手で作られた獣の存在―― 何者かがこの世界の”フォース・ゾーン”を下手に弄ったからこそ起きているのが今の世界の状態……」
 城の中のとある場所にて、スクライトがそう言うとライアが訊いた。
「それじゃあまるで、魔物の狂暴化までが操作されているみたいじゃない?  その”フォース・ゾーン”というのを弄って? そもそも”フォース・ゾーン”って?」
「力の活発さを示したもの……あんたそう言ってたわよね。 いわゆる力が……魔法なんてものはもちろんのこと、 あらゆる動力・慣性や摩擦といった力という力のすべてが一切何も働かない ”完全理想世界”というものを”フォース・ゾーン・レベル”を0に……つまり、 このFz.Lv.0を基準にしてどのぐらい力が活発なのかを示した世界の図……つまりそのゾーンが”フォース・ゾーン”なんですって。」
 ネシェラがそう説明するとスクライトは嬉しそうに言った。
「完結にありがとう!」
「あんた説明すると小一時間かかるからね。」
 そんなのヤダ。
「つまり、そのレベルが上がっているってこと?」
 ライアはそう訊くとスクライトは得意げに答えた。
「まあ、そういうことだね。 もちろん、Fz.Lvが上がる背景には理由がある、まさに魔法の力で世の中を乱すといったこと、 これがまさにそのままそっくり当てはまるってところだろう」
 魔法か――ライアは悩んでいた。
「私たちのせい? 私たちが使い始めて――」
 スクライトは首を振った。
「いやいや、それは違う。 ちょっとぐらい魔法を使った程度じゃあ世の中を脅かすほどには至らないよ。 それに、問題は風雲の騎士団の代以前からも始まっていた―― 人一人が何をやったところでこれはそこまで問題になることではないね」
 するとそこへ、アルクレアがやってくると――
「やあ、きたね。さてアルクレア、問題だ。 キミはあの時――クロノリアのミッションの後にクリストファーからとあるミッションを受けることになった。 だけどその際、キミはクリストファーとの話し合いで何かをさせられていたハズだ。 さあ思い出せるかい? それが何だったのかを……。ヒントはそう、この部屋で起きていた出来事だ――」
 それだけのヒントで思い出せれば世話ないのだが、スクライトは――
「さて、これなら思い出せるだろう――」
 と、なんと、彼はアルクレアの額に魔法を――
「こっ、これは……!?」
 アルクレアは周囲を見渡すと、そこにはかつての光景が!  自分の目の前にいるのはクリストファーだ!  それに隣にいるのはエルヴァランとレギナス、そしてティバリス……?  さらに扉のほうをよくよく眺めてみると、 当時は気が付かなかったが、確かに誰かの影が――やっぱりディアス?
 そこへ本物のディアスが現れ、アルクレアの様子を見ながら当時のことを思い返していた。
「そうだ、今になってみればわかる――彼らは使用していたのだ――」
 すると、
「よし。では次、アルクレアだ――」
 クリストファーがそう訊くとアルクレアは意を決して――
「はい、わかりました……”コキュートス”!」
 アルクレアは強力な吹雪魔法を唱えると、そこにある何かが凍り付いた!
「よし、いいぞ……もう少しだ――」
 クリストファーはなんだか興奮したような様子だった。
「そう……聞きなれないワードの数々、何を言っているのかわからなかったが――」
 ディアスはそう振り返っていた、まさかそれが魔法の詠唱とは、 気が付いたのはつい最近のことだったのである、知らなければ無理もない……。
「これでいよいよ完成する――大いなる”アーティファクト”の力が手に入れば――」
 なるほど、この時に”アーティファクト”というワードか。 そんな発言にティバリスが訊いた。
「ん? おい、クリストファー! なんでそんなもんが必要だってんだ?  あんたもしかして、妙な真似を考えているんじゃあねえだろうな……」
 今のロイドとサイスの関係にそっくりなティバリスとクリストファーである。
「ん? おおう、すまぬな、今後訪れるであろう多くの魔を斃すための備えがどうしても必要なのだ――」
 ティバリスは呆れていた。
「相変わらずわけのわからんやつだ。 ったく、しゃあねえな――俺らもそのための力を得ることになったわけだし、 俺もまた、当時よりも幾分か魔力が上がっている、今後の備えのために力を得てきたからな。 で、早速なんかしねぇといけねぇだろ? どうすりゃいい?」
 そう言われてクリストファーは悩んでいた。
「そうだな……とりあえず、今後の備えとして”アーティファクト”を探してはもらえぬだろうか?  なぁに、既に手は打ってある、お前たちはその通りにことを成し遂げてくれればそれでよいのだ……」

 アルクレアの記憶していたその一部始終を垣間見た者たち、流星の騎士団はその場へと一堂に会していた。
「何だったんだ!? 今のは……どうして魔法を!?」
 アレスが言うとネシェラはその魔法を使っていた場所へとやってきて言った。
「恐らくだけど、”精霊石”と呼ばれるもの――」
 精霊石だって!? 何人かは驚いていた。
「ちょっとまて、まさか、フォース・ゾーンを弄ったってのはつまり――」
 ロイドはそう言うと、さらに続けた。
「いや、それしかねぇな……そもそも犯人足りえる連中は俺らのようなエターニスのライト・エルフのいずれか…… つまり、容疑者はこの時点で俺やネシェラ、サイスにスクライト、ランブルやセディルとエンダリフと……」
 ネシェラは頷いた。
「そう、あとはお父様とクリストファーね。 世界に魔物によって脅かす手段を知っているのは基本的にはエターニスのライト・エルフしかいないわよね。」
 そう、ゆえにそもそも容疑者ははなっから絞られているのである。
「だが、俺も知っているのはせいぜいその程度だ、やり方までは知らん。 とにかく、エターニスのライト・エルフなら……世界の管理者のいる地に近しい存在であればやれる、と――」
 ロイドはそう言った――盲点だった、まさかそんなあっさりとした内容で容疑者を絞れるとは。 そして、ネシェラは話を続けた。
「そのうえで、ここから容疑者を絞ることにするわね。 言ってしまえば全員アリバイなしなんだけど、そうなると残りは”動機”しかないわね。」
 そもそもやり方は知らんという発言もあるが、それは置いといて。