アーカネリアス・ストーリー

第6章 伝説との邂逅

第154節 伝説アーティファクトへの認識

 話は戻り、リアントスは訊いた。
「そういえば”アーティファクト”の伝説とやらについてだが、ちっと心当たりがあるやつがあってな――」
 ネシェラは頷いた。
「私もふと頭をよぎったのよね、風雲の騎士団でしょ?」
 リアントスは頷いた。
「ああ。 単なる偶然かもしんねえんだが、エルヴァランが赴いたドミナント、 レギナスが赴く予定だったリオルダート、 アルクレアが赴いたアルティニアと――」
 ネシェラは頷いた。
「お父様はアーカネルに赴いていた―― でも、それが南東のミストガルド山にあるとされているそれを探すためと考えれば――説明が付くわね――」
 リアントスは考えた。
「でも、ライアやアムレイナお母様の話だと、 エルヴァランはレギナスを追って行ったんじゃなかったか?」
 ネシェラは首を振った。
「言ってしまえば”アーティファクト”なんて伝説のもの、 そんなものの話があったとて、探す手がかりなんてあってないようなものよ。 そもそも存在自体が夢物語のようなもの――」
 というとリアントスは頷いた。
「まあ……確かに、うちでは”黄金の鍵”なんてものを管理しているとは言うが、 それが別に伝説の”アーティファクト”だからって特に何がどうって言うものじゃないからな。 だから俺も実際にセレイナの奇跡を目の当たりにするまでは信じてすらいなかった――。 つまり、探す側としてはもちろんだが、依頼した本人でさえもそこまで本気にはしていないかもしれないな――」
 つまり、”アーティファクト”を探すという動機自体がどうでもよかったということか―― ネシェラは考えた。
「”アーティファクト”の伝説自体はいろいろとあるけどね。 もし、本当に目的があって探しているとするならば、調べなければいけないわね――」

 ロイドがその話に加わった。
「だとすると、なんで根クリストが”アーティファクト”を欲しがるのかが疑問として残るんだけどな。 言ってもやつはエターニスのライト・エルフ……そこらへんは俺らと同じ考えのはずだ」
 リアントスは考えた。
「人の世で作られたブツに手を出すほどの考えはないってか?  それが例え”黄金の鍵”だったとしても――」
 そう言われてロイドは考えた。
「そういえばそんな話をしたこともあったな」
「それに、”アーティファクト”ってそんな話だけじゃあないのよ。」
 ネシェラはそう言うとロイドは訊いた。
「そうなのか? てっきりそれだけだと思っていたが――」
 ネシェラは頷いた。
「そう……実は”アーティファクト”の可能性が出てきたのは昨日今日の話じゃないのよ。 ディアスがね、クリストファーの件で思い出したことがあるって言うから聞いたらそんな話が出てきたのよ。」
 なんだって!? ロイドは身構えていた。
「野郎……どういうつもりだ――」
 ネシェラが言った。
「そう――だから、ただの目くらましの可能性がありそうなのよ。 つまり、首尾よく取れればそれはそれでよし、取れなくたって別にそれはそれで問題なしっていう――」
「んだよ、つまり探して来いって言っただけか――」
 ロイドはつっけんどんに言った。セレイナは話をした。
「エルヴァランさんはレギナスさんの死の真相を探る件とは別に何度かドミナントに赴いていたようなのです。 それはやっぱり”アーティファクト”の件だったんじゃないかと――」
 ロイドは悩んでいた。
「そもそもなんで突拍子もなくディアスの口から”アーティファクト”の話が出てきたんだ?  それは訊いたのか?」
 リアントスが言った。
「言っても”アーティファクト”だからな、そんなものがこの世にあると言われたところで普通は誰も信じないだろうな。 ディアスもその程度の認識だからそんなに記憶にも残っていなかったらしい。 ただ、その話の直前に伝説の魔法の話というのがあったようだからな、その時点でお腹いっぱいだったんだろ?  だったらその気持ちは俺だって察してやるぜ――アーカネリアスの認識じゃあそれが精一杯だしな」
 それもそうか。さらにリアントスは話を続けた。
「でも、人の世ではオカルト扱いなのに精霊の世でも扱いはさんざんって―― ”アーティファクト”ってのは一体誰得なんだ?」
 さらにそのうえ管理している家からも扱いがイマイチと、その扱いは酷いもんである。
「当時の人たちの自己満足で作ったのが最初よ。 当時はこの世界に何かしらの影響を与えるために大真面目に作ったのが始まり―― だけど、後の使い道や処分の仕方については特段何も考えられることもなく、 ただただ処分に困るだけの困ったちゃんでしかないというのが”アーティファクト”よ。」
 ネシェラはそう説明した、あくまで当時のため――
「それほどの大きな力を持った代物があるということはある意味権力の象徴みたいな扱い方をされることもある。 つまり、使い道云々に関係なく、存在しているだけで価値のある代物っていうことになっていくわけだ。 当然、そうなるとそれが欲しいというやつが続々と出てくる――”アーティファクト”を巡る戦争が起きるって構図だな。 だが、今ではそんな争いが起きていないから、単に忘れ去られた存在でしかないってのが今のアーカネリアスの世の定説ってところか」
 なるほど――ロイドのその説明に対してリアントスは納得する一方で、セレイナは悩んでいる様子だった――
「そんな――みなさん、どうして力が欲しいのでしょう……」
 この子にこんなこと言わせたらダメだよ。

 リアントスは改めて訊いた。
「ところで――みんなこの一連の事件について根クリストファーが犯人だと思い込んでいるようだが、どうしてだ?」
 ネシェラは頷いた。
「一連については正直どうでもいいところがあったのよ。 よく考えれば別に何のこともない、最初からクリストファーが犯人ありきということでしかない話だったのよ。」
 なんだって!? リアントスは驚いていた。
「要するにだ、その前提の上で、これが根クリストの仕業だ、これはそうじゃない―― そう考えるだけのことでしかなかったってわけだ――」
 その話を聞いてリアントスは唖然としていた。
「なるほど――そいつは……そうだとしか言えねえな……」